第203話 秘境イノハナ・白妙(6)

 師匠はいとも簡単に【分神ぶんしんの意識】を制圧、眷属とした。師匠に視界を分けてもらっていたり、魔力濃度の高い土地にいると言う事を加味しても、正直一体何がどうしてそうなったのか、鮮やかすぎてよくわからなかった。

 

『アオ、少しか何かわかったか?』

『いや、まったく。師匠って師匠だったんだね』

『確かにそうだけど』

『あ、師匠分神とかいうやつ、分割し出したんだけど、あ、もう。いとも簡単に』

『二個になっちゃった…』


 呆然と師匠のするしぐさを見ていたらもう、アオと頭の中で会話することしかできなかった。大魔法の行使以外でオレたちに教えようとするしぐさでの師匠しかほぼ見たことがなかったがために、日常の見てる世界が違う、さすがに千年魔女を師匠に持っているとしてもまだ魔法4年生であることは確か。

 別に甘く見ていたわけでもないけれど、一つ一つの仕草に無駄がまったくない。答えがすべて頭の中にあるような。


「私の動きが気になるか?経験則だよ経験則。過去の事例をもとに実験検証をしてひも解いていくのさ」

「実験っていつしてるんですか?全然わからなかった…」

「いつって、効くかもしれない干渉魔法をオートランで思いつく限りのパターンかけてたんだよ。大体これをやると、どこかでヒットする」

「うわぁ、思った以上の力業」

「分神なんてどこの領域に属するかわからない生き物をそんな雑な検証でパターン探索するんですか。それも経験則ですか?」

「うーん、まあ…。分神というのは捕獲した時点でレベルは1になるから、ゼロ育成といえば自分が望むように育成することは可能となる」


 師匠はそう言いつつ、さっきオレのつくった珠を半分ぐらいの大きさで分割、再び珠に再形成しオーナメントみたいな形にしてオレたちに渡してくる。その珠の中から微弱な意志ともつかないものが感じ取れる。


「このキノコかみ、意思疎通のヒントは私のさっきの交渉魔法だ。さあ、どうなるか競争競争!」

「師匠、こんな感じで分割して双子つくって拠点管理してたんですか?!なんか酷い…」

「そもそも分割された【神の素因】だぞ?このぐらいで神格が落ちることはないし、望む形での育成もするし、なにが酷いことがあるか!」

 自分の行動を貶されたと思ったのか、のらりくらりじゃなく、ちゃんと珍しく言い返してくる。

「その考えかたが、【神の素因】の上にいる神みたいなんですけど」

「いや、実際主なんだから、この【分神の意識】の親みたいなもんだろ。今はまあ、このキノコ、その意思らしい意思ははっきりしてないが。まあ、お前たちが育てるとどんな性格になるのか楽しみだな~私が育てると目も当てられない育ち方をすることが2回やって実証されてる。まあ、あいつらにお前たちもそのうち会うことがあるかもしれないし、ないかもしれない。」

 師匠がなんか恐ろしいことを言っているが、押し付けられた結果覚悟を決めるしかない。


 そんなことを考えているうちに、師匠が【分神の意識】を眷属化したことが影響してか、帰還ゲートが開いた。

 このダンジョンの報酬は精神攻撃を受けることと【分神の意識】を持ち帰ることだけなのかな?というくらい全く報酬らしい報酬もなく、ゲートが開いている。


「そうだよ、よく気付いたね。【神代】ダンジョンはノー報酬だよ」

 

 そういう師匠の言葉にがっかりした。

 いや、よく考えればオレもアオもいじけてただけで師匠に迷惑をかけていただけ。


 ほぼ何もしていないから、文句を言える立場ではない。

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