第93話 シラタマ/都・サクラ(4)
そこからクッキーの試作に3日を要した。
牛乳の最初のとっつきやすさを考えると、苺フレーバーと珈琲フレーバーはあったほうがいいかな。おなかが弱い人のために無脂肪乳も作ったほうがいいかな。などと試行錯誤をしているうちにノリは勝手に内装をしてくれた。自室があんな感じなので不安ではあったが、さすが仕事は切り離せるようで、結構いい感じの店舗ができあがっていた。
開店準備をしていると、何のお店か、とかいつから開店ですか、と、声をかけてくれていた。
異世界倉庫のおかげで時間を停止し鮮度を保持することができるため、安全な作り置きが可能だからこその今回の開店準備が可能、正直いってミラクルだ。
看板をデザインし、掛け、そして我らはユニフォームを新調した。
白のロングコックコートだ。ノリもついでに同じ服装をしてもらっているが、長身なのでよく映える。
「牛乳がある程度認知されて売れてきたら、今度はソフトクリームやアイスクリームとか加工品を開始するつもりだから、また、試食よろしく」
「もちろん私が一番に食べますよ!」
そんな感じで開店準備から5日、営業許可を得た『ミルクスタンド ホッカイドウ』はオープンした。
因みに新店舗オープンには広告クーポンが付いていて、近隣2キロの住人のステータスボードに開店チラシが一斉配布される。
見て、来てくれるとよいのだけど。
◆
そこから先は地獄だった。
長身ビジュ良男子二人の求心力は高かった。
初日は試食分は開店から2時間で終了、販売している牛乳と焼き菓子も当日分について4時間後に完了。大行列。
2日目、また4時間で終わる大行列。近隣の目が気になるため、整理券を検討する。
3日目、整理券配布により時間に余裕が生まれる。店内フライヤーに「身長が伸びる!」というキャッチコピーを書いたため、成長期の少年度どもが客層に入ってくる。
「ユウ、これ、ソフトクリームやアイスってやってる暇あるの?」
「この調子なら、無理!」
想像以上のお客様をさばきながら、必死に働く。幸いなことに生乳は次々増えていくかつ、品質も保持されている。ミアカの人たちが牛たちを大事に大事に育成しているからこその状態だとおもわれる。本当にありがたいし、牛たちもきっと幸せだ。
「マジで従業員雇用するか。当初から言ってたけど」
「このままいくと体がもちませんね。」
そこでまた、出入口の扉が開く音がした。
「すみません、今日はもう完売…」
そう言いかけると、重ねて元気な声がする。
「こんにちは!先日ぶりです。上司に頼まれてこの牛乳というものを買いにきたんですけど、あわせて人手が足りなさそうなきがするのでの、先日のお礼に、手伝いにきました」
先日鳳鳴山に一緒にいった、刻の庭の職員、
「ステータスボードのチラシをみました!牛乳の原産、私の名前と同じ「ミアカ」っていうんですね、いつか行ってみたいです」
呆気に囚われたが、聞くことは聞こう。
「刻の庭での仕事はいいの?」
突然手伝うとかいうので、聞くしかない。
「あそこは朝晩の天気予報占卜以外、特になにもしていなくて、自由時間なんですよ。言い方は悪いんですけど、良家の不良債権ばっかりで、家から放り出されたぼんくらと、私みたいに魔力が乏しくて、お金をためてから第二の就職をさがす予定の人間が二極化しているんです。実際すごい能力者!みたいな職員はみたことがないですね。ってここまで言ったらさすがに怒られるかな…。なので、職業訓練みたいに外の世界に仕事しにいくことは、許容されているんですよね」
「人に聞かれてまずそうなことは、誰にも言わないよ~ここも音が外に漏れない魔法継続でかけてるし」
ナイスノリ。
新規助っ人従業員未明ちゃんの登場により、消耗戦だったこの店も少し希望の光がみえだす。魔力は少ないが、記憶力がいい。お店のロールプレイング後を済ませ、明日に備える。制服はそろえることができないため、急ごしらえのエプロンで、そこはご愛敬。
しかも、刻の庭の外勤、という破格の待遇で手伝いにきてくれているというのだ。
「お礼にはおよびませんどころか及んでいるんですが、私の上司たちにここの食べものを持ちかえることが、私の裏ミッションです。言っちゃってますが。」
「今日の分は終わってしまったから、明日の分からもって帰ってもらえるように準備しよう。」
「ありがとうございます!」
そして未明ちゃんには一回帰ってもらい、そのまま流れるようにクッキーの仕込みを行う。
4日目 オープンの1時間前に未明登場。朝から人海戦術でクッキーをパッケージング。帰りにはお土産収納袋に商品を詰め合わせ、未明に持たせる。定休日の設定をしていなかったが、この調子で続くと疲労の蓄積が心配となるため、月曜日定休日とした。
そんな感じでミルクスタンドホッカイドウは大盛況。これでとりあえず、牛を育ててるほうのミアカの人々にお給金を渡してあげることができる。そして従業員も刻の庭との交渉で未明以外に2人確保、販売はもとより、クッキーづくりを教え、俺の仕事のコストを下げてソフトクリーム開発を開始する。
ほどなく、シラタマの別の国でも出店しないかという話も舞い込み、焼き菓子のみの販売店の話をすすめた。
出だしは絶好調、俺は、目標の一つであった店をもった。
俺らしい味のものはクッキーだけの店を。
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