第148話 ミソノ山/偵察隊(6)
案の定サンドワームはチーズさんの魔力充填に気づいた。この場合襲ってくるか逃げるか。ここで砂の中に逃げられた場合、いかに強大な雷魔法だったとしても砂のせいで届かない。ダメだったらもうここの戦闘は諦めるほかない。
というわけで、補助といっていいのかわからないけれど、逃げ込まないように固定魔法を投げようとしたが、逃げ込む速度が遅い。あ、これ、さっき使っていた時間魔法。
一般的とは言い難い魔法特性を持っているとはいえ、気づけば2種魔法の同時発動も難なく行い、いくらバフをかけまくっているとはいえ、適性レベル以上の狩りを容易に行っている様は、意味が分からないぐらい、すごい。
後ろから完全に観客として観戦しているけれど、ライブ感があふれていて完全に劇場の最前列みたいだ。チーズさんの両手が天に向けられ一気に振り落とされると同時に轟音とともに特大の雷がサンドワームに落ちる。
防御魔法により轟音も軽減はされているけれど、それにしても眩しいし、耳が痛い。
「やった?!」
開口一番それ。砂埃の先をサーチ、鑑定すると赤・サンドワームは撃破、赤の魔石となっている。問題は緑・サンドワームだった。雷の攻撃により外殻が焼けこげ、ただ、その『中』が雷を吸収し、ワームの背中がぱっくり割れて、強烈な魔力があふれ出す。もしかして緑は特殊条件下で孵化条件を持つレアモンスターだったんだろうか。
「緑・サンドワームが残ってますし、変化していまもう別の名前になりそうです。今度は銃を構えて援護側に回ってください。」
「仕損じてた?!ごめん!ありがとう!頼むね!」
僕が表に出ることが決定したため、またパーティーを組みなおす。多少面倒でもこれをしておいたほうが、パワーレベリングとまではいかないものの、経験値を分けられる。
おそらくは僕とイオの強さのランクを考えるに双璧の魔法使いである凍結の魔女、救国の魔法使い。そして
チーズさんが僕の後ろに下がり、僕は緑・サンドワームの変化の先を見ている。虫系なのに熱に強いとか、特殊個体としかおもえない。一体どう化けるのか。背中の割れ目から、まるでトンボのような羽根が見えだす。
「羽化してますよね」
「何になるんだろう。なんかきれいだといいね」
「傾向として、美しくなると強くなりますよ、なぜですかね」
「儚くはならないんだ…」
防御から毒耐性、麻痺耐性まで思いつく限りの支援魔法を自分たちにかけ、とりあえず待機してみる。正直羽化してる最中に潰してしまってもいいとは思うけど、せっかくなんか面白いことが起きているので、結論を見届けたい。
そしてそこから10分。なぜそんなにかかっていたのかというと、チーズさんのかけた時間干渉魔法により、羽化の時間まで遅くなっている。もしかして雷の直撃にしても動きが遅くなる魔法が原因でじっくり焼けたせいでこう、特殊進化がおこっている可能性すら出てきた。
ピンと張った羽根、そこから出てくる人間っぽい背中、でもなんか全身緑色。眼は赤く、ただ、温泉襲撃犯テミスと同じような空気を感じる。ただし、雄っぽい。そして、ものすごく口が大きく、牙が長い。正直かわいくない。
「アオくん、これ、ハズレ?」
そんなことをのんきに僕に言ってくる。でも僕もこれ、ハズレだとおもうなーーーー。
【グリーンスター】 レベル135
再度このモンスターを鑑定してみると、名前が変化し、強さも格段にアップしている。レベル135でこんなにプレッシャーを生むことが、特殊個体である証拠みたいな事になっている。
人型の魔族は発生していなかった、という救国の魔法使いさん情報からいっても、いま目の前にいるコイツは人型に属すように見えるってことは、この世界自体が変化しだしているという事かもしれない。ただ、今のところ知性があまり感じられない。
長剣を収納から取り出し、構える。グリーンスターはにやにやしながらこちらを見ている、かと思ったら奇声をあげ、僕を飛び越えてチーズさんにとびかかり、大きな口を開けとびかかると同時に、頭を銃で撃ちぬかれた。眉間を完全貫通したのでちょっとあっけにとらわれた。
「あれ?いけちゃった?」
グリーンスターは羽根を震わせ滞空したまま、静止する。眉間からは青い血が噴き出るわけではなく、細々と流れている。
「消滅してないから、まだかもしれないですよ」
「なんで血が青いのに眼が赤いんだろう」
「いや、その話はあとで」
滞空していたソレは、視線をチーズさんに移し、またも奇声を上げる。
チーズさんもそのモンスターからの目線を感じたがためにうっかり見上げてしまった結果、視線が合うか否かで、何かしらの魔法が発動する動きが見えた。瞳が大きなモンスターの持つ能力のパターンは睡眠とか昏倒とか碌なものでは大体ないのは冒険者の共通認識、変なモンスターで遊んでいる場合ではないと思い、間を詰め、一気に手にした長剣で頭から真っ二つになるよう、斬りつけた。
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