第6章 シラタマ/刻の庭
第77話 シラタマ/刻の庭(1)
ナットから東方、四方を海に囲まれたその国は独自の文化を築いていた。
貿易商以外は殆ど諸外国からの立ち入りはなく、直接的な表現をすると、日本の平安時代に近い国のつくり。ただし、文明的にいうと日本でいう神話時代から近代までがごちゃ混ぜな状態でのべつまくなく続いているような国。
その国を、『
◆
「おーい救国の魔法使い殿きけよこら!これ!隣の国!お前こっちがいいっていってたけど陸続いてないじゃん!」
「陸が続いてるなんて私は一言も言ってないし、それが何か問題でも?」
ナットから東に130キロほどにある大きな船着き場、救国の勇者様と魔法使い殿の姿がそこにはあった。
ナットでは地図を目にすることができなかったため、船着き場の受付で購入、ここで初めて目的の国の位置を知る。ナットは国全体にジャミングがかかりすぎて、いろいろなことが把握できず、思考にもノイズが走ることがままあり、なんといううか微妙に感覚がバグる。
目的の国は国境が海であるために船着き場で出国手続きを行い、こちらのデータを先方に送信する手続きを要する。ナットでかけられた魔法の影響か、現地にいくまで行く先の国の把握はできても国名の認識はできないらしい。不便。
「目的地は飛行魔法や飛行アイテムでで国境超えると逮捕されるんですよね。国境で手続きしたうえで、海路のみ許されているとか20の国のうち特殊な国の一つですね」
あとから説明でそういってくる魔法使い。時間の流れが適当な中で生きてるせいか、なんというかコイツ自体もかなり適当だ。船着き場情報では船自体も1日に1便であり、朝出発し夕方につくというタイムスケジュールであることが確認、次の船の出発時間まで約12時間、時間をつぶす。安価で貸し出される仕切られた2畳ぐらいの小部屋をが借り、次の出発時間まで待機することにし、飲み物を買ってきてだらだらする。まるで漫画喫茶だったので妹の倉庫からまだ読んでいなかった漫画をひっぱりだし、寝そべってだら読みする。俺のルームに入ったほうが楽といえば楽なのだが、船着き場で次の船待ちが30人程度いるために、この世界にそぐわないスキルを使って悪目立ちしたくない。
妹にいきなりこっちを勧めなかったのは良い判断だったからそこは魔女を褒めておこう。いきなり船旅とかそりゃあ、荷がかち過ぎる。
「ところで出国手続き書類にかいていた私の名前が『ノリ』ってなんなんですか?私の名前貴方に名乗ったことなかったのは悪かったとはおもいますが、ナットを出た今名乗れるというのに」
「『ノリ』ってお前が魔法使いだからだよ?魔法使いの『法』で『ノリ』、おれは勇者の『勇』で『ユウ』って手続きでかいといた。でも今後のために気が向いたら本名おしえてよ」
「私はいま機嫌がわるいことになっているのでおしえません!また今度機嫌が良い時におしえてもいいですよ」
いい歳した若作りのオッサンがむくれた顔をする。
「じゃあ俺の本名もこんどな~」
「思い出したんですか」
「さあね」
適当にはぐらかす。しかしこの世界の救国さんはなんというか、ほんとわけわかんなくて面白いな。
貸し出された部屋は簡易な部屋であるけれど、掃除は行き届き、防音壁はしっかりしているため、一応防音魔法はかけるものの遠慮なく会話をすることが可能だ。
名前については、実際、本名使うと問題がおきたとき面倒くさいから、偽名だよ偽名、と言ってみた。おれはまだしも、お前はそこそこ名が知れていそうだから、リスクを少なくするために本当の名前またはそれに近しい名前は避けたほうがいいんじゃないのか、有名人?というと渋々了承していた。
漫画喫茶もとい貸出ルームの中にはパソコンはないものの、魔石投影型のディスプレイが設置してあり、そこにはこれから行く国の説明が流れる。ライブラリがあり、そこから好きな映像を引き出せる構造だ。
そこで流れてきた映像から想像されるのは、歴史の教科書で見た平安京。しかも西方には大きな怪異が身を潜め、東方には大森林が広がっている。
国に入れるのは船着き場1か所のみ、それ以外の場所から入ろうとすると高波が船を襲い、押し戻される。飛行で入ろうとするとワープゾーンがあらわれ、離陸した場所に押し戻される。
なんというセキュリティ。鎖国していたときの日本のようだ。っていうかここで流れている映像が気のせいではなく本当に日本すぎる。
前に迷い込んだ異世界にも日本のような国があったし、日本刀も存在した。独自に進化していっても、まあまあ日本と同じような文明にたどり着くことがあるとしか思えない。
情報は武器というスタンスで、出発までの12時間ギャラリーを片っ端から見て脳にインプットする。変なスキルをもっているせいで、記憶力、思考力ともに一般的ではない自覚はある。とりあえずそれについてばれないように、のらくらと躱すことを信条として、怪しまれないように生きようと適当していたのだが、ここは異世界。
しかもなんかちょうど変な魔法使いまで強制的に引き込むことに成功したためにコイツが悪目立ちするだろうから、うまく隠れるようがんばろう。そして、勇者ではなく、「調理人」として全力でいったところで問題ないだろう。
妹もいまのところは初めての異世界でルールを覚えたり、自分と一緒に転写された動植物の面倒をみたりと、できることから始めているが、そもそもが頭の良い子だ。
この世界についていろいろ腑に落ちないことが多すぎる。そのことに確実に気づくだろう。
ナットを復興させていくことにより見えてくるだろうから、先を見極めて行こう。
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