第79話 シラタマ/刻の庭(3)
そもそも船を停泊させずに釣りをしている時点で、特殊な釣りスキルか、特殊な竿をもっていることが前提となるこの海路について、そこを楽しみにそういうスキルやアイテムをもつ冒険者が移動を楽しみながら、軽くあそびつつ海路をたどるわけなのだが、今日は勝手が違う奴らが現れた。
様子のおかしい冒険者ギルドにも加入してないのに変に強キャラっぽいのが二人連れ立って、釣り勝負をするという。 最初から見た目が普通じゃないロッドを持ち出した二人がルアーをつけて並び立つ。ざっとギャラリーは20人。声掛けにより続々と乗船者が甲板に集まってくる。
「じゃあはじめるよー!」
「はいはい」
ノリと同時にラインを海に投入、釣果なんてものはほぼ期待できないので暇つぶしの域の釣りが、この船の釣りのはずだった。
だがしかし。
まあ、勝負と言われて負けるわけにはいかないのだが。
釣り竿からラインを通じて魚をくいつかせるような波動を、ルアーから発信する。そしてその波動は隣りの釣り竿からも感じられる。
なんだよ、二つ名どころか釣り竿までもが異種同義みたいなアイテムなのか。
本当に負けられない。
そんな状態で船が1キロちょっと進んだところで、魚群どころか、大きな魚の気配を察知。おそらくコイツも同時に察知しているだろう。
よりどちらが早く、ルアーにくいつかせ、釣りあげるかの勝負。
集中する。
ヒット
リールをまく、距離を詰める。泳がす、まく、竿を引く。
絶対ばらせない。どう考えても隣も別の魚を引いている。ものすごくニコニコしながら、いや、こっちもめんどくさがってないで楽しんだほうがつよい。
楽しもう。
相手は思いのほかでかい。並みの腕力であれば、海にひきずられて落とされているだろう。
よし、引き切った!と思って引き上げる。タイミングはほぼ同時。
吊り上がったのは俺のほうが5メートルある雷魚、ノリのほうがほぼ同サイズの氷魚。
しかし案の定問題はおきた。
魚たちが上空に吊り上がったとたんに滞空。
そして雷と氷魔法のチャージをそれぞれはじめる。マジか。
雷魚の頭上には3メートル級の雷の球、氷魚のまわりには巨大なつららが無数にこちらに先端を向け力のチャージがされていく。
これは本当にヤバイ。船にもほかの乗船者にも迷惑がかけられない。
釣り竿をラインごと収納、隣も同様の行動と同時に防衛結界を展開、魚の前に防御壁を張っている。ついでに鎮静魔法もかけているのか、パニックも起きていない。コイツの実力であれば傷一つなくギャラリーを逃がすことも難ないだろう。
そして、一番ここで魚からの被害が少なく済む方法。
2,3回軽く甲板でジャンプをしたあと、右足で踏切りまず雷魚に向けて飛び上がる。
調理人の面目躍如、収納バッグから特注の長剣ほどあるフィッシングナイフで脳を一撃、絶命したところ続いてエラから血管を切り、尾の付け根を切り血抜き。ここまでを一連の動作で行い、一度魚を持ったまま甲板に接触。そこからまた氷魚に対して飛びあがり、同様に締める。
氷の反撃の隙すら与えない、流れるようなスピードで行う。
チャージされた雷は霧散し、つららは自然落下して海へ。
因みに今回使用したのは俺のメインで使う武器ではないが、大きな魚を調理するタイミングがまあまあ発生していたがために特注で作ってもらった割と武骨なフィッシングナイフだ。まさか早速の出番があるとは。ハイジャンプぐらいのスキルなら割と持っている人が多いと信じ、使ってみたが悪めだちしすぎることは避けられた、と思う。
自然落下前にキャッチした2匹の魚のを両手にもち、甲板に降り、積み重ねる。拍手がわくが、そもそも俺たちのせいでこんな事件がおきているんだが。申し訳なさすぎる。
「突然勝負といい、甲板を恐怖させるような事件をおこし、ご迷惑をおかけしました。」
とりあえず謝ってみたものの、なんか、ヒーローショーを見た後の空気になっている。そしてノリが張った防壁はおそろしく頑丈だったようで、全く誰も怪我がない。
「とりあえず活締めにしたけど、ちゃんと血抜きしなきゃいけないな。そもそも食べれるのかなコレ。」
「おいしいですよ、どっちも。勝負は引き分けでいいので、おいしく調理してください!私は食べます」
「じゃあ、迷惑料としてここのみんなに振舞ってもいいか?」
「もちろんもちろん」
しかし出会って行動を共にして数日、コイツは何も考えてないふりとかじゃなくて素で何も考えてないんじゃないのか?と思うことが多すぎる。頭はわるくないし、そつなくなんでもこなせるが、基本的に思いつくまま気の向くままとしかおもえない。
◆
魚の血抜きは水魔法の応用を使って行い、血染めになった海水は浄化魔法でクリーンにしてから海へ戻す。変に海水に血がまざると肉食魚を呼び寄せ、二次災害をおこしかねないからだ。
雷魚と氷魚の半分を妹の倉庫にぶちこみ寝かせる。ふるまい用には2種の魚のカルパッチョを作り、魚の骨からだしをとったスープもあわせて作る。
炭水化物がないのはご愛敬、まあ、味見ぐらいにおもっていて。そのうち俺の店を出したらみんな食べに来てくれればいい。
船内放送により料理がふるまわれる旨周知され、甲板にテーブルを出し軽い立食パーティーが行われた。
酔い止め魔法もきいているようで、みんな無事で楽しそうだ。そして例の短期魅了のせいであっという間に魚もスープも消え去った。
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