第117話 ナット/食料難からの脱出・釣(1)

 脱走した兄似の仔竜改め大黒天くんをウララさんに無事お返しし、一安心。

 当の大黒天くんは自分の名前が付いたことがうれしそう。

 「ぼくのなまえてん!てんだよ!」と喜んでいるので、そのうちてんてんとか呼ばれてしまうんだろうなあ。まあ、すでに呼びそうだよ。

 七福神ネーム即決とか、兄上はおもしろいセンスをしていた。


 でもなんか、その名前、こう、なんか、記憶の端っこにひっかかる。

 

 現状、野菜の育成計画は順調、肉はてんくんがオーバーキルしたのでいっぱいある、次は魚をどうにかしたい。


 現状、ナットの地図をちゃんと私は把握していないが、どうみても内陸の国だ。あるのは川と湖か。正直地理が全然わからない。ネルドにいったときは最初から外に転移してからのスタート、王城の自分の家と西の離れ、南の森しか正直わかってない。

 国内の地図はあるにはあるが、かなり不鮮明な場所が多いため、とりあえず川や湖等魚が捕れる場所を確認したほうが良いのではないかな。漁業は完全に門外漢であるものの、みんなの健康のために、魚のたんぱく質もやっぱりあった方がいいと思う。


 正直、道具はないが、釣りはしたい。やってみたい。


「王城に釣り竿ってあったりします?」

 私を南の森に転送したあと、ウララさんと共にいてくれた魔女さんとイオくんに訊いてみる。


「わたしは記憶がない。そもそも釣りをしようと思ったことがない。海洋王国であれば、網やら釣り竿やら売ってるかとはおもうが、この国は内陸に位置しておるし…イオはどうじゃ?」

「釣り竿らしきものが確か倉庫にあったようなきがするんですが、確かめてみないとわかりません。」

「倉庫も近いし、今から探しにいってみるかの。」


 私とアオくんもその釣り竿探しに同行させてもらうことにし、西の離れと王城の間にある、鍛錬場と併設されている倉庫に向かう。結構近くにあるのだけど、王城の認識阻害の範囲内にあるため、今回復活したみんなは、その『倉庫』自体、認識できない、ということなので行けるのは王城を認識できる我々初期メンバーのみとなる。


 ◆


 その倉庫は、ごちゃっとしていた。

 本当に、釣り竿があるのかも、しれない。しかしほんとうに、わからない。


「うわっ汚ッ」

「イオ立ち入ったことあった?」

「全くない」

 双子がものすごく嫌な顔をしながら、その倉庫に率先して立ち入った。

「わたしもゆうに100年は立ち入ってないからの~。そもそも宮廷魔法使いをやっておったのじゃ、ここに用はほぼなかったしな」

 確かに、そうかもしれない。


 魔女さんがすっとてをあげると、倉庫中のほこりが取り除かれ、手の上で泥団子のように固まった。直径15センチぐらいあったので、かなりの圧縮具合だと思われる。

「これでさがしやすくなるじゃろ。さて、探すか。」

 これでも結構ごちゃごちゃと積み重なっているので、どうするのかと思いきや、ふわっと浮かせたうえで整列させていく。全部魔女さんがかる~くやってくれているのだけれど、これって結構大変な気がする。

 

 「あ、ありましたよ釣り竿!」

 アオくんがその浮いているアイテム群のなかから目的物を探し出す。

 本当にでたらめな魔法持ちがいっぱいいすぎて、自分ももっと色を出していかないと負けてしまう。いや、負けてられない。


「これ、糸、切れちゃってますね。」

「ほんとじゃのう。糸の在庫は西の離れにもなんかあるじゃろ。」

「え、テグスとかあるんですか?!」

 化学繊維のあるような世界に見えなかったので、聞いてしまったら、なんじゃそれって顔をされた。もしかして、大昔からの亜麻糸・麻糸・綿・絹みたいなそういうことか。

「あ、なんでもないです。元の世界のことです。」

「もっといい糸がそっちの世界にはあるのだな。こっちの世界でも主釣りの報酬とかで釣り竿のドロップがあるとかは聞いたことはあるのだが、わたしは見たことが、ないな!それは自動的に糸がついているというらしい」

 

 「そもそもそこまで釣りが得意な人、いないですよね。この中に。」

 

 ちょっとアオくんが考えた顔をしてこう続ける。

「たぶん、あにさんが得意かもしれない…」

「また兄さん?!」

 本当に一体なんなんだあの兄は。そんな何でも全部できたら、パラメーターマックスのゲームの主人公みたいじゃないか。


 「そして川釣りができそうなところなんですけど、僕の知っている限りでは西の離れのその先に川はあるんですけど、魚がいるかどうかとかはわかりません。この国、ほんとうに食い潰すだけ食い潰して、ほぼほぼ輸入に頼って生活してきたので、ほんとうに情報が全くなくて、困ったことにわかりません。申し訳なさすぎます。」

「わたしが知っている限りでも、採掘以外なーんもしとらんかった記憶じゃよ。そもそも際限なく採掘してしまった責任はわたしにもあるんじゃが…」

 

 魔女さんはそっぽを向いてばつの悪そうな顔をしているが、もう終わってしまったことは仕方がない。今回の最終到達目標は『復興』。いかにリカバリーをかけるかどうか、ということとなる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る