第14章 浮世音楽堂
第237話 浮世音楽堂(1)
アオくんがノリさんと戻ってきたらなんか、アオくんが妙に大人びてみえた。ほんの数日だというのに。
万が一他者に聞かれたら困るためミルクスタンド内に防音壁を展開、ナット王とアオくんたち兄弟のお姉さんの状況について情報共有を受けた段階で、実力が及ばないうちに、周りの展開が早まっていることに多少の焦りは覚えてきた。よしよしいいこいいこと育成されている場合じゃないよね、私も。
魔女さんにもそこは気にしなくていい、復興と環境づくりに注視してくれ、と言われていてもやっぱり何かしらの協力ができないかと気になってしまう。しかも自分が今後どう育成していくのがいいのか、が、まずわかっていない。闇雲だ。
ただでもこの転写世界で、私を取り巻く人々は、すべて、アオくんイオくんも含め実力がある人ばかり。いつも私がどこか行くときにはアオくんがついてきて、サポートをしてくれていた。天くんに至っては生後数か月でわけのわからない強さ。ういも私とレベルはかわらないというのに、神聖魔法特化でその分野に関して超つよい。
「王まで祓っちゃったらまずいから、ういは王には魔法、つかっちゃだめだって。敵じゃないって。わかった?」
そう言うとういは顔をなめて返事をする。肯定のときはなめてくれる。転写前も積極的に話しかけていたのでどんどん人間の言葉も理解してくれるような気がしていたけど、今となっては内言語が育っているようだから、本当に肯定してくれているんだと思う。早くういのなかで折り合いがついて、話せるようになるといいのに。
「ういがその紅鳶の残留思念を祓っちゃうっていうのはありなのかな?」
「いや、それは反動が来たり、ういくんに二次被害がきたりすることは避けたいから、やめたほうがいい」
「だって!」
そう言うと、再び肯定してくれる。ういは賢いな!
「結局、今できることは草の根調査、基礎レベルをあげることが先決ってことでいいんだよね?」
「そのとおり。そこでだ、ユウ?」
「なんだ~?」
兄さんはこの世界の食材での再現レシピを隙あらばつくるようになった。こないだは日本で馴染みがほとんどないブラッドソーセージを作り出したときはびっくりした。知識はある。でも、写真でしか見たことがなかった食肉加工を目の前でされる衝撃。
今日はクスクスという米粒のようなパスタを自作しているので、そのうち何かの食べ物の一部に化けると思う。
「紅鳶の残留思念のパターンがさ、私が刺激したらおかしな動きをする可能性があるとおもうんだよ」
「で?要件は何だい、色男」
「酷い物言いはやめてくれ。具体的に言うと、力の繋がりと在処がわかる世界全体を探る魔法、教えるから走らせてくれない?いつも私が暇つぶしで行ってた魔法がざるだとすると、行ってほしい魔法は網に匹敵するぐらいの差がある。多分大まかに走らせていたから紅鳶の呪い関係に影響が出ていなかったと思うけど、念のためユウが前の世界で覚えた魔法のパターンを使って組みなおしてほしい」
「は?!いや、別にいいけど。お前がその魔法組むのにかかった時間はどれぐらいだ?」
「80年ぐらいかなあ。そんなに集中してはやっていなかったけど」
兄たちの会話は途方もない。アオくんと天くんとういは、自らの定位置、といっても同じソファに並んでいるのだけど真ん中にういをおいてなでながら兄たちの話を聞いている。
「まあ、魔法の再構築というのであれば1年もあればできるだろうけど、それは待てるんだよな?アオ」
「待てます!今とりあえずは王の肉体も、姉の状態も時間停止魔法の中にあるようなので、大丈夫だとは思います。王の骨に関しては年数が立てば劣化するかもしれませんが…」
そう言うと兄が噴き出す。ついでに私も噴き出す。
「お前、何気に凄いこと言うな!」
「数年ではたぶんならないよ!」
「えっいや、軟骨とかは剥がれ落ちてますよね。一応なんかモヤで包まれてますけど、骨だけではあるんですよね。関節だってあるけど腱はないし、クッションになるものが何もないじゃないですか!」
「いや…それは…どう思う?」
兄が質問してくるがそんなことわかるか!と思いつつ適当言うことにした。それにしても突然人体の構造で攻めてくるアオくんもわけがわからない。面白すぎ。
「多分、モヤが役割を果たしているか…魔力…?でも王の魔法って聞いたことないけど何が得意なんだろう」
「知らない」
「僕も知らないです」
そして注目はノリさんへ。
「王の魔法は秘匿された一子相伝魔法だよ。多分私とあーちゃんしか具体的なことは知らないと思うし、口にしてはいけないし、何かに書き記してもいけない内容なので、言えないんだ。ごめんね。あ、でもその魔法が原因で骨が動いてるわけじゃないよ。あれ、何なんだろうね?そもそもが致死性の高い【闇】魔法だから、さすがに想定外なのかな?」
「ノリがわからんものならだれもわからんだろ」
「それはそうか」
「あ、『あーちゃん』というのは師匠のことです」
そうですか。
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