第145話 ミソノ山/偵察隊(3)
「そういえば、動物会話って試してみた?私には無理っぽいんだけど」
「僕のレベルでも意志の疎通はできないですね」
「あー…だめかー…」
そもそも言語としての思考をあまりもちあわせていない、本能に従う種のよう。そうなると、穏やかということは、ほぼないだろう。しかも、鑑定でみてみたところ、系統は「凶鳥」。この場所に似つかわしすぎる。
僕の魔法の使用できる範囲では、木の根にロープをかけウインチのように自分たちを持ち上げることはおそらく可能であるけれど、標的にしてくれといわんばかりな行動になってしまう。そうなると、一撃必殺でいくしかないけれど、チーズさんの今の実力ではちょっと厳しい。せっかくだから経験値にして良いレベルアップに貢献してほしいし。
というわけで、警戒しつつ鳥に近づく。そして近づけば近づくほど、なんか、凶悪な顔、瞳は金。羽根は赤紫、嘴は緑色。正直毒々しい。
完全に気付かれているため、距離と出方の読みあい。
と思ったら、驚いたことに僕の体が宙に浮いた。
真下に真っ青な顔をした、チーズさんの顔。しくじった。
◇
凶悪な顔の鳥は、余裕そうにくつろいでいる。眼前5メートルぐらいに、アオくんを何かよくわからない力で持ち上げながら。アオくんの表情から不測の事態ということがわかる。そして兄ホットラインを使おうにもあの通信機器はアオくんが持っている。
私で戦いきれるるんだろうか。
いや、戦いきるしかないよね。
「チーズさん、なんかこの鳥、念動力使いみたいです。念動力使いを相手にしたことがなかったので油断しました。」
「アオくん、なんとかなるの?!なんともならないの?!」
「なんとかしますが、チーズさん直接この凶鳥に好きに攻撃して隙つくっちゃってください。僕は絶対に当たりませんから。その間に僕は念動力、克服しますから。」
克服ってなに。アオくんのいる魔法使いの弟子としてのレベルがわけがわからない。
まず、視力強化をマックス。間違ってもアオくんに当てたくない。レベルをあげれるだけあげた結果、スコープどころではない機能が備わってしまった私の眼。この鳥が銃を知っているかどうかはわからないが、いま私の得物は相手には見えていない。
そこで、ちょっと考える。私は最近畑に対して使っていた魔法があるじゃないか。時間促進魔法。
その逆はどうだろう。時間遅延魔法。
いくら鳥とはいえ、体の動きが5割遅くなれば、とりあえず初回は対応できないのではないか?
今のところ眼はあっているが、こっちには攻撃を仕掛けてきていない。今の隙にしか実行ができない。
足元から背中、頭にかけて、土地の力を感じる。魔法の準備だ。私が魔力を練るときはまだ、基礎に則ったこういう隠し立てのできない方法でしかできない。が、そんなこと構ってられない。むしろこれは、挑発だ。
あの鳥が私の攻撃性に気づき、私に近づけばそれは隙につながる。
来い、来い。こっちだよ。
とっととかわいい鬼教官を離せよこのやろう。いや、雄かどうかしらないけど。
凶鳥の眼が動く、よし、掴んだ。
鳥は羽ばたいたと思うと天井近くに上昇。上空でホバリングしながら大きな翼でこちら向けて風で圧をかけてくる。勝負は攻撃を受ける前の一瞬だ。相手にはおそらく私の視力強化も見抜かれていない。
羽ばたく回数、5回、6回、7回。
ここで翼の動きに少しの違和感、ここで来る。と思った矢先少し上昇しそこから一直線に私にめがけて降下してくる。
今、だ。
ここで、私の貯めに貯めた時間遅延魔法をぶつける。3秒で降下してくるのが6秒になる程度。
ただ、それでも私には十分だ。
そして、狙うは頭。これだけ大きいと首元だと仕損じる可能性がある。
【無限フリースペース】に私の武器のアクセスしやすい、見なくてもとれる場所は作ってある。そこから即取り出し、即構え、眉間を狙い、銃を破壊してから使っていなかった雷魔法を乗せた銃撃。
それを降下してくる凶鳥に向けて、撃つ。
雷の速度は鳥の降下速度と比較すると敵にもならない。
雷銃撃は計測通り眉間ヒット。そのまま、落鳥する。そして地響きにより空から土ぼこりが落ちてくる。
「よっしゃ一撃必殺!アオくん無事?!」
銃口がひしゃげて使い物にならなくなった先日市場で買った銃をかかげガッツポーズをした。
◇
チーズさんが地上で、魔力を練り始めた。波長からしておそらくは時間干渉魔法。鳥の興味は完全に僕からチーズさんに移った。念動力魔法の解析はほぼ終わりもう、普通に動ける。ここで念動力魔法に出会えたのは僕にとってはラッキーだろう。今後何かあった時に対処できる幅が広がる。
とか考えていたらしびれを切らせた鳥がチーズさんめがけて急降下、時間魔法からの雷銃撃により一瞬で勝敗は決していた。相手が鳥だったこと、銃の扱いに長けていたことにより、思った以上に心配なかった。そして、チーズさんの近くに降り立つ。
「お見事でした!」
拍手も添えて。
「無事でよかった!何かあったら魔女さんにもイオくんにも顔向けができないよ!」
「僕が何かあるわけないじゃないですか」
「ええー…つかまってたのに?」
「問題、ありません。むしろ勉強になりました。」
「信頼してるんだから、油断しないでね。」
そして、落鳥した、凶鳥。さすがに食肉ではなかったためか落下後は魔石とドロップ品に姿を変えた。
緑色の魔石と、緑色の嘴のような形のヘッドのついた赤紫のステッキ。これ、ちゃんと調べないとわからないけれどもろモンスターの形を模倣したドロップ品。多分、レアドロップじゃないかな。
しかし、チーズさんは心底がっかりした顔で、「銃壊れたのにドロップが銃じゃない」、とつぶやいていた。
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