第72話 アトル/道化の窟(3)

 第1階層はほんとうにゆるく、ちょっと強いスライムが出る地帯だった。

 いや、適性レベル100な時点でちょっとではないかもしれないが。バフというバフを全部盛りしているおかげで先ほど買ったナイフで難なくサクサク狩ることができ、これは熟練度とか技巧とかにまったく関係ないのでは?と思いつつクエスト「蒼の魔石30」「蒼の粘液2キロ」をあっという間にクリアする。ついでに指輪:ミラージュ(レア度★★★)というものをドロップした。レア度表記のあるアイテムというものを初めてゲットしたので、喜んでアオくんに見せたところ、レア度は10段階まであるそうで、この先どんどんでますよ、といわれてちょっとシュンとした。

 護衛というなのフォロワーたちはほぼ私が戦っている後ろでピクニックしているような状況で、バフ切れのタイミングでちゃんとまたバフかけてくれる時点で、なんかこう、昔やっていたオンラインゲームで時間でバフ管理をする支援職を思い出した。

 ちなみにういは自分がある程度戦えることを自覚してか、スライムをおちょくって遊んでいる。そもそもダックスフンドは狩猟犬、カニンヘンダックスフンドの「カニンヘン」というはウサギであり、ウサギ狩りダックスなのである。ういにとってもバフが強すぎて無鉄砲な動きを多少しようが問題ない、怖いもの知らずな動きでしっぽもピンと立っている。

 しかも走り回っていることからういと私、どっちのMPもガンガン回復していく。


 アトルの最低ランクのダンジョンがこのランクということはそこまでの人たちはどうするのか、ときいてみると志摩曰く基本大人が子供や初心者をつれてパワーレベリングで50前後までレベルを上げ、その後100までの間は外のフィールドで狩りを行い、100前後でやっと道化の窟デビューとなる、とのこと。


 ほかの冒険者さんの迷惑にならない節度を守り第1階層でやらなきゃいけないことを完了させ、第2階層への降り口を見つける。足元のパネルの色が違い、そこに全員で立ち真ん中の色の違う出っ張ったパネルを踏むと、下の階層へエレベーターのように、降りていった。

 そのエレベーターから降りると、足場は自動的に上の階層に戻っていった。下の階層から上の階層に向かう場合は、上に向かう足場を探さなければいけなものだが、道化の窟では降りるパネルの近くにあるため、探索難易度が低い。

「道化の窟はまだ、普通の様相をしているからいいんですよ。あって動く足場かワープ程度なので。」

「地下なのに謎太陽とか、謎砂漠とか、他のダンジョンにいくとあるので、楽しみにしててください。」

 楽しみというか、謎砂漠とかういの腰に悪そうだし、低空飛行しているんだから砂とか吸い込んじゃったらかわいそうだから足場つくるとか、色々対策を練ってあげなきゃじゃないか。

 

 第1階層が完全に石づくりかつ、何故か明るかったのだけれども、第2階層に降りると、一面にヒカリゴケの生えた石が迷宮を形成している。そして湿度は高いけれどべつに1層目と同じく日光があるわけではないのにどういうメカニズムなのだろうか。

「この苔とか採取してもいいの?」

「ダンジョン産でドロップではないものは持ち帰ったら一度冒険者ギルドに申請を通さないといけないので、面倒でなければどうぞ。因みに食肉加工も、ギルドクエスト納入分以外のアイテムの買い取りも冒険者ギルドでしてもらえます。ただ、明らかにレアなもの、流通が限られるものであれば、商人ギルドに持ち込むことは可能です。ただし、商人ギルドはふっかけられることもあれば、買い叩かれることもありますので、自分の目利きに自信がない間はあまりお勧めしません」

 エニタイム鑑定団…

 

 後先ほどの話になりますが、レア度5以上のアイテムは冒険者ギルドでも商人ギルドでも買い取りが禁じられていますのでご留意ください。自分のドロップ品であれば自分で使用、誰かに譲渡する際は冒険者ギルドを介しての譲渡契約が必要となり、盗品は本来の性能の十分の一に制限されるという特典がついてきますので、そもそも出所が知れないものは手にすることは難しいでしょう。

「じゃあ私がさっき市場で買った短刀は」

「ノーレアだから問題ないと思いますよ。ジャンク品扱いだとおもうので、ガンガン使い込んでください。ただ、チーズさん合成スキル持ちなので、冒険者ランクが追い付けば、アイテムにレア追加は可能となるかと」

 もともとがそんなに強くないアイテムであれば、早々に限界がくるらしいけれど。


 この階層はヒカリゴケの明るさのみであり、全体的に薄暗い。

 「ところで全く何もいないきがするんだけど」

 「この階層はガイドによるとキノコのモンスターがいるはずですよ、出現させるには火魔法等による松明、または、光魔法によるライティング」

 「私の雷じゃだめじゃなやつ」

 熱が強くて燃えてしまう。お付きのフォロワーたちは自分で解決してというそぶりだ。


 どうしようかと思案していたところ、ういが私の顔をじっとみたとおもったら、ワンっと小さく吠える。

 

 そうすると、なんということでしょう。ういの首回りに光の環が現れ、ピカピカ点滅する。

 神聖魔法と光魔法、関連性があったのか?そしてあ、これ、地元で薄暗い時間に散歩するときに安全のために首輪に重ねてつけていたゲーミングわんこ!

 ういがピカピカ光ったと同時に今まで姿も形もなかったキノコモンスターがあらわれた!すごい私のお犬様賢い!

 姿さえ現せばこっちのもの、手あたり次第買った刃物のなかにキノコナイフみたいな形のがあったのでそれで切りつけるとシュバっと消えた。そしたら次々ターゲットキノコを見つけていってくれるので、次々狩る。

 あらかた狩りつくしたところでういは褒めて!と顔をなめてくる。もしかして私が動物会話のレベルをあげるまえに、ういが人間言語を覚えているパターンでは…


 なお、会話の相槌を欠かさないアオくんと志摩、永長は私の後ろを適度にバフをかけながらお茶をのみ、お菓子を食べ、ニコニコ笑いながら遠足のようについてきているのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る