第149話 ミソノ山/偵察隊(7)

 真っ二つになり、地上に落下したグリーンスターは、やっぱりというか、消滅しない。なぜかチーズさんを狙うし、なんなんだコイツは。またぴくぴく動き出して気色悪いので、燃やしてやろうか。

 

 と思いつつも、こんなものがナットで増えても困るので、真っ二つになった眼の力を封印する魔法をかけたうえで、拘束する。しかもこれ、切断面から分裂して2つになりかけている。

 

「うわー…プラナリアみたい…。これ、滅ぼしたほうがいいよねきっと。変に強くなったり増えすぎたりしたらこの国の脅威だよ」

「熱はだめ、切断もだめとなると…あ、そうだ。砂漠ですけどもう周りに外敵もいないので、通信しちゃいますか」

「じゃあ準備するね」

 

 突然チーズさんは大きなパラソルを立て、そして椅子を組み立てだした。この人は一体なんでこう、変わったものを次々と。

 

「これ、キャンプ用品だよ~。亜空間とはいえ日陰つくって椅子あった方が話しやすいでしょ。最近筋力あがってきたのか、こう、このぐらいの設置組み立てだったら一人でできるようになったんだよね。すごいね異世界」


 二人掛けのチェアは座面が木材でできている。これだと暑くても座面が暑くなりすぎなくていいな。


 飲み物を準備したうえで、足元に拘束されつつも2匹に分裂したうえで再生されてきているグリーンスターを転がした状態でイオへ思念通信を開始する。遺伝子のなせる業なのか、地下にいようがどこにいようが、常に通信が可能。むしろ、今まで生きてきた中でイオを感じなかったことなんて、一刻もない。

 

「イオ、今その辺に師匠いる?あ、じゃあこっちと通信繋いで~。映像結べるように石置いてあるから。うん、よろしくー」


 横でグリーンスターを観察しているチーズさんにまもなく通信開始されることを伝える。チーズさんはというと、切断面から再生していく様をみてにこにこしている。楽しいんだろうか。

 

「これホント面白いけど、放置もできないし厄介だよね」

「え、面白い?!」

「えっ面白くないの?!」

「こうなんか再生されるとか、培養されるとか、楽しくない?!」

「……人の趣味の否定はしません」

「えー…」


 そこで師匠からの通信が入…らなかった。今回はことがことだけに、亜空間でも映像が鮮明につながるような、通信経路が保てる高品質の魔石を使用しているから、ずいぶん鮮明だな~とかおもったら、鮮明どころじゃなかった。


「来ちゃった!」

 にっこにこした師匠。


「ついて来ちゃった!」

 明るくいいながらもいやそうな顔を隠しもせずに、ついてきたイオ。完全に負の感情が漏れ出ている。


 なんということでしょう。師匠とイオが、来てしまった。


「お茶いれますね~」

 僕たちの座る椅子の逆側にこんどは一人がけのキャンプ用の椅子を2脚あっというまに設置したうえでお茶を入れだすチーズさん。さっきまでなんか分裂がなんとかいってたとはおもえない。


 因みに足元には相変わらずグリーンスターは転がっている。

 

「なんじゃなんじゃ、変なものがでたのか。ふうん。もともとがサンドワームで、雷魔法で表面が焦げて孵化したと。特殊進化なんじゃろうな。サンドワームからの例は初耳じゃが、その他の昆虫系かつ幼虫期の場合なにか特殊な攻撃を受けた場合羽化するんじゃよ。わたしが過去みたことあるのは、レッドスターじゃな。」

 

「レッドスターですか」

 

「それもカラーシリーズのある昆虫じゃったのだが、赤・スカイワームというやつで、氷魔法でレッドスターになりおった。死なぬうえに切っても増えるので、封印魔法をかけたうえで収納袋につっこんで再封印、そのまま私の収納の奥底にはいっておる」

 

「収納に…ってことはこのグリーンスターも、始末不能ってことですか!気持ち悪いですね!」


 チーズさんがお茶を出しながら、そう言う。さっきまで面白いとかいってなかったか。

 

「お前の兄と……アイツ…ならなんか知っているかもしれないが、今私が知りうる限りは手立てがないな!実験していたずらに増えるのも嫌じゃし考えないことにした!しかも自分の収納以外に入れておいてうっかり封印破られた時のことを考えると手から離せなくてな。こんなかわいくもなんともない攻撃的な一つ目、どうしようもないじゃろう!増えるし!」

「魔女さん一体何匹まで増やしたんですか」

「…ちょっと言えない…しかもこれ、飲まず食わずで普通に生きづけるんじゃよ?怖いじゃろ」


 僕たちが師匠の弟子になってからは本当に知らない。ということは僕たちが弟子入りする前の事件なんだろう。ほんとこの人は何をずっと飼っているのか。

 

「……じゃあ、何か知っていないか兄たちにあとで私、聞いて見ますね」

「ありがとう…いや、本当に始末にこまっておったのじゃが、別のカラーシリーズが…アオが変なのでた!キモ!!!っていってるってイオからきいての?それはもしかしてとおもって来たのじゃ。あと新ダンジョンなんてレアものは体験したいじゃろ。私もイオも。」

「俺もですか?」

 

 巻きまれたイオ、不機嫌極まりない。きっと今日、これから何しようとか予定立てていたのが全狂いというのもあるっぽい。

 

「踏破されていない、プロセスの確立のしていない高ランクダンジョンは脳汁が出るぞ。しかもここは、ナットの復興が叶ったとしてもミアカが近くにある手前おそらくは公表されないダンジョンになったうえで、転落のおそれありで、政府管理になるじゃろうな。整備して一般開放もあるかもしれんが、木の根がなくなったことでいきなり凶鳥が躍り出るとか恐怖でしかないじゃろ。」

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