第213話 密室ノ会・祈(6)
その日は朝から騒がしかった。
朝から虫討伐クエストを冒険者ギルドの職員のカナトさんが、S級冒険者である兄と魔法使いさんに持ち込んできた。最近シラタマ・サクラの冒険者ギルドは兄たちがいるときに、他の冒険者ではこなせないクラスのクエストと、命の危機をはらむクエストを持ちこみという形で依頼をしてくる。それの担当がこのカナトさんという男性。
突然ランク上のモンスターと遭遇したこと、回復魔法を受けるまでの時間がかかりすぎてしまったがために左足を欠損、義足を装着している。今はギルドの退役障碍者雇用枠により雇用されている、元Aランク冒険者だ。面倒なのか、白髪交じりの長髪を後ろで一本にまとめ、そこそこの顔面偏差値で無精ひげあり、服装は甚平のような服を着ている。ギルドの制服は持ってはいるが、カッチリしているので着るのが面倒なようで、ラフな格好で登場している、と兄から聞いた。
「女と子供が増えてる。お前の嫁と子か?」
「なに適当言ってるんですか、妹と弟ですよ」
「なんだつまらんな」
そう言いつつカラっと笑う。よく漫画にいるいい感じの傷持つ中年みたいな人だと思った。
「今日持ってきたのは東の森、
「いや、今日営業日だけど」
そう兄が言うとなれなれしいのか何なのか、圧をかけてくる。兄に圧かけてる人なんて初めてみたんだけど。
「お前たちが行ってくれないとこの国の食生活に影響がでる可能性がある。イネ科が食い荒らされるからな」
稲好きなのかこの世界のトンボは。とか明後日の事を考えながら兄とカナト氏の話を聞く。まあ、この国がダメージを受けるような虫の害があれば、こっちも困る。基本売り物が嗜好品であるため、本当に生活に困られると商売あがったりになるので大体協力してきたらしい。ただ、なんとなく癪なので一度は文句を言う、という。
「ねえ、そのトンボってどんな大きさかな!」
「お、少年。興味あるのか?」
「あるある!」
「そっかそっか!……なんかこの子、見た目の割に言動幼くないか?」
そう言われると兄はとっさによくわからないごまかしをした。
「成長中だから!ねー天!」
「ねー!」
まあ、天くんが気にしてないなら、なんでもいいけど竜の尾を踏むみたいなことはやめてもらいたい。
「なんでもいいや。とりあえず、頼んだからな。クエストはお前の【ステータスボード】に投げとくから、確認しておいてくれ」
「そもそもさ、こっちの連絡先知ってるんだからお前別にここにきて業務妨害する必要なくないか?」
「そんなの運動不足解消に決まってるだろ!このぐらい付き合えよ!事務仕事ばっかりやってると体が疲れるだよ!」
「それはそれ、これはこれ。営業妨害これ以上するなら追い出すぞ!もうすぐバイトが来る、邪魔だけはするな本当に」
「まあ、用事も済んだから帰るけどよ、あと3日もすればトンボどもが人里に降りてきそうなんだ。早急に頼むぞ!お前たちにしかできないんだ」
「え?!私にも関係してたんですか!?……仕方ないですね。ユウがやるっていうなら付き合いますよ」
何故か大きな石から切り出されたようなキラキラして重そうな杖を磨いていた魔法使いさんがわざとらしくそんなことを言う。そもそも兄が窓口になっているだけで、依頼は確実に魔法使いさん、依頼主の認識的にはバーターだよ。
あまりに馴れ馴れしくてひやひやするが、兄からみて目測10歳以上上の男に兄は気に入られているようだ。一体なにが良かったのかわからないが、なんかまったく悪意は感じられないうえにじゃれたい感じがあふれている。兄はめんどくさそうにはしているものの無下にはしていない。それはそうか、このテナントはシラタマ国からの貸与、下手はうてないのかもしれない。いや、そうかな?違うかも。
「じゃあ、俺はギルドに帰るから何かあったら連絡くれ。またな!」
言いたいことだけを言って帰っていくオッサン。兄は営業前からスマイルが消えている。
「……明日行くか、面倒だけど仕方がない」
「トンボ討伐!僕がいっぱい倒すから見ていてね、ユウ兄ちゃん」
「お前も行くのか!そうか!じゃあ競争するか~?手は抜かないぞ~!」
「やったあ!!!」
天くんがキャッキャはしゃいでいる。兄といいアオくんといい、天くんをあやす才能がすごい。私なんて今に至ってどうもそこまで楽しそうにさせることはできない。
我ながらこの天真爛漫大魔王をよくもまあナットから無事にシラタマに連れ帰れたよ、って思うぐらいのパワーがある。兄が何かにかかりきりになると、私がメインで相手をしてあげることとなるけれど、まだ、アオくんみたいに楽しいものを提供することが出来ていないのも口惜しい。
「じゃあ貰った資料共有するな~。営業終了から2時間後、ミーティングな」
そう言うと【ステータスボード】上に新着マークが付き、連絡メールっぽいところにある同メールが到着した。
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