第92話 シラタマ/都・サクラ(3)

 翌日、俺とノリはシラタマでの食品販売における、食品衛生研修会を受けた。この国で商売するにあたってのルールはきちんと確認しておかなければならないからだ。基本知っている内容ではあるものの、この世界ならではのルールもまあまあある。

 そしてその後、家具選びのため昨日の従者の職場を訪れる。

 

 とてもいい笑顔で迎えられたあと、シラタマでは家具文化がさかんという説明を受けながら、巨大なショールームへ案内される。入り口を抜けて正面が和箪笥など収納。左がベッド展示場。奥は照明や応接セット、椅子の展示がしてある。とりあえず家につける照明とベッド、家具、カーテンを買うことを目的としている。

 とりあえずシングルでは大きさが足りないのでスプリングのしっかりしたセミダブルのベッドを買い、リビングにちょうどいいテーブルとソファを調達。そして、ミルクスタンドとして開店するための店舗部分におくミルク色と水色のテーブルと椅子を購入。そして家具にあわせたカーテン、照明、店舗部分はロールカーテンを採用。寸法はしっかりはかってきてあるので、購入をすすめる。

 購入代金は先日上納したドラゴンだ。これだけ家具を買ってもまだまだ預金残高があるので、複数店舗展開が可能となったら、まだまだ買い足せそうだ。そして買った家具は収納袋に突っ込み、帰路につく。配送・設置サービスもあるのだが、俺たちには必要がないためお断りした。


 ◆


 帰宅してすぐ、とりあえず家具の配置をし、カーテンをつけ、人が生活できる場所をつくる。何気に冷気魔石による冷蔵庫っぽいショーケースも店頭に設置。これは設置する魔石により冷蔵にも保温にも加熱にもなるハイブリッドショーケースなので、随分便利なものがあるもんだ。

「ちょっと奥の開けているところに荷物出すよ。」

 妹のフリースペースの生乳タンクの山のうち、3本ほどだす。生乳はそのまま飲むことができないため加熱消毒を行う。


 俺の得意魔法は水魔法と熱魔法。


 熱魔法というのは、火魔法ではない。簡単にいうと、オーブン魔法に近い。というわけで、熱消毒については俺の魔法の特性から、得意分野と言える。

 

 タンク1は低温殺菌

 タンク2は高温殺菌

 タンク3は超高温殺菌


 それぞれの殺菌方法により牛乳の味がかわる。

 とりあえずは成分無調整でつくってるけれど、遠心分離をつかわずに乳脂肪分の分離はイオが魔法開発しているので、言っておけば低脂肪牛乳とか無脂肪牛乳も作れる。飲めるようにした牛乳は再び収納へ戻し、冷やしておく。

「最初の広告として味比べして飲んでほしいんだよね。牛乳無料試飲と焼き菓子サービス、販売として焼き菓子の詰め合わせを作る。あとで市場に行って小麦かそれに類するものが売ってなければ家の在庫持ち出ししたうえで、まず開始して、平行して小麦畑を作るしかない。」


 もうちょっと外貨を獲得したら、ミアカのように、労働が苦ではない郡部のナット国民に協力してもらうのも良いかもしれない。

 そういえば、この国の家具や調度品を確認してみたところ、ナット製の物は見当たらなかったので、アイテムの持ち込みによる復興の前進は無理なようだ。

「じゃあちょっと小麦っぽいものがないか探しにいってくる。お前どうする?」

「私は私の部屋を整えて待ってますよ~食材を見定めることにおいて私はそれほど役にたたないですし」

「いってくるわ~留守よろ」

「はいは~い」


 サクラの市場は、我々の拠点の裏手に商店街があり、その出口を出てから市場がある。札幌でいうと、狸小路を抜けて創成川を渡ったら二条市場という感じだ。市場の中を見て歩くと結構この国の特産と思われる食材が並んでいたり、パン屋さんがあったりする。

 パン屋があるということは、小麦または米粉が取り扱われているはずだ。ちょっとだけ気分があがる。

 市場の中を隅々確認して歩く。小麦…小麦っと。

「あった」

 小麦っぽいものについて、速攻鑑定すると、品質レベルが98%とかいてあり、良いもののようだ。問題は俺の作る菓子の味にあうかどうかだ。あとあれば、三温糖も欲しい。ドライフルーツも自作してもいいが、この国で作られたものを賞味したい。

 そんなウキウキした買いものをし、今後使いやすかったらしっかり仕入れを頼むと店主に交渉してから、家に帰る。

「ただいま~」

 返事がない

「ノリ~?部屋か?」

「部屋です~」

 2階から声が聞こえる。食材は買い物袋というなの収納袋に突っ込んであるので、そのまま2階にあがり、ノリの部屋まで行く。部屋の戸は開け広げてあり、とってもオープンだ。因みに俺の部屋はノリの部屋の向かいにある。因みにまだなんもしていない。

「なになに、内装終わったの?」

 そう言って中をのぞくと、プリントベッドカバー、プリントカーテン、写真たて、ポスとてもきれいにはってあり、プロジェクターまで完備されている。そして、部屋の角、窓際にはどこで手に入れたのか、等身大フィギュアが飾ってある。すべての絵柄・図案は、『凍結の魔女』だ。正直呆気にとらわれた。今まで噂ではきいたことがあっても、そういう嗜好の人が身近にいなかったからだ。そして何とか言葉を絞り出す。

「…好きだね」

「大好きですよ!!」

 満面の笑顔である。

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