第235話 密室ノ会・祈(28)

 王のオーラというか存在感が、昨日とは別人となっていた。消え入りそうな気配から一転、モヤが服着てるだけだというのに、王の王たる気配、威圧感すら感じる。その姿を見てノリさんは手を叩き「おめでとう。どこまで思い出せたかな。凍結魔法の肝というか、思い悩み思い出すことにより力が増す、この国の国力にも直結するからね、王の力は」とか言っている。


「救国の、やはりわかるか。アオくん、氷那ひなのこと、思い出せたよ。氷那のことを忘れていたなんて今となっては信じられない。心配かけていたかはわからないけど、これからは大丈夫だから」


 表情もみえないのに、力強い。

 

「……凄いですね。さすが、ナット王。すごい。やっぱりきっかけは……」

「私の探査魔法じゃない?あの魔法は現状私にしか扱えないし、まあ、いろんなものを丸裸にするような魔法だから、人にも教えられないし、多用もしてないし」

「ああ、だから王の姿からモヤ部分が一時的に吹き飛んだんですね!」


 あの時見たのは、王の呪われた姿、白骨の姿。


「王の実際の肉体はどこにいってしまったのでしょうか」

「あ、そこ気づいちゃう?やっぱりきになるよね。でもたぶん、王の安全のために気にしない方がいいと思うんだよ。失われてはいない、かな。ちゃんといまなら手順を踏めば戻れる、と思う」

 

「戻れないと、今後の人生に支障をきたすから、ちゃんと戻りたいかな」

 腰に手をあて胸をはったポーズをする王。

 

 ちょっと前まで記憶の欠落による不安感に溢れた王だったというのに。ところで王は自分の名前を思い出しているのだろうか、姉の名前だけなのだろうか、ちょっとわからないが、明らかに姉を思い出した王の僕に対する態度は相当に違うと思う。

 

 僕が名前を取り戻した時に思い出したこと。

 

 師匠が姉さんをつれて王城に向かうことが、引き取られた当初というか、ナットを拠点としはじめたことには多かった。師匠はやはりと言うか、それなりの身分として扱われるので、師匠の信用で弟子は王城に顔通しさえ済めば立ち入ることが容易になる。そして数年経ったころ、姉の態度がこころなしかそわそわしていたので、きっと城に誰か好きな人でもできたのか~ぐらいに思っていたらまさか相手は王だったことを知ったのは、そこから暫く経ってからだった。


 詳しいことは当人同士しか知らない。多分師匠、気にしてなさすぎて気づいてない。


 それを踏まえて王を見ると、どうにも姉のことについて王の欠落記憶の中の一つだな、って思った。名を失ったことにより、より大事なものが抜け落ちることがあるということは分かってた。魔力の出力も落ちるし、まあ、色々弊害はある。


 結論、姉さん、愛されてるじゃん、と。

 

「凍結魔法行使までの間、氷那、結婚しようっていっても一向に「はい」っていってくれなかったんだよね。身分がどうかと言っててさ。そもそもがこんな身売り切り売りの没落しきった王家なんてよっぽどの物好きじゃないと縁談なんて持ちかけてこないわけなんだよ。あからさまな乗っ取りを甘んじて受けることもしたくないわけだし。気にすること、無かったと思うんだけどなあ…」



「おーはよーー!昨日はよく眠れたかな」

 凍結の魔女はグラデーションがキレイに染められた空色のワンピースに白いもこもこのジャケットを着て登場。弟は、白いシャツに黒のタイ、グレーのトラウザーズのいでたち。僕と一緒のスタイルだ。ただ、体格の都合僕の方がすこしだけシャツが大きい。

「そろそろシンも出勤してくるよ」 


「……急に余裕が出たな、王よ」

 師匠も急に頼もしい雰囲気になった王をまじまじと見つめている。

氷那ひなのこと思い出したからね。甘んじて呪いなんて受けてられないね。なんとか解いて助けてあげないと。私のために命を張ってくれるって、王としても男としても責任重大だ。なによりだ、ちゃんと戻らないとちゃんと愛してあげられないからね!」

 

 この人弟の前で何言ってんだって思ってイオを見ると多分僕とおなじくらい酷い顔をしていた。


「まあ、そこまでは共有した、ということで。呪いの震源地はシラタマにあることは確かだからね、あまり刺激しすぎないようにしながらひも解く方法でも探りにいってくるかな。いや、私の魔力のパターンだと危ないかもしれないからユウに任せるかな。どう思うアオくん?」

「え?ああ、まあ、思念として残ると言う話は聞いたことがありますし、そのパターンで言うと好きで追いかけて逃げられたノリさんの気配や魔力にそこに祀られている「何か」が反応する、ということもあるでしょうね」

 

「あ!そうだ!お前!弟子っていいつつ師匠らしいことなにもしていなかったってきいたぞ!」

「その話は、アオくんイオくんからのまた聞きにして。私からあーちゃんには絶対しないから」

 

「だそうです、師匠」

「諦めてください、師匠」

 最大限の笑顔で師匠にそう言う。ストーカーをいなすために弟子にするとか聞いたことない、と言えばないけれど。


「男どもが結託しておる。くそう。機密性の高い話をしているせいでウララも呼べないし、チーズはシラタマだし!ああ!もう!」

 師匠は心底悔しそうであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る