第78話 シラタマ/刻の庭(2)

 午前7時ごろ、入港してきた船から降りてきた人数は50人ほど、ほぼ大荷物を持った行商人であるが、数名着物を着ている人が確認できたことから、やっぱり日本ぽい国なんだ、と認識する。昨日みたライブラリから神代からの禍がそのまま息づいたまま、平安の世が続いたまま近代化したみたいな、特殊な環境下にあるらしい。

 まあ、いってみないことにはわからないけれど。

 そのまま船内清掃員が入っていき、出航は2時間後、準備が進められる。

 いっそ屋形船でも来るんじゃないかとおもっていたら、実際きたのは貨客船で、安心したやらがっかりしたやら。


 因みにナットを離れるにあたり、畑作業はマニュアル化してイオにお願いしてきた。家から離れて出奔したとはいえ子どもの頃から体で覚えこんだ習慣はそうそう抜けるものでもないので、指導マニュアルなんてものはあっと言う間に作れる。生乳の管理もお願いしている手前ハチャメチャに嫌そうな顔をしていたが、勢いで頼んだ。オートメイションで組める範囲のシステムこの世界の理で組んできたので、そんなには負荷にはならない、はず。魔女からノリを引きはがしたんだから感謝すらしてほしい。

 

 …いや、なんか土産買ってこう。


 ◆


 船に乗り込む前に、冒険者ギルドに加入している人はそのランキングをギルドボードを使い申請、加入していない人は戦えるか、戦えないか、という自己申告をする。俺もノリも一応戦えると申請したけれど、ギルドシステムに則ってないために、ステータスはばれていない。スキルボード見てみる限りどうもこいつ、万能と言えば万能なのんだけど、得意分野は回復補助特化かつ魔法自体が比類なき高ランクっていうのお化け魔法使いっぽいんだよな。

 因みにあっちからは俺のスキル自体はやっぱり文字化けして見えてないといっていた。便利なんだか不便なんだか。

 妹とは別にもっている倉庫には俺独自の装備をつっこんであるものの、強さで目だつよりもキャラと料理で目立ちたいので実はあんまり使いたくない。明らかなこことは違う異世界産、高ランクのギラギラとした武器や、防具、道具たち。過去の体感25年の冒険の成果ではあるから、気に入っていないといえば嘘になるのだが。

「この海域、何が出るんですか?」

 受付も終わり乗り込んだので、船内の職員に聞いてみる。

「イカとかタコとかの定番から、巨大魚も出ることもある。毎回何かしらはでるんだが、命の危機にはるようなことは年に1度ぐらいしかないぞ。穏やかなときは釣りをしてもいいぞ」

 「釣りですか。釣り竿レンタルとかあるんですか?」

 「基本自前だな」

 「そうですか」

 そこまでいったところで、ノリが横から口を出してくる。

 「あれ~ユウは釣り竿もってないんですか?」

 にやにや聞いてきてちょっとうざい。

「あるにはあるけど、ほぼ何でも連れてしまうから面白味がないだけだよ。借りたほうが釣りは楽しい!」

 俺の持つ釣り竿はそれこそ、なんでも釣れる。主すら釣れる。だからこう、娯楽移動中にうっかり使うと惨劇が待っている。


 そもそもが俺の釣スキルが高すぎて、どの道具を使おうともまず、イレギュラーがおこる。戦闘がおこる。穏やかに移動したいときに下手打つとほんとめんどくさい。


 目的地まで大体海流の都合もあるけれど8時間前後、船着き場と同じように漫画喫茶っぽい場所、椅子のみの場所、など値段ごとに使えるゾーンが決められていて、船旅は基本的に海を見るか寝てるか戦ってるかぐらいかしたことがないので、寝ることを前提として漫画喫茶部屋で予約しておいた。そもそもでかい男が2人でちまっと椅子にすわってる姿は目立ちすぎるうえになんというか、見た目が最悪だ。


 予約した区画に入り、足を伸ばしたところで出航の汽笛が聞こえる。

「よーし!船酔い防止の魔法でもかけちゃおうかな船全体に。親切心。親切心」

 ノリが部屋の床に手をあてたところ、何かキラキラしたものが走り、なんとなくすっとした空気があたりをつつむ。

「しばらく使ってなかった北の海域のボスからドロップした逸品、マイロッドちゃんを使いたいので釣りしましょう釣り!勝負しましょう!もうちょっと沖に出たら!」

「えー。知らない土地で俺のロッドなんて使ったら何出るかわからなすぎて無理」

「私を置き去りにしないでひっぱってきたんだから、このぐらい付き合えよ!付き合えって!釣り!しよう!な!」

 なんでコイツ口調かわってるんだよ。

 

 沖にでて3時間、根負けして釣りに付き合うことになった。千年生きてるくせに刺激もとめすぎじゃないのかコイツは。

 仕方なく甲板に出向くと、釣りをしている冒険者が6人ほど。見たところそこそこ強そうだ。釣果を見る限り、今のところ大きくもなく危険でもない無難な魚しかいなさそうだ。

 

「隣で釣り、いいですか?」

「いいですよ~」

「よろしくお願いします」

 そんな挨拶を交わしながら、収納バッグからマイロッドを出す。黒のロッドに銀細工の細かくも美しい装飾、世界の海の王と友好関係を結んだときに下賜された、この世に2本とない逸品だ。いや、そもそもこの転写世界のものではないが。

 となりでは俺のロッドと対をなしそうな白銀のキラキラとしたロッドを取り出しているノリ。

 ほんとむちゃくちゃニヤニヤしている。

 

 想像に難くなく、こんなレアロッドをつかった釣り大会、無事で済むわけがなかった。

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