第144話 ミソノ山/偵察隊(2)

 木の根の下の空洞は、深さ5メートル、空間的には20メートル四方ぐらいある広さで、薄明るい。チーズさんが落下した位置以外にも隙間はあるらしく、底面に人骨が点在している。

 

「アオくんの支援がなかったら無傷ではいられなかったよ!!!!ありがとう!!!」


 あっけらかんとそう言い、ものすごく明るい笑顔で今度は抱きついてきた。チーズさんはケガこそないが、事故直後であるため、テンションが、高い!正直ビビる!僕は手のやり場に困ってなんとなく万歳してしまった!

「無事でよかったです。が、今度から気を付けて歩いてくださいね」


 僕から離れたチーズさんは、力強く僕の眼を見て頷く。身長が同じぐらいなので、ものすごく視線も近い。


「ミアカの人たち、この山立ち入ることをしていなかったいうの、わかりますね。」

「この山、今の入山ルートだとある程度魔法使えないと多分、確実に落ちて命落としますよ。回避するには浮遊歩行をするか、落下地点を把握して進むしかないですね。」

「この白骨となってしまった皆さん、埋葬してあげたいね。それはそうと、動物の遺骸が全くないところをみるとここの動物やモンスターたちは落ちない手段を持ってるってことだよね。ところでこの世界の埋葬ってどんな感じなの?」

「基本、医療ギルド併設の火葬場で焼いてから、埋葬しますよ。シラタマで疫病が大きく流行して以来、土葬は忌避され、火葬が主流になってますよ」

「私、アオくんときてなかったら、火葬ルートだったんだ…」

「そもそも、僕ついてきてなかったら落ちてこうなった方々と同ルートですよ」

「ほんと、アオくんが居てくれて、良かった。」


 ここの空洞に沈んだ先人たちをチーズさんの意向に従い集め、高温魔法で一気に火葬する。周りに延焼しないようにしっかり防御壁を張る。埋葬可能レベルになった時点で、冷ます。その間にチーズさんは土魔法で大きな墓標となりそうな、大きな穴を掘っていた。

「ここだったら、お経唱えてくれるお坊さんもいないだろうし、私がまねごとでやるか、悩む。っていうか宗教とか宗派とかやっぱりあるのかな。」

「ありますよ。それで長年隣国と争ったりしてますよ。」


「そんなこといったら、教祖様になれる可能性あるってことじゃない!やらないけど!」

 付き合いがそれなりに浅くはなくなってはいるので、なんとなくわかるが、この人は本当に話と思考が飛ぶ。でもきっとこれは本人の中で繋がっている。


 チーズさんの堀った大きな穴に、埋葬し、手をあわせている様を見て、その様子を真似をする。

 この人の人生では、これが普通のルーティンなのだろう。


 見たことのない風習は面白い。それを真似するのも楽しい。だけれども、それについて基礎も根本も知らないので、本当に、真似するだけになっちゃうけれど。そのことをチーズさんに言うと、「一緒やってくれて、嬉しい」と返してくれた。そして、この世界に転写を受けるときチーズさんのご両親はこの”宗教”の地方コミュニティの旅行で出かけた時だったという。そしてあにさんはご両親を送り迎えしている最中にいつも使わない方からそっと家に入り、時差ボケがつらいので自室で寝ていた結果、転写魔法にひっかかった、という事実を。


「あの人運あるんだか無いんだかわからないよね。人望を勝ち取る力はすごいけど」

「僕もそんなに人と付き合ってきたわけではないですけど、あにさんみたいな人は見たことがないですね。あの『救国の魔法使い』となんだかんだ上手くやって、友達関係を築けていることがまず賞賛に値しますよ。」

「アオくん、その2人に気に入られてるでしょ」

「どうなんでしょう。そうだといいんですけど」

「特殊電話貰ってるんだから、そこは自信もっていいとおもうよ」

「あれ、それとなくチーズさんサポートしたいだけなんじゃないかとおもってましたけど。」

「いや、そうかもしれないけど、そこは素直に仲間!って思ってもいいんじゃないかな?」

 

 あの濃い人たちの仲間、ってことは、僕もキャラが濃い仲間入りができる、またはもう仲間入りしてるってことなんだろうか。そこについては、怖くて聞くのをやめた。そしてそんな話をしている間にチーズさんはとても大きい、石碑のような墓標を【地】属性魔法を駆使して、作っていた。


「これで、安らかに眠ってくれるかな。」

「きっと、そうですね」


 すっきり何もなくなり、苔と木の根しか周りにないこの空洞で、次の問題に取り掛かる。


「多分、あれ、刺激したら戦闘の合図だよね?勝てるかな私で」

「刺激しなくても、脱出しようとすると襲ってくるんじゃないですか。」

「埋葬、待っててくれたけど知性あるのかな。」

「ただ、興味が向いていただけでしょうね。」


 壁際を見ると、2メートルほどある、1つ目の大きな怪鳥が、じっとこっちを見ていたのである。気配には気づいてはいたが、危害が向いて来る気配が今のところなかったので気にしないこととしていたが、いよいよこっちの脱出の気配を感じてか、瞬きをし、かつ、体勢の立て直しをし、立ち上がっている。


「先制攻撃してもいいかな」

「優しい鳥さんだったらどうします?」

「ない話ではない。」

 

 チーズさんにかけた支援魔法は切れていない。しかも、いつでも【無限フリースペース】から、得物を取り出せるように訓練をしていたから隙はない。相手の出方を見て判断しようということになり、警戒レベルを上げた状態かつそれを悟られない二重支援魔法をかけておく。

 

 さあ、どう出る、巨大な鳥。

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