第234話 密室ノ会・祈(27)
夜も更け、シンも自分の家に帰っていった。
凍結の魔女とイオも、夕飯後自室に戻ったようだ。救国のとアオは、異世界の君の家に逗留している。あの家も最初は誰も立ち入れなかったというのに、今となっては魔女の弟子たちさえいれば立ち入り可能となっている。
ふと、凍結の魔女が転写した直後、鳥を使いに出して声をかけに行ったことを思い出す。まだ半年ぐらいしか経っていないというのに、かなり昔の記憶のようだ。
私も自室に戻ったが、落ち着かず、姿があるようでない自分はどうみても姿なく、城内を無駄に歩き回ってしまっている。歩いたところで足音はしないし、城内は昏く、明りもない。
そんな場所で闇に溶け込むような自分が動き回ると、本当にこの城が廃墟のごとく、ゴーストの徘徊する城に思えてくる。
異世界の君、チーズの飼い犬のういが神聖魔法の使い手とは聞いた。いっそこの呪いを祓ってくれないかとも思うが、万が一自分にアンデッド属性が付与されていたとしたらその魔法で自分が祓われてしまったりすると笑えない。
そしてさっきの救国の魔法使いの使った探査魔法、あれは効いた。凍結の魔女は隠し部屋に棲む彼女について「何かきっかけがあれば思い出すだろう」と言った。
なぜ忘れていたか、忘れていたことさえ申し訳なくて仕方がない。
凍結の魔女の弟子そして、アオとイオの姉、名前は
思い出してみると、美しい栗色の髪も、なぜか闇に染まっている。私の受けるはずだった呪いを受けている。
「王さまは王さま然としていてください。私が全部引き受けます。身分については理解しています。それでも、正室に迎えたいと言ってくれたこと、忘れませんから」
そう、凍結魔法の前に言い、無理した顔でにっこり笑った。
「大好きです」と言って眠りについた。
その姿を思い出し、身の毛がよだち、今の体に通ってはいない血の気が引く感じを感じる。慟哭しようにも今のこの姿、涙も出なければ、叫ぶことすら難しい。
足は謁見の間へ向かい、隠し部屋の前に立つ。
先ほどとは違い、1人で部屋に入る。
そこで時間停止を甘んじて受け、凍結魔法の安定稼働の調整そして、私の受けた呪いを引き受け、与えられた勤めを果たしている、愛する女性。強すぎる魔力のせいか、淡く光っている。
「どうして君は、人の事ばかり優先して自分のことは二の次で」
君は私を護るために近づけないようにしているんだろう?
触れさせてもくれないのだろう?
あの笑顔がフラッシュバックする。
君を救いたいよ。
◆
翌朝、鶏のお世話をしたうえで、ノリさんとともに王城に徒歩で向かう。
結論要検討、これから方策を練らないとどうにもならないって結論に昨日、達したからだ。まずはシラタマに戻ってノリさんが飛ばした家、近づくなってコウコさんに言われそうだけど見に行くところから開始かなあ。魔法の編纂のパターンとか、もうちょっと理解しないと解こうにも解けないよなあ。
「このままいけば王も君の姉も呪いは解けないだけで、別に蝕まれてどうこうとかはないから、早いにこしたことはないけれどものすごく急がなくちゃいけないってわけでもない。もう
「しかしなんで師匠がベニトビさんがターゲットとする対象になったんでしょうね?」
「……多分だけど、私の部屋を見られた」
ノリさんは空を見上げながら、思い当たる節を語り始めた。
今日はものすごく晴天だ。
「アイツ、単純に【闇】魔法の天才でさ、一回多分家に入られてる。油断をしていたわけではないけれど、強力な【闇】魔法に対峙したことがなかったためか、ガードが多分甘かったと思う」
「そして、ノリさんの部屋を見た、と」
「知ってのとおり、私の部屋はあーちゃんへの愛しかないからね。」
良く知ってます。一度見たら忘れません。あの師匠の映像で埋め尽くされた部屋を。
「だからきっと、ターゲットがあーちゃんになった。アイツ、私に気があったっぽいんだよね?」
「それがわかっていたのであれば、どうして適当にしたんですか?」
「断っても何をしてもついてくるんだ。私があーちゃんにしか興味ないのは知っているだろう?」
「そうですね。でも、最近は
「すごいよねユウは。強いし、思考のパターンが全く読めないけど、何より料理が上手い。今まであーちゃん以外の人を認めた事なかったんだけど、あれは認めるしかない。これからも続く人生であれほどの逸材に次会えると思えない」
一気にまくしたてるように話すノリさんを見て、これもまた運命の出会いだったんだろうね、と思ってしまった。僕にとっては
「あ、アオくんもイオくんも天才の域だからね、そこはちゃんとわかって今後も勉強するようにね。ラッキーなことに師匠のあーちゃん以外に私もユウも近くにいるんだから」
「チーズさんはノリさんから見てどんな感じですか?」
「異世界の君ね、あの子は特殊。常人の尺度では測れない。誰とも違う道を進んでるんじゃない?」
常人じゃない人に常人の尺度じゃないと言われるのはいかに。
そんな話をしながら王城、執務室に着き、王と朝の挨拶を交わす。
こころなしか覚悟がガン決まってるような王と。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます