第202話 秘境イノハナ・白妙(5)

 永長と接続のきれたそのダンジョン主は、存在が揺らぎだした。

 今まで永長の心を媒介にしコロニーを形成、【神代】ダンジョンとナット王国の接続に成功。その扉を開くことにより【人型変異】により人の形を成す者を補足、そのスキルを菌類が行おうとして虹竜たちは天くんを半端なくあがめているがために失敗、永長からはうまく取り込めそうではあったものの、志摩の発破により撃沈。

 今、【神代】ダンジョンは本当に偶然のきっかけがないと出現しないと言われているが、そのきっかけがチーズさんのキノコ育成と、永長の不安だったのだろう。気持ちよくキノコの菌が当代のナットに浸食してこようかとおもったところ、たまたま世界の双璧の目にはいってしまい、人型をとりたいという野望はあっという間に潰えようとしていた。


 ◇


 そのダンジョン主は抵抗をあきらめたようだった。

「こんな感じでいいですか?」

 15センチ大の結界の珠にダンジョン主を封じることに容易に成功した。珠の中は菌糸に包まれた中にわずかな光が見える。キノコが意識を持ったわけではなく、意識を持つなにかがキノコを使役していた、という方が正しいらしい。ダンジョン主は何かを媒介することでちから発揮するが、その力の元とのつながりを絶つことで弱体化させ、捕獲することが可能となる。今も捕獲したソレは、微弱な感情とも言えない何かが伝わるようで、伝わってこない。

 

「よしよし、【分神ぶんしんの意識】を捕獲できたな。上出来上出来。これで悪さもできないだろう。で、ここで問題。【神代】ダンジョンを踏破後、もう一回入り込む方法を考えてみよう!」

「もう一回立ち入るといえば『瞬きの窟』のゲート設置まだしてないですよね。救国の魔法使いさん、城にゲート設置するとか言っていたのにシラタマにいっちゃいましたね。別に急ぐものでもないですが」

「むしろあそこ、立ち入らない方がいいよ。なんか色々危ないし。でもあとで言っときます」

 チーズさんが落下したのを思い出したのか、アオは身震いしている。

 

 

 師匠が言う【分神ぶんしんの意識】とやらを何回かアプローチを変えて探査をしてみるが、はっきりしたものはわからない。

「ヒントを言うぞ~こいつは一体何を求めていた?」

 そう言われ、空を仰ぐとまだ菌糸からの幻惑から離れることができていない3体の【人型変異】により人間の女性の姿をかたちどる者たちを眺める。

「それは、あれを見て考えうるのは、女性型の【人型変異】ですか?」

「人になりたそう、ではあるよね。永長に化けてたし。不完全だったけど」


 師匠はにこにこしながらオレたちの議論を見ている。答えを知る千年選手にティーチングという名の娯楽を与えているってことはわかっている。弟子になってここ4年、凍結魔法を使用するまでは無茶な狩りとかはあったけどここまで珍妙なことはまずなかったし、未踏破ダンジョンだって入ったことはなかった。今回もまあ、師匠に引きずり込まれたといえばそうだけど。


「人型変異を他者に行うような魔法はない、よな。」

「しいて言えば、眷属にして矯正レベリングしてスキルを取らせる?」

「主がスキル取得の可否、契約の当初に設定できるんだったよな」

「チーズさんところのういは、特段設定されてなかったから自由に取ってるっぽいし、レベルに付随して知能のレベルもあがっていってるなあ」

「…これ、眷属にできるのかな?」

「師匠?」


 ちゃんと話を聞いていた■■様。

「ちゃんと正しい方向に推理が向いているな。では、【分神ぶんしんの意識】をどうしたらダンジョンが消滅して、どうしたらダンジョンが維持できるとおもう?」


「倒すと消滅、だよねそこは」

 アオがさっそくそこは答える。簡単な方を先に潰していく。

「となると、師匠の指示で【分神ぶんしんの意識】を捕獲したことをふまえると、これをどうにかすることで、維持が可能ということ、でいいのかな」

「じゃなきゃ捕まえないよね」

「ダンジョンから生け捕りしたうえで脱出かな?」

「お前生け捕りって言い方」


「もしかして!眷属にすることで【神代】ダンジョン踏破実績解除、連れ出してレベリングしたうえで【人型変異】を覚えさせたら再入場可能になるとかそういうこと?!」

「でもこれ、1匹しかいないよ、3人でクリアしようとしているのに」


「わたしは、いらないぞ。実はな、【神代】ダンジョン主をわたしはもうすでに眷属にしているからな。あ、志摩と永長は違うぞ」

「僕も天くんだけで充分だよ。めんどくさい」

「は?!オレに押し付けるの?!それこそわりと巧緻的なものとかめんどくさいもの、全部オレのところにきてないか?!」

 

 目をそらす師匠とアオ。自覚あったんだな。でも、さすがにここは、引いたら負けだ。

「これって分割できないんですか。そもそもが【分神ぶんしんの意識】っていうぐらいだから【1/3の分神ぶんしんの意識】とかにしてしまえばいいんじゃないんですか?」

「は?!面倒ごとを3倍にしろと」

「三分の一っていってるじゃないですか」


 師匠はなんかどうしたらいいのか悩んでるのか、すごく変な顔をしている。うん、引いたら負けだ。っておもいつつじっと見つめているとその「面倒ごと」について話しだしてくれた。

「……実は拠点20の管理人のうち、お前たちを連れて行ったことがない拠点の2か所、【分神ぶんしんの意識】を【人型変異】させた、しかも2分割した奴らが管理してるんだよ。そいつらに会ったら、どんなに面倒かがわかる。でも、会わせたくない。眷属でありながら、正直極力関わりたくない」

「じゃあ師匠が契約して、いまアトルは志摩だけで管理してるから、【分神ぶんしんの意識】を育てて新たな管理人として充てて志摩をナットに連れてきたらどうなんです?」

「お?そういう事言うか。そーかそうか。そこまで言うならわたしがコレと契約して、お前たちに代行権をつけるから競って育てろ。育ったら志摩と永長と交代。いいな?」

「あっ…」

 

 アオが自分のやらかしに気が付いたがもう遅かった。

 そしてオレは巻き込まれる。

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