第11章 葡萄畑黎明譚

第143話 ミソノ山/偵察隊(1)

 シラタマを離れ、まずナットの自宅に行きワインの醸造本、ワイナリーの開業本をひっつかみ、再度転移しミアカに到着。ミアカの方々に挨拶後早速葡萄の自生地に向かう。ついでに葡萄の自生地の裏の山と、海岸近くの森への調査許可をもらう。実際許可とは名ばかりで、何もしてないから勝手にやってていいよ。俺たちは牛ちゃんと仲良くやってるから、という意味らしい。


 兄はミアカの人たちに教えてもらい自生地を発見したものの、状況だけを確認して「あとは専門に任せる」と言わんばかりの丸投げをしてくれた。いや、変に手を入れるよりは全然この方がいい。


 場所はミアカ村の裏にある山のふもと、通常こういう葡萄は自生はしていないとはおもうんだけど、世界が違うために環境が違って育っていると判断してしまおう。


「本当に黄緑の葡萄が結構ありますね」

「なぜか自生していて、木の蔓同士が絡まってすごいことになってるから、まず、これを何とかしたいところが1つなんだけど、そもそもこれ自生してるってことは、山にもなんか、ありそうじゃない?あと、キノコ。」

「キノコって毒のこともありますよね」

「あるある、ちゃんと見ないと危ないので!鑑定で見ていくしかないね。」


 ぶどう畑を整備するならば、周りにほかの自生している葡萄がないかどうかを確認してから一気にやった方がいいのでは、となり、先に山を見た後に、海近くを探索するということにした。

 

「とりあえず何かあってもいいように、補助全部かけときますね~」

「ありがと~!」

 ちなみに今日はオレンジのつなぎにトレッキングシューズだ。アオくんも兄のおさがりのシューズを持ってきて履いている。

 

 あの兄でさえ山の滑落事故で異世界に飛んでいることを考えると、用心に越したことはない。なぜかレストランの主って仕入れ通り越して採取に向かう傾向あるよね、って。山菜キノコ山椒等々。そういえば、ワインと言えばオーク材で樽とかも造りたい。ナットがなぜか北海道に似た気候っぽいから自生してそうだし、遠目にそれっぽい木は見える。楢の木だ。そして、楢の木といえばどんぐり。どんぐり、あったら集めて帰らないと。天くんへのおみやげと、培養で酵母菌が取れれば、天然酵母パンが作れる。そういえばこれってギルド課題につかえるのでは?


 今分け入っている山、ミアカの人にきいたらミソノ山というらしい。ミアカの人たちは特段山菜を取ったり食べたりする習慣がないらしく、全く手入れのされていない原生林だ。まず、道がない。地表には倒壊した樹林が結構な量があり、苔がむしている。

「思いのほかこれ、未管理。なんか掘り出し物でるかもしれないけど、ほんと気を付けないと遭難しそう」

「紐でもつけときます?」

「そこ、手つなぐとかじゃないの?」

「えっ」

「えってえっ?」

「いや、ロープは命綱になるね」


 ◇


 山かつ原生林。

 危険だというのに、チーズさんはどんどん分け入っていく。いくらなんでも狩猟が得意とはいえ無鉄砲だ。

 

 そもそもの話、チーズさんは僕が、15歳の男子ってことを、忘れてないかな?師匠以外の異性が近くにこれだけ長い期間いたことは僕のそれほど長くはない生涯で初めての事だ。

 

 23歳、8歳上。

 

 いつも僕が隣にいることをこの人、疑ってないし疑わないように僕は動いてはいるけれど、ただ、師匠に言われているからついて歩いてると思われたら、それは、違う。


 その「違う」ってことにこの人は気づいてくれたり、少しか考えてくれたりはしてくれるんだろうか。僕は今の弟のような立ち位置かつ教官であり、信頼関係がある程度築かれていると思うんだけど、その関係性が崩れるのが無茶苦茶怖い。それなのに、この人軽率に「手をつなぐ」とか言うし。一体なんだよ。

 

 とか考えながら前を歩くチーズさんを見ていたら、忽然と姿が消えた。 

 

「えっチーズさん!どこです?!」

 

 あたりを見回すが、どこにも、本当にいない。そうすると気配がおかしな場所からする。

 

「ここだよー落ちちゃった。これ、兄さんのことなんも言えないね!足元に骸骨がいっぱいある~」


 なんだか足元の下の方から、声が聞こえる。どこだ。


「どこにいるんですか!ほんとロープつけておけばよかった。」


「多分、木の根の隙間から下に落下した!多分5メートルぐらい落ちた!支援魔法なかったら即死してたかも!」


 その言葉で全身に寒気が走った。チーズさんが落ちたという木の根の隙間を空間探知魔法で探す。眼前3メートル右側にある木の隙間。隙間の下は大きな空洞であることが確認できている。行ってみると本当に、足を滑らせてそのまま斜めに入り込み、ずるっと落ちてしまいそうな、隙間。


 とりあえず、僕も降りるか。


 あにさんに貰った山登り装備だよと言われた服装が今に来て安全に滑り降りるには悪くない服装だった。


 木の根を掴み、隙間からするっと地下空間に侵入する。結構明るい。木の根でできたドームだ。しかもこの木の根、どこから栄養をとっているのだろう。もしかしなくてもこれは、土が全部下に落ちている。気根きこんはあるけど、土には到達していない。どっから栄養摂取しているんだ?この木は。


 あらかじめ反重力魔法をかけて落下したのでゆっくりドームの底に向かう。

 下でチーズさんがのんきに手を振っている。

 

 チーズさんの足元には、彼女が述べていたとおり、まったく最近のものではない、白骨が結構な量、散っていた。


 ミアカの人たちがこの山に立ち入らなくなった理由を推測するに難くはなかった。

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