第89話 シラタマ/鳳鳴山(3)

 鳳鳴山に静けさが戻る。虫の音もよく聞こえる。

 ここで肩をゆらし、未明みあかを起こす。

「終わったよ」

 夜風が気持ちいい。

 

 未明は左右をきょろきょろみて、ものすごくがっかりし、慟哭したように泣き崩れる。

「私、今回のことで…記録がきちんと…残せればッ…昇格してお給金があがるから…ちょっと無茶して志願したのに…迷惑かけてついて歩いて…果てには…寝てただけ…!!」

 もうグッシュグシュに泣いている。解決したため魔法でかけられていた緘口令が解かれ、感情があふれだした、らしい。この魔法が解けたことで、平定されたものと無効にも知れたのだろう。

 なだめる隙も与えず、泣き止んだのは30分後ぐらいだった。

 

 入山者の眼以外の映像中継を魔法で試したところあえなく竜に破壊され、下手に山を調査することによる首都に向けての攻撃を避けていたため、今やっと話せるようになったのだろう。結果俺のちょっとまずい剣技や魔法、ノリの使えるであろうえぐい魔法も何も使わずに終わったというオチだったが。

 今きっとあちらさんも映像が確認できているところだろう。


 相手の手の内もわからないのにこちらの手の内を明かすのは危険極まりないため、ドラゴンが倒せる普通冒険者を装い、いや、装えてないかもしれないが、とりあえず、普通ですむところは普通で済ます。普通と信じてくれ。


 ◆


 夜は野宿でやり過ごし、日が昇ると同時に下山する。そこここにいい食材があるが、許可を得ないで採取した場合罰則とかがあってもめんどくさいので一度帰ってからにしよう。

 未明みあかはとぼとぼと歩みを進めている。たまに出現する妖怪という名のモンスターを梅雨払いしながら下山する。明らかにモンスターの域を出ないので、もっとわかりやすくよく知る妖怪は出ないのか。


 そこから先は昨日同様ファットバイクにでサクラを目指し、あっという間に到着する。そして、城門をくぐると、結構な人数に拍手され出迎えられた。ちゃんと未明みあかを通しての報告がいっていたようだ。

 少し歩みを進めると王の使いの出迎えがあり、王の住まいへ向かう。ここは城というより内裏といったようなものに見えるが、共通で王城と認識しておいたほうがよいのだろうか。

 

「そちらはほんとうに強いのう!」

 謁見の間に再び通され、喜びあふれる王に面くらう。王!報告を待たずにお言葉を与えるなど、と側近があわあわするほどに。

「そして刻の庭、今回の戦況報告をせよ」

 未明みあかのことか。

「はい。鳳鳴山に入山し最初に遭遇した5体は竜種に至らず霧散、その後出現した個体については竜種に該当、いずれもユウ様、ノリ様により撃破。その後別個体の啼き声により当職意識消失、意識を取り戻した際にはこのお二人によりすべて、片付いていたことを報告します」

 平服しつつ淀みなく報告する。

 気絶してたってちゃんと言ったよ。偉いけど大丈夫か。


 「ご苦労。さて、討伐してきた竜種はいずこに。」

なんだか王はあまり気にしてないようだ。そして回答するように促される。

「私の持つ収納袋の中に入れ持ち運びをしておりますが、量がありますためこちらでお出しすることはできません。どこかひらけた場所にご案内いただければと」

「そうか。それもそうだな。」

 そう言うと、王が檀上から軽快に降りた。そしてそのまま外へ歩みだす。

「冒険者ギルド裏の倉庫へいくぞ」

 焦って追いかけるSPを伴いサクサクと歩いていってしまった。自由か。俺たちも追いかけねば。


 意外と王の歩調は速かった。先回りで伝達されたのか、ギルド回りの人払いもされていた。

「さあ、ここにその成果を出すがよい」


 できる限り妹のフリースペースは人前では披露しないほうがいいことは解っているため、大容量アイテム袋に手を突っ込み、そこから妹の倉庫に干渉し、大量の鳥竜種のなれのはてを取り出す。肉が残る竜を合計35体討伐していたので全部出したところ、倉庫の三分の二が埋まった。

 あまりの壮観さと血なまぐささにそろって呆気にとられている。

「この袋、この竜種からドロップした時間経過のない収納袋ですので、ともにお渡ししますね」

 収納袋の容量は大体東京ドーム1つ分くらいなので、この量なら余裕だ。っていうか、これもしかして全量献上納品になるのか?!

「そちらの働き、感謝のしとおしじゃ。約束どおり、店舗の提供と営業許可を与えよう。そちは店舗を出店したいと言っていたが、まだ料理人ギルドにいっていないようじゃな。いまここで判定承認してしまうか?」

 その一言でギルドの冒険者ギルドの職員が走りだす。食肉解体は冒険者ギルドの管轄だが、その先になると料理人ギルドの管轄なようだ。


 走って戻ってきた職人は、もう一人、やせた職員を連れてきた。料理人ギルドのエポレットカラーは白。機材一式をバッグに詰め込み息を切らせながら走ってきた。

「料理人ギルド加入は二人とも加入しますが、メインで使用するのは私です」

「了解しました」

 そう言うと、王命を受けた急造の料理人ギルドの認証が、衆人環視のもと行われ、登録される。


 また、何が原因かしらなないが登録と同時に、今回は俺のステータスボードにのみ文字が浮き上がる。

 

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