第84話 シラタマ/刻の庭(7)

 温泉旅行満喫2日目。

 冒険者ギルドでその事件は起きた。

 いや、事件と言ってよいのか事故といってよいのかはわからないが。


 二人それぞれクエストボードに手をかざした時点で出た表示が【実績解除】。

 

 顔を見合わせ、苦笑いする。もしかしてこれが妹が言っていたショートカット。しかもここの冒険者ギルドは派出所であるがために、該当するランクまでのランク上昇をさせる権限のある職員がいないという。

 紹介状を書くので、逗留期間が終わり次第、本国に向かって実績解除の手続きをしてほしい、と言われた。どのみち調理人ギルド他、所属できるギルドすべてに対して登録を行おうとは思っていたことから、別に向かうルートについては異存はない。


 昨日は温泉の後に部屋食、はしゃぐノリを横目に本当にゆっくりした。

 因みに温泉は貸切を含め4か所回った。


 ◆


 「皆様、ご協力ありがとうございました。この先の旅も、お楽しみください。なお、このままお帰りになられる方以外は皆様一度本国『サクラ』に転送させていただきますので、そこから各々の旅、買い付け等を行ってください。国外へ持ち出し禁止のものについては手にしたときにステータスボードに表示されますので、そちらの品はシラタマ国内でお楽しみください。」

 万が一持ち出すようなことがあれば、シラタマ国の刑法が適用されますので、お気をつけください。アイテムボックスから国外ものを持ち出すときは防疫魔法だけはわすれずに、忘れると罰金刑、だそうな。

 

 基本的にアイテムボックスに入っているものについては原産国がクレジットされている状態になっているようで、この場合ナットはどのような扱いになっているのかは気になるものの、そのあたりは凍結の魔女の抜かりはないようにおもう。シラタマのもの扱いになってトラブルが起こるのも勘弁だ。

 どうも話を聞いているとノリとあの魔女さんはこの世界の二大魔法使いに属する伝説の存在になっているようで、こんな俺に連行されてはしゃいでいるような存在とは思われていないようだ。これ、本名登録じゃなくて本当によかった。

 

 転送装置の管轄は王ということで、王がゲートを開いてくれているという。確か妹がダンジョン攻略している国も国内転送装置を王が維持しているといっていたので、王の責務として転送インフラの整備がまあまあ課されている雰囲気。

 よっぽどのことがないと王にお目通しなんてことはないとおもうんだけど。

 

 ないと思ったんだけど。


 『サクラ』へ転送後、冒険者ギルドに行き【実績解除】の手続きをしに行った結果、今、王の間で謁見となってしまった。


「シラタマの冒険者ギルドの最高責任者は王なのですよ。冒険者ギルド初回登録と同時に2人そろってSランク開放となった例は今のところ一例もないので、すごいですね。」

「Sの実績解除はドラゴンですよね。何ドラゴン倒したのか教えてもらえますか」


 思い当たるのはドラゴンの厄災からおそらくはぐれていたファイアードラゴン。大体体長6メートルぐらい、それは、ナットから港に向かう最中に現れた。いや、飛んでいただけだ。

「なあ、ちょっとドラゴンのステーキでも食べるか」

 などと言って飛び上がり、炎から体を守る防御魔法を展開。首を蹴り上げ気づかせたあと、襲い来るかぎ爪を避け首の上から下にかけて刀で一閃、絶命。

 ドラゴン種は絶命しても消滅はしないし、アイテム化もしない。

 そのまますべてのパーツがその場にとどまるようにできているため、食肉とする場合を考慮すると速攻きれいに血抜きしたほうが、おいしいお肉をつくることができる。血についても利用価値があるため、魔法を使い血抜きをし、その抜いた血をタンクに詰め保管する。

 肉も熟成するために妹のフリースペース内倉庫に保管してある。


 原因はあれかー…


 今回の場合、Sランク冒険者のランク開放は手続き上は冒険者ギルドで行えるが、許可を与えられるためには王の謁見を必要とするのがシラタマのルール、とのことだ。

 促され、謁見の間で待機していると、物珍しいためかギャラリーが増えてくる。

 謁見の間、といってもやはり日本っぽいこの国、広間の檀上にお出ましいただくまでの間、壇の正面で待機。


「王のお成り」の一声が聞こえた時点で頭を下げ、王を待つ。

 

 王が歩をすすめ、檀上へ立つと、王からの言葉「面を上げい」が聞こえる。時代劇だった。

 顔をあげると大体20代後半ぐらいの女性が流木に装飾を施した2メートルぐらいある杖を手に立っていた。

 

「ようこそ白魂しらたまへ。この国開闢以来初だよ、お前たちのような突然現れた特異点のようなSランク冒険者たる冒険者は。」

 そう言葉をかけ、首を傾げ目を細め微笑みかけてくれるこの国の王。

 

 これは歓迎のほほえみか、俺たちを利用しようとする微笑みか。

 まあ、大体この場合、経験上後者の場合であることの方が多いんだけど。


『ノリ、そちにSランク冒険者の責務を与える』

『ユウ、そちにSランク冒険者の責務を与える』


 その言葉と同時にステータスボードの【実績解除】のアラートが、冒険者ランクSに書き換わる。

 そして来るんだ本題が。


「ノリ、ユウ。突然だが折り入って頼みたいことがある。」

 ハイ来た!

 無理難題じゃないといいんだけど。

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