第233話 密室ノ会・祈(26)

紅鳶べにとびの得意なのは【闇】魔法、しかも多分これ、命が尽きるその時まで編纂を続け、発動条件は『凍結の魔女が大魔法を使う時、その対象を対象とする』といったようなえぐい条件付けだったんだろうね。アイツマジで怖い。あ、アイツの人間性についてはノーコメントでいくので、魔法の内容だけの検討でよろしく」 

「……補足するとこの人の対人関係の不始末でどうも師匠の魔法の対象者が被害を被ったってことらしいです。具体的には王、二次被害姉さん、ということですね。そしてその不始末の内容については自分の前では言わないでくれ、ということみたいです。通訳のアオ、スピーキング」


 早口でまくしたてるように話すノリさんを見て師匠はもういっそ愉快になってきたらしく、笑顔をつくっている。いや、怖いんだけど。


「具体的にベニトビさんの得意な魔法って闇魔法の何だったんですか?百年前にはお亡くなりになってるって聞きましたけど」

「対象を特定して、その特定した相手を執拗に追う。家宅侵入しようとする。気に入らない人を呪う、とか、反動のきつそうな魔法ばかり得意だった。多分」


 

『なあ、アオ?ベニトビって本当に弟子なのか?』

『小さなリスクを受けることで大きなリスクを回避する?みたいな?昔通っていた学校の近くで採取作業していたら学生のベニトビにノリさんがうっかり見つけられたうえで家まで追いかけられたけど、家に入れたくなくて、家の横にベニトビの家を建てたんだって。で、建てた家の言い訳というかきっと師匠に対する無意識の言い訳だとおもうけど、便宜上『弟子』ってことにしたみたい」

『師匠にあんなに避けられてたのに義理立てしてたってことか!』

『しかも自分の行動をベニトビに追跡されない方法を見つけたとたん、ベニトビの家ごとシラタマに転送、放置。その時点でノリさんは足がつかないように過去踏破済みの【神代】ダンジョンに逃亡。【神代】ダンジョンだから再入場の権利がなければどうやっても立ち入れないからベニトビの寿命を待って逃げおおせたってわけ』

『一番やっちゃいけないやつじゃないか。それ絶対ノリさんのこと好きで追ってただろ』

『だと思う。かなり酷いけど、この人今だと師匠とユウさん以外に全く興味ないことを考えると、どれだけ追っかけても絶対どうかなることはなかったよね』

『確かに、間違いない』

 

 あきれ返っているようなイオからの通信に答えながら、この呪いの解き方を考える。正直『原因』は概ねしれたけど『解決策』は今のところ思いついてはいない。

 王が呪いを受けた、それを姉が緩和した、という事実から『呪いを解く』という一点で勉強をシラタマ図書館でした。そして今回ナットにノリさんを連れて来て助力を得れば何かしらの突破口が見えるかとおもった。その部分を突き詰めて調べればなにかわかるかも、と思っていた。

 が、どうだこれは。

 

 僕が魔力を使って探査して出てきた一般書に偽装した禁書がベニトビの著作。これは偶然とは思えない。

 その原因は師匠の魔力か、僕のルーツか。


「それで、お前はこの呪い、解けたり緩和したりは可能なのか?」

 

 しびれを切らしたように師匠がノリさんに問いだす。


「今のままだと無理。多分これ、多重に仕掛けられた呪いだから、もしあーちゃんがまた大魔法を発動したりすると、また対象者が呪われると思う。大魔法の規模じゃないと発動しないと思うし、凍結魔法ほどの魔法は多分もう使わないから今後はないかもしれないけど」

「要するにアレか。そのベニトビとやらが編んだ魔法式を探せと。そして魔法を使うと対象者が呪われるリスクがあるっていうことは、一番呪われてるのはわたし、ってことか。なんで私の評判を落とすことに余念がないのだそのベニトビとやらは」

「紅鳶ってほんとめんどくさい子だったけど、天才ではあったからね!一体あーちゃんに何を仕掛けたのか……しかもどんくさくも気が付いていない…かわいい……」

 

 そこまで言ったところで師匠は件の魔法使いの頬を思い切りつねる。

 

「しかも知りもしないそのお前の『弟子』とやらが私にこんな魔法式を仕掛けるとかお前絶対何かやっただろ!え?!何をやったんだ?!」

「言ったら怒るから言わない。そして、痛い」

「そうかそうか。心当たりはあるんだな!」


 師匠は顔をみるなり気絶していたことが嘘みたいな強さを見せる。


「まあ、とりあえず君にかかっている条件付きのデバフみたいなものを取り除くことができるように、ちゃんと考えるし、対応もする。アオくんイオくんの姉さんも、よくナット王の命をぎりぎりとどめてくれた。凍結魔法を使って立て直すができなくなるどころか、この世界が滅びるところだったよ。すごいすごい」


 今なんていった?「世界が滅びる」?なに?と言う顔をしたら師匠が「お前、言葉を考えろ!」とノリさんに対して激昂した。


「お前、ってるだけならいいが、口にするな」

「……やっぱり、あーちゃんは私以上に何かってるね。さすが王宮魔術師」

「そう言うのはいいから、言葉を考えて発言しろ」

「……むちゃしてなんとかじゃ~とかいっていたときより断然いい。最高。かわいい」


 いつの間にか論点をずらして煙にまくのはノリさんの手法なのか素なのかはわからないけれど、これはきっと師匠からもノリさんからも『世界が滅びる』の意味については聞くことはできないだろうな。

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