第232話 密室ノ会・祈(25)

 救国の魔法使いその人は、小さな声でブツブツ続けている。


「偽装方法も、わずかに残る癖も、魔法の組み方もすべてあいつすぎる。いや、でもこの国との接触はなかったと思ったけど……」


 それよりも、僕たちの関心は師匠へ向かった。自分の手を握ったまま離さない、救国の魔法使いの『弟子』というワードに衝撃を受けすぎた師匠の顔が、正直言ってみたことない顔をしていて、王ともども注目してしまっている。それに気が付かないほどの驚き顔。具体的に言うとあわあわしている。


「……今、お前弟子って言った?弟子なんていたのか?」

「それはアオくんに聞いて、教えてあるから。シンくんだっけ?が戻ってくるまでに思考と分析終わらせるからちょっと待って」


「アオ!!」


 師匠の矛先が当たり前のように僕に向かう。

 

「はい、僕はここに来る前に教えてもらいましたよ」

「その弟子、男女どっちだ」

「女性と伺っています」


 そう言うなり師匠はまた見せられない凄い顔になる。ホントこの人なんで千年も避けてたものか。しかもその女性今、シラタマで祀られてますよ、とまではとりあえずは言わないことにする。自分はいいけど相手はだめ、とかなんか師匠も乙女っぽいところもあるんだな、と。


「私が知らぬ間に弟子をとるとか…いや、私が弟子を取った時点でコイツに報告はしていないが…」

 

「よし!ちょっと魔法使わせてもらっていいかな?」

 

 いきなり仕切りなおすノリさん。

 

紅鳶べにとびの悪癖を思い切り引き出すかもしれない、まあまあ食らう可能性がある。ここには大きく力不足の人はいないけど、呪いを受けている身だから王は一度退出したほうがいいかもしれないけどどうする?」

「そのぐらいは私が護るさ、現・ナット国付きの魔術師だからね。ところでその『ベニトビ』とは何か?」

「私の弟子」

 

 そこでタイミングを計ったように、そして意を決したように王が口を開く。

 

「私はこの国のことだ、きちんと見なくてはならない。『凍結の魔女』、よろしく頼む」

「もとよりそのつもりだ、王よ。しっかり護る」

「心強い」


 ノリさんは「これ自作の杖~」とか言いながら、銀色の金属でできたような、華奢でディテールの細かい、2メートルほどある細身の杖を持ち出し、床に垂直で立て、師匠から手を離し、両手を広げる。

 杖に埋められた大きな無色透明な石から出た光は部屋全体を埋め、眩しいと思った瞬間にその光は収束、元の状態に戻る。

 

「はい、終わり。時間圧縮はしたけど、王、無事?」

「なんとか……」


 ナット王は一時的にモヤ部分が吹き飛び、呪われた姿である白骨が顕わとなっているが、徐々に黒いモヤが再び覆いはじめる。

 

「だぁれが護っていると思っている」

「オレだってだてに何年も師匠の補助を任せてもらってません。ちゃんと働きますよ!」


 師匠おもしろっとか思いながらぼやっと見ていたのは、僕だけだったらしい。失敗失敗。

 しかし僕の仕事はノリさんが分析を終えてからが本番、シラタマで学んできたこと、僕の長くはない人生の肌感を頼った検討にあると思っている。という言い訳を心の中でする。

 

「さあ、ここは長居は不要だ。アオくんとイオくんには悪いが、即解決は困難だ。もうすぐシンくんが帰ってくる、その前にここを出て検討に入ろう」

 

 そう言うととっとと師匠の腕を引き、この隠し部屋を出ていってしまう。僕とイオは王に付き従う形で、追って部屋を出た。


 ◆


 王を執務室に残し、そろってチーズ宅に引き上げ、ミーティングを開始するのかと思ったら痴話喧嘩が始まっていた。


「その『ベニトビ』とやらは、おまえの弟子ってことなんだな?」

「私はそこについてはもう言いたくないから、あとでアオくんに聞いて」

「逃げるなこら!」

「口にもしたくないんだってば!」


 何故かかって知ったるチーズ宅、師匠たちを放置してお茶を淹れにいく。今日はあにさんが「これ、ヨモギ。お茶にしよう」といって敷地内のその辺に生えていた野草を水あらいし天日干しをしたあと、乾煎りしておいてくれたものだ。味わいは結構ワイルド、そして後味はすっとする。

 

「お茶入りました~」

「今日の本題、ここからですよね。このためにノリさんに来てもらったわけですし」


 この家には食器が山のようにある。何かしらの災害がおきたとき、具体的に言うとチーズさんが得意とする大量調理を必要とする局面で使用されるもの、らしい。そこの中からマグカップを4つ、それぞれ使うようにさせてもらった。


「師匠、ノリさんの弟子の話は今ここでするとやる気なくされるきがするので、イオに共有しとくのであとでイオから聞いてください」

「なにそれ!また聞きのまた聞きとか失礼にもほどがあるじゃないか!」

「僕たちのの情報共有は正確ですよ」


「そしてノリさん、やっぱりあれ、紅鳶さんが原因だったんですね。シラタマ図書館でお会いしたお二方がどのような最期を迎えられたか教えてくれていたので、偶然にしては出来過ぎているので、原因そこかな、っておもってましたよ」

「しかしアイツは『あーちゃん』の魔法のパターン、どこで知ったのかな」

「おまえ!なんだ『あーちゃん』って!」

「だって、本名呼んだらだめなんだろ?なんて言っていいかわからないから今『あーちゃん』にした。私はユウが名付けてくれたノリでいいよ」

 

 お茶をすすりながらノリさんはそんなことを言う。

 

「しかし、師匠、怒りすぎです」

「老けますよ?まるでキノコダンジョンのときみたいに一気に」

 

「そのことは言うな!」

 

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