第118話 ナット/食料難からの脱出・釣(2)
西の離れの先の川は、いつしたのかは判らないが、氾濫しないよう、土盛りによる治水工事がされていた。水量はまあまあ、誰も触らないがために草や土がそれなりにあり、石やコンクリートを使用した工事でもなかったがために、魚の生育環境としてもまずまず悪くない状態だったらしい。
「魚、いますね!」
「私の鑑定で食用かどうかわかるかな~。」
「一応、この国の食用魚の本というのを探して魔石データにしてステータスボードへ入れてきましたけど、ちゃんと見比べなきゃですよね。トラブルとかあったら困りますし」
日本と同じであれば川魚は臭みをとる処理とか、寄生虫の観点から冷凍か焼くかして生食を避けなければならないが、どうなんだろうか。ちなみに今回は偵察として、私とアオくん、そして学習人員として2人、合計4人でやってきた。
そこまでは、普通の釣りとなる予定だった。
◆
まず、初手を間違ったことは否めない。
試しに作ってきた撒き餌をし、魚の出方を見る。そうみていると、なんか、様子がおかしい。
魚とおぼしきものが水面に大量集結。それがどういうわけだかフォーメーションを組みながら浮き上がり、空中展開。魚たちは口を開き、口の中にエネルギーの集積もついでに確認。
これ、ピラニアに似た魚型モンスターじゃないの。しかもこれからしようとしている技ってレーザービームじゃないのか?!
身の危険を感じたため、私の後ろに連れてきた二人を庇い隠す。そしてレーザーを拡散できるかどうかはわからないが、防御魔法を展開、というか私のこの【地】属性魔法でどうにかなるもんなんだろうか。とりあえず、大きな土壁を作ったうえで、出来るだけ拡散するように、土ぼこりを立てて伏せてみる。
思いのほかこれは やばい やばい やばい
この魚たちのレーザービームの威力はわからないけれど、貫通したらどうしたらいいんだろう。万が一はないとは思いたいけれど。
と、思っていたらエネルギーの照射が行われていたであろう、空気の動きを確認。
あ、これ、よく古い小説とかで読んだ「
そのタイミングで、私の頭上に気配。
「そのまま伏せててくださいね!」
鬼教官!
伏せろと言われているのに怖いものみたさで中空をのぞくと、アオくんはなにか良くわからない防御魔法を展開し、屈折して反射する。魚型モンスターたちは大きくはない叫び声をあげ、消滅。ただ、あまりにも放置されていた川。まだまだ魚型モンスターはいて、次々と襲い掛かってくる予備動作が展開されているよう。
「ん~…まだ続きますね。どうせまたモンスターだから沸くでしょうし、いっそ殲滅しましょうか。いいですよね?」
「よろしくお願い!助かる!」
「了解ですよ~」
その後続く反射音。どれだけの数がいるのか、5分程度その音が続き、音がやむ。
「うわ!こいつら合体すんの?!」
「アオくん?」
隠れていろと言われたというのに、うっかり立ち上がってしまった。そうすると目前に、20匹くらいのピラニアのようにあ魚型モンスターが合体した、まるでリュウグウノツカイみたいな形の魚が現れていた。
しっぽをこっちに向かって振り、そこから電流のようなものが走ってくる。アオくんは余裕かもしれないけれど、ここは私が【地】属性魔法で対応。電流であれば土である程度拡散できる。
その後、口からこんどはレーザーではなく、火を噴こうとした予備動作を確認。それを見るなりアオくんはどこからか取り出した長剣で頭から真っ二つに切り裂き、その剣を横に振り、血液を振り払う。
「終わりでしょうか」
「多分、終わり」
地に足をつけ、展開をしていた魔法をすべてしまう。
本当に失敗した。
肉について南の森という知識が備わっていた国で、魚の話が出てこなかったんだ。そこは、警戒してしかるべきであり、偵察もなく、最初から西の離れの人員を割いて連れてくるべきではなかった。
ついてきてくれた職員さんの手を引き立ち上がってもらう。さすがに恐怖を感じた顔つきに。
レーザービーム、速度も相まって怖いと思うし。
「もう大丈夫ですよ。最初に私たちだけで偵察するべきでした。ごめんなさい。」
「どうもこの川、魚型モンスターの縄張りになってるっぽいですね。食用はちょっと、あきらめた方がいいかもしれません」
そういうと、ついてきた職員さんは、「俺たちの食料のためだったのに。こちらこそ申し訳ない」などと、逆に謝ってくれたので、とっても申し訳ない気持ちになった。
ちなみに、アオくんが大量に倒した魚モンスターは魚肉にならず、すべて水色の小さな魔石になっていた。
リュウグウノツカイのような合体モンスターについては、私の知る魚同様、食用魚ではなかったようで、こぶし大の水色の魔石と、ドロップアイテムとしての3センチぐらいの鱗が2枚。
謎の鱗について気になるため、早速鑑定をしてみる。
【幸虹魚の鱗】
幸運が訪れると言われている鱗
「幸運だって。今回のドロップは正直助かったので、全部アオくんで」
「わかりました。でも、鱗は1枚、チーズさんにあげますね。」
「え、急に立ち上がって迷惑かけたのに!?」
「いえいえ、協力ありがとうございました」
そういうとアオくんはにこにこしながら、1枚私に渡してきた。これは、断れるはずがなかった。
そして、怖がらせた慰謝料です。といいつつ、小さな水色の魔石を10個ずつ、同行した職員さんに渡していた。
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