第212話 密室ノ会・祈(5)

 案内された図書館は、歴史書から近代書まで、几帳面に分類され、陳列されていた。

 連れて来てくれた方の名前はオサムさんと言った。何かあれば連絡を、と【ステータスボード】の連絡先までくれた。これは僕が未成年だからだろうか?ありがたくいただく。

 そして司書さんに引継ぎされ、この図書館の利用方法を教えてもらえる。レア書や禁書でなければ許可を得たうえで複写も可能、という至れり尽くせり。

「禁書もあるんですね」

「あるよー。でも、読める人が限定されているらしく、素養がないとただの白紙の本。複写をすると重罪となるので気を付けて。まあ、その辺においてはいないんだけど」

 厚めの眼鏡をかけたその司書は、髪の毛をみつあみで大雑把にまとめ、着物は暑さのピークを過ぎたためか、蜂蜜色の単衣ひとえを着ている。

「失礼を承知で聞くけど、君、シラタマ国の縁者?」

「母が。父は北方なんですけど」

「なんか、気配と顔つきがこの国の人間っぽかったから。そういえば縁もゆかりもないっていってたけど前にドラゴン討伐して山を解放してくれたSランク冒険者さんとかモロにこの国の人間みたいな顔つきだったな」

 それ、あにさんだ。


「この国の人間はこの国が大好きで、この国の文化を愛してくれる人も大好きだ。君も好きになってくれると嬉しい。見たところ図書館を案内されてついてきちゃうと言う事は本好きと理解してよいんだね?」

「はい」

 随分とサクサクと言いたいことばかりいってくるこの司書さん。主語はないし、会話の内容が取り留めなく吹っ飛ぶ。これ、師匠と一緒だ。


「はい、図書館のマップね。現代書、歴史書、料理書、物語、倫理書、医学書、魔術書、まあなんでもある。この辺のあるのはまだ最近200年ぐらいの本で、それより古いのは地下の書庫とかにあるから、なにか興味のあるジャンルとか作家とかあれば探すし、気軽に声かけて。あ、君は1週間の許可だっけ?1週間だったら何冊読めるだろうね」

「それって、内容や厚さ、読みやすさによりますよね」

 そう言うとその司書はニカっと笑って「正解」という。歯並びがよくてピカピカした歯が見えた。

 

「ではマップ見ながら回ってみます」

「今日の利用者は君が初めてだ。ここは仕事が終わった時間からが賑わう、今は自由に愉しむといいよ。もし家の人とかに通信するのであれば奥のあそこの区切られたブース、あそこを使って。私はカウンターに戻ってるから。しかし君、みどころあるよ。本に慣れている」

「ありがとうございます」

 そう言うと一礼し、入り口近いところから順番に本を眺めていく。そういえば親の蔵書は魔術書と歴史書、そして物語が多かったイメージだ。中にはシラタマの本も少なからずあったのは、母の本だろう。ただ本当に出自に関わるような記録は全くなかった。本人に聞くことはできなかったけれど。

 

 本の背表紙の文字を眺めながら図書館内をどんどん練り歩く。とりあえず眺めながら練り歩き、興味を抱く本が目に入ったのでピックアップ、5冊ほど手にとった状態で机に置く。

 座った状態で右側のデスクの奥側に【ステータスボード】を展開し、文字打ちができるキーパッドをその前に展開。その横には電子メモをセッティング。完全な読書体制だ。

 持ってきた本のタイトルをキーボードで記録に打ちこみ読書を開始。

 タイトルは「まんが 白魂の歴史」、全20巻。とりあえず子供向けの入門書から入るスタイルだ。難易度を徐々にあげていけば理解度もあがる。16時ごろにタイマーを設定、今から2時間ぐらい、大体5冊いけば御の字といった読書スピードを自負している。

 

 ◆


 この国の成り立ちは、大体3,000年ぐらい前から記録が残っているようだった。記録好きの国民性なんだろう、割となんというか、細かい。入門書としてかみ砕いてもこれだけしっかり教育素材として成り立っているということは、すごいことだなって思う。凍結魔法によりほぼ判読不可能になってはいるけれどナットもかなり歴史書がしっかり残っている国ではあったけど、肩を並べるぐらいしっかり残ってる、と思った。

 ただ、一時の地下資源バブル、後先考えずに使い潰して大没落した国と一緒にしてほしくない、とか言われてしまうかもしれないけれど。


 その国ので紡がれた物語や文化を知るにはまず、その国の歴史を学ぶことが一番解像度があがりやすい、と思っている。実際シラタマ国のことは凍結魔法で忘れていたわけで、しかも、親の遺した本は読んではいたが、それほどの理解には及んではいなかったのはその国の背景や文化への造詣が低すぎるからだ、と思った。

 実際今読み始めた入門書を読むだけでも昔とりあえず読んだ親の本の理解度があがったりする。いっそ読み直したくすらある。


 軽くメモを取りながらどんどん読み進めていたらタイマーが点灯する。そろそろチーズさんたちも家に戻っただろうか、と通信ブースへ赴き、あにさんへ電話する。


 1コール、2コール、3コールで繋がる。

「アオ、どうした?」

「シラタマに戻ってきました!」

「すまん、もしかして締め出しちゃったな」

「いえ、今日店休日だったんですね」

「今東の森で天もつれて虫取りにきてたんだ。あと1時間ぐらいで戻るから、時間潰してて」

「了解です。今ちょうど王宮の図書館に通してもらえたので、あと1時間ぐらいしたら戻りますね」

「……お前もなんか、何気にすごいな。どうやってそんなところ……」

「転移ゲートの職員さんの紹介で入れました!」

「なるほどわからん!じゃあ、またあとで」


 1時間か。どうしようか、この歴史まんが続きが気になりすぎる可能性あある、と思いカウンターに向かう。

「この歴史まんが、複写できますか?」

「え、これ気に入ったの?」

「いえ、この国の本を知る前に歴史を知っておこうかと」

 そう言うと司書さんが目を丸くし、続いてニヤっとする。

「よし、無期限で許可してあげよう。いつもなら無期限許可を与えることはほぼしていないのだが、そう言う読書の仕方であれば頭にはいるまで常に手元においておきたいだろう。本当に特別だぞ?」

「ありがとうございます!」


 そう言うとあっという間に許可証を作成、【ステータスボード】にシラタマ図書館という項目が発生、その項目内に「まんが 白魂の歴史」、全20巻がいつでも読めるように、データがダウンロードされた。そしてそのデータの許可者に「シラタマ・サクラ図書館館長 幸子」とある。

「お名前、幸子さちこさん、というんですね」

「おう、サチコじゃなくてコウコな。よろしくね、ええと」

碧生あおいです」

「うん、アオイくん。また明日。一応土曜日、日曜日は休みだからきをつけて」

「はい、ありがとうございます。また明日伺います」


 そう言い、手を振り別れ、ミルクスタンドホッカイドウへの帰路についた。

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