第142話 シラタマ/方策会議・天

 結局お茶屋さんで話している内容では全く埒が明かないので、一度兄の拠点に帰還。合同会議の結果、第1拠点をナットにある我が家とすること、第2拠点をシラタマのこの店とすることになった。

 

 ウララさんが早く兄といる環境に馴染ませたいといっていたことを考慮しつつ、私とアオくんにもなついてくれていることからも、みんなで仲良く育児をしよう、というお子様向けアニメでよく育児をしているのと同じノリでみんなで頑張ろうという結論に。


 現実はそうそう甘くはないかもしれないけれど、幸いなことに天くんは体は10歳、言語による意思疎通も難しくさえなければ、できる。ただ、その年齢の見た目の割には竜種特有のハイパワーを持ち合わせているので現状なにかあったときに抑えることができるのは兄と魔法使いさんとアオくん。要するに私だけ役に立たない。

 

 基本的な教育担当をアオくんと魔法使いさんがかって出てくれたのと、実のところ私も適当にしかわかっていないので、もうちょっと深く知りたいので私もたまに座学には参加することにする。ただ生来この世界の住人である天くんと違い、私は転写と凍結による記憶障害があるので、きっちり頭にはいってこない可能性はあるが、それは仕方がない。

 

 拠点については、一番商売の足掛かりをつかんでいて、融通の利くシラタマは出来れば発展することが望ましく、それとは別に、今後産業の発展と貿易交渉については王による事務官の育成にかかっている。

 

 そして、当面の仕事として私はブドウ畑の様子をみてきたうえで、畑づくりもあわせてしてきたいと思う。

「天くんが言っていたように「みんないっしょ」にいれるように頑張てみようとおもうんだけど、私とアオくんがお仕事をしてくるあいだ、お留守番できる?」

「おるすばん?」

「前に兄さんと魔法使いさんが、何日かいなかったのとおなじだよ」

「できる!チーズ、かえってくる?」

 

 兄似のかわいいお顔でじっと見られる。


「帰ってくる帰ってくるもちろん帰ってくる。」

 

「ぼくのあるじ、にいさん?といっしょにいたらいいの?」

 そういうと兄の近くに行き、兄の顔を見上げる。兄はほんとにまあまあでかいので、天くんの首が完全に上を向いている。

「兄さん、そういえばなんて呼ばせる?兄さんでいいの?あるじ?」

「チーズさえよければ兄さんでいいよ」


 それが一番、ミルクスタンドホッカイドウのお客様にも害がない。他人だけど養子みたいなものということで兄弟だと思ってもらった方が、良い。


「私は構わないよ!」

「天くん、天くんの主の事、『お兄ちゃん』って呼んでって。いい?『お兄ちゃん』。兄さん、って意味だよ。」

「おにいちゃん」

 兄さんを見ながらそう言ってみてくれている。

「そうそう、お兄ちゃん。上手!」

「おにいちゃん、ちーず、あおあお、ういうい、……」


 私たちを順番に呼んでみた天くん、救国の魔法使いさんのところで、止まる。


「そういえばお前、なんて呼ばれたい?」

「え~~。年齢的にはおじいちゃんだけど、見た目的にはお兄さん…ノリさんとはあまり呼ばせたくない…となると、これから勉強も教えるし、マスター?」

「え、マスター?」

 即反応してしまった。

「師匠とかわらないからいいかもしれないですね?!一応師匠と双璧の魔法使いなわけですし。」

 アオくんのアシストで、あ、そうかって思ってしまった。私の頭の中では某緑色の銀幕キャラクターが実のところ、過っていた。


「ますたー。でいい?」

 天くんはなんか嬉しそうだ。魔法使いさんのこと、今までなんて呼んでいいかわからなかったらしい。

「マスターでいいですよ~。これからいっぱい色んなこと教えていきますから、あっという間に言葉も上手になりますよ!」

「やったー!じゃあ、ういういもぼくといっしょにべんきょうできる?ういういも、あおあおからことばおしえてもらってた!」


 そういえばうい、自分の沽券にかかわるから言語が発達するまで人型にはならないとか言っているってアオくん言ってたっけ。


「いいですよ~。人と積極的にかかわるの、久しぶりなので!わくわくしますね!」

「手加減しろよ~珍獣扱いされるぞ~」

 

 兄さんがなんか怖いこと言ってる。まるで山から下りてきた珍獣みたいな言いぐさすぎる。でも確かに魔法使いさん、最初ナットであった時より話が通じる感じになってるのはこれ、兄さんによる人と関わるということについてのリハビリがなされている…?

 

「じゃあとりあえず、これからアオくんとういと一緒に転移可能ゲートに向かってナットに行って仕事してくるから、その間、兄さんと魔法使いさん、天くんのこと、よろしくね」

「いや、そもそも俺の所管だし、むしろ、手伝ってくれてありがとな」

「おるすばん!する!かえってきてね?」

「お仕事終わったら帰ってくるよ~待っててね」


 もう外は夕方。転移ゲートの職員ももう帰る頃だろうし、今日一晩ここで休んで、明日の朝ごはんを食べて、片づけをしたら出発しよう。兄さんとアオくんのホットラインも心強い。

 おそらく環境が一番激変するのは、天くん。頑張れ少年竜。



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る