第211話 密室ノ会・祈(4)
シラタマの転移ゲートに着いて【アンチウィルス】魔法を展開し、それを職員さんが確認してくれたうえで解放。ミルクスタンドホッカイドウに出向いた結果、誰もいなかった。
マジで誰もいなかった。
いや、連絡もとらずに来た自分も悪いのだが、正直、締め出された子供みたいな気分になった。しかもここで電話なんてしようものなら、迷子感があふれかえるので、独りで散策をしてみることにした。
「あまり一人で動くこと、今までなかったな」
実はこの国が母親の故郷だ、という認識はあった。でも、物心つく前にもういなかった両親については、今の自分より幼い状況で両親を失った姉からは聞きづらかったし、記憶も定かではなかった。
姉のおぼろげな記憶の中では父は日記の習慣がなく、母は【ステータスボード】に記録していたようで、今となっては入手のしようもない。だから、情報も全然ないし、なにか親族の情報、といっても全くわからないので、よくもまあ僕も追い詰められていたとはいえ、シラタマ国を頼れとか口走ったものだとおもう。苦労するのが目に見えてるじゃないか。
ミルクスタンドホッカイドウが見えるあたりのお茶屋で三色団子と煎茶をいただく。最悪宿をとって泊まればいいかーっとおもいつつ、そういえば未成年だからさすがにお金を持っていても口利きぐらいは必要となるからさすがに戻ってこなかったら連絡しなきゃだめかな。そんなことを考えながらお品書きに目を通すと、お汁粉の文字を見つける。そんなに歳も違わないのに「おかあさんに教えてもらった!」といいながら姉がつくってくれたことを思い出す。両親の記憶がない弟への想いってどんなものだったのだろう。
「家族への愛情が初めて他者に向いたとおもったらこれだもんなあ…」
あっという間に団子を食べ終わり、お代わりでお汁粉をもらう。
ニパ村で姉の髪の毛の色が変わることはなかった。
一気に呪いの負荷をうけたための変化とおもったらどうだろう。
「もしかして、向かいの店にいらっしゃったことありました?」
チーズさん立ち戻ってくる気配もいまのところないしぼやーっと考え事をしていたら給仕の女性に声をかけられた。
「はい、たまにですが、お手伝いしています」
「やっぱり!」
手を合わせてうっとりした顔をしたとおもったらマシンガントークで
「この国って魔力の高い人が昔は多かったんですけど、例の疫病の流行からめっきり減ってしまって。あの美しさもそうなんですけど!!!!!突然王命を受けてドラゴン討伐達成しているとか、魔力、当然のごとく強いんですよね。正直神すぎません?!もう、会いに行けるアイドルですよ!仕事の時間とかぶるのでなかなかお店にいけないんですけど、たまにご近所へおすそ分けって謎のお菓子くれたりして、もう…最高…」
なんかうっとりしていて、これはこれで大変だなあ、あの二人も。ドラゴン討伐の話を天くんの前でされると厄介ではある。まあ、本人は薄々察してきてはいるようなきはするけど、天くんどころか最近天くんの軍門に下った閃閃と閃電のこともある。一般的にドラゴンは厄災の対象、大っぴらに言わないに越したことはない。
話している間に食べ終わったので、お代を払い店を後にする。
「またごひいきに~」
そう言い、手を振ってくる。
「ああ、暇だな」
地の利のないところでうろうろするのは危険。もういっそ
「予定が早く終わってしまったので店の営業時間内だから連絡もしないで戻ってきたのですが、ちょうど定休日かつ外出中だったみたいで。いま小さな子どももいるので水を差したくなくて…」
「ああ、君は特例持ちか。しかも年齢的には子どもだろう。その若さでかなり力をもっているんだね。本は好きかい?」
「はい、小さいころから親しんでいます」
「では図書館でもいくかい?利用許可を書いてあげよう」
受付にいた文官さんが気を利かせてくれて、この先1週間使えるパスをくれた。今から2時間後、16時ぐらいになったらいい加減一度は連絡いれておこう。
案内された場所は、シラタマ・サクラ王宮の内部だった。首からビジターパスを下げ、文官に案内されながら、見慣れない建築様式の中を歩く。自分が入ったことがある王城は2つ目、調度品もへったくれもない、内装が全部売り払われたようなナット城。そしてここ、母の故郷らしいシラタマ・サクラ王宮。あまりきょきょろしてはみっともないので、おとなしくついて歩く。
「
「はい、王に協力された救国の勇者さんに縁がありまして、特例の許可をいただいたので、初めてですね」
「でもここの空気は優しい魔力に満ちていて気持ちがいいです」
「そうですか。その年齢だとまだギルドには…」
「あと3年です」
そう言うとその文官はそっと微笑み「そうですか」と、優しい気持ちが伝わるような言葉をかけてくれる。
もしかして、何か母親について知っているのか、と聞きたくもなったけれど、今はその時ではないと思い、言葉を濁す。
実際よくこの国の人たちを見ると、自分たちと同一の民族性を感じる背格好や顔立ちを感じてしまう。これは確かだった。
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