第91話 シラタマ/都・サクラ(2)

 俺とノリが王から下賜される店舗と家を、王の使いにより案内されるため、ギルドを後にする。王は一刻先に、ドラゴンの解体で満足したらしく、すでに城へ戻っている。今回随行した未明みあかも刻の庭の上司に報告に戻るというので、お別れだ。 

「この度は本当にありがとうございました。最後まで見届けられなかったのにお咎めがなかったのはひとえにお二人のおかげです。ありがとうございました。」

 深々と礼をしてくる。どちらかというと突然S級とかいう素性の怪しい俺とノリに対するお目付け役だっただけなので、全く問題ないと思っている。未明がいないとそのまま立ち去ることさえ、やりはしないができたと思う。


 城門で手をふられ、目的地に向かったところ、大通りの真ん中、開けた公園沿いにそれはあった。

 ぱっと見木造建築40年。スコシボロイ。

「こちらが準備させていただいた土地と商店、家でございます。築年数から鑑みるに、リフォームをお勧めします」

 やっぱりか~


 結局ドラゴン肉は1体だけもらい、他はすべてシラタマに納めた。

 買い取り価格でこの店のリフォームをし、残りは開店資金としよう。妹はやっと冒険者ランクCに乗り、これから色んな事業に手を出していくだろう。どちらかというと妹が得意とするのは生産だ。妹が生産さえ安定させてくれれば、俺が小売り、飲食店経営等を行えば、復興資金の獲得は可能だろう。そんなことを考えている横でノリはどうも家全体に魔力を走らせている。

「ユウ、ここが新しい拠点になるんですよね。ちょっといじっていいですか?」

「お前もしばらく住むし、自由にしていいよ」

「了解です。ところで、お店の名前、何にします? 」

「俺の故郷の名前を付けようと思うんだ。『北海道』」

「ホッカイドウ、であってる?」

「あってるあってる」


 そう言うとノリは珍しく長い木の幹のような装飾が施された美しい杖を出し、増幅まではいらないんですが巧緻作業なので杖つかいま~すとかいいながら、魔力を家に対して流す。すると見る見る使われている木材は美しく磨かれ、塵・汚れも綺麗になり、その時間、3分。

「私、これ得意なんですよ。店舗部分どうします?」

「とりあえず最初は牛乳屋さんからはじめたいんだよな。イオの負担もあるし。その後パン屋さんに発展させるぐらいでいきたいから、ショーケースを置いてバックヤードを広くとるぐらいがちょうどいいかな」

「あとでイメージ図書いてもらったほうがいいですね。看板もつくりましょう~」

 消毒を行うための機械はないので、ここで加熱処理による消毒を行う。そのための場所、機能を作らなければならない。オーブンもなんだけど。

 などとやっていたら、周りに物珍しいのかギャラリーが集まってきた。

「使いの方、あとはなんとかやっていきますので大丈夫です。家具等取りそろえるときに協力をお願いします。」

 呆気にとらわれ口をあけていた使いの人に声をかける。はっと正気にもどり、家の所有者の変更処理をするのでした!と言い、玄関先にギルド認証用のボードを置き、そこに俺が手のひら認証を行い、手続きを完了させる。

「では、あとで家具の相談にいらしてくださいね。」

 そう言い、俺とノリのステータスボードに名刺のような挨拶状を送信し、頭を下げ、城へ帰還していった。名刺機能、これ便利だな。


 店舗はノリの魔法でとてもきれいになっていた。

「救国の魔法使いと言われる所以なんですが、掃除・リフォーム・復元・維持などの魔法が得意なんですよね。だからこう、厄災とか戦乱の被害にあった土地に出向いて助けるという暇つぶしをしてたんですよね。平時にはあまりにも役にたたない能力なんですけど」

 十分すごいだろ。十分。しかも外に連れて行けば支援魔法のエキスパート、攻撃もできるよ。って。自分を過小評価しすぎというか、興味が凍結の魔女にしかいってないのが問題というか。

「個室利用できそうな部屋が2部屋あるので一部屋ずつ、でいいですよね」

「りょーかい!任せる」

 実は家具は収納にはいっている。だが、せっかくこの国で商売するわけだし、この国の家具を使ったほうが心象がよいし、俺たちも済みやすくなる。というわけで、明日家具を頼んで見に行こうといったあと、今日の宿探しをする。

 俺の異次元部屋を使ってもいいけれど、対外的には家具もない家であるため、怪しまれる行動を避けるためだ。

 基本魔法やら収納やらフリースペースやら冒険者として上位ランク保持者であればあたりまえとなることでも、一般的には奇異に見えたり、羨望の対象となり問題となったりするので、極力同レベルの相手以外には手の内を公表しないほうが賢く生活できる。

 過去、それで痛い目にあったことがあるんだ。あれは、本当に思い出したくもない。

「そういえば魔女さんは拠点が20あるとかいってたけど、お前はあるの?」

「私は1つの拠点だけだよ~。この世界で今起きていることは軽くリアルタイムでスキャンを続けているし、昔諸国漫遊したことがあるおかげでほぼ主要都市は大体ワープ魔法が使用可能。でも今日からここをあわせて2つですね。」


 まじでか。

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