第137話 シラタマ/都・MSホッカイドウ(2)

 特別営業初日が終わった後、兄と魔法使いさんからの通信が来るかと思ったらこなかった。そして翌朝昨晩しこたま呑んだと思われる兄からの通信がはいり、給与の分配と料理の提供が終わったとの知らせが。

『これからも定期的にこれ、やった方がいいかもしれないと思うんだけどどうだろうか?』

「毎月だとキツくなるかもしれないから、ランダムにしておく?」

『そうだなあ、そういうことにしようかな。あと、山の裏にどうもブドウの原種が自生してるっぽいから、視察してから帰るわ。』

「わかった、気を付けて。作れそうだったらワインつくりたいやつでしょ」

『そのとおり~』

 

 そして、特別営業2日目。

 

 微妙に昨日と客層が違う。若い女子と、妙齢の淑女が増え、真ん中層が消えた。お客さんたちの話をきくと、友達から好みの少年たちがいるために、昨日いった私たちは遠慮するので行ってごらんなさいなみたいな促しを受けたらしく、昨日の客層が真ん中だったとしたら今日は上と下、といった感じだ。


 お客さん曰く「目の保養イコール生きる糧です!ありがとうございます!」と言ってくるが、結局我が一族私のビジュアルだけ凡庸なんでしょうか、教えて神様。

 

 今日も特段トラブルもなく、営業終了。お客様たちの中で「推しに迷惑をかけられない」協定があるっぽいらしく、恐ろしいほど統制がきいている。そして私はちゃんと「店主の妹」という共有認知を得ることで、攻撃対象からははずれたようだ。兄、独身なのに見た目瓜二つの実子っぽい竜はできるは、近づくやつはぶっころす協定に巻き込まれるは、彼女らしい彼女がいたのは学生時代までだったというのに、その後の人生あまりにも傍目に見てても女っ気がない。


 まあ、救国の魔法使いさんに至っては、想い人がいるのはわかるしとんでもなく拒否られているのでがんばって、としか。言えない。


 そして夜には兄から船に乗り明日またシラタマに入る。そして明日から3日の待期期間が終われば今回のミッションは終了、っていう話となる。


 兄たちは明日からサンショウで温泉というのは、先日の温泉旅行が半ばホラーになってしまった私としてはうらやましい。

 そして気づいたことがある。温泉一緒に入ってくれる同性が致命的にいない。魔女さんはナットの国外にでることが難しい、志摩は基本アトルで保守業務、永長はナットで看護業務、子育て真っ最中ウララさん。詰んだ。

 そして私をホラーに巻き込んだ温泉地であったアレはちょっと魔法使いさんの抑えはきいてはいるものの、割と本気で遠慮したい。

 私の体が動かなくなったアレ、敵意とかそういうものではなく、幼すぎてコントロールが効かないがために、威圧が抑えられなかった、と言う事らしい。あんな見事な肢体をもってしてアレ。末恐ろしい。


 特別営業3日目

 

 早朝、兄から船が到着したという知らせを受ける。

『とりあえずシラタマには戻ったから、もうちょっと頑張ってくれ』

「結構みんな協力的だし、お客様たちも楽しそうにしてくれるし、大丈夫だよ!ゆっくり温泉浸かってきて。魔法使いさんも元気?」

『元気ですよ~。』

「気を付けてかえってきてくださいね~」

『ところで…あの…■■から連絡とか何かあったりした?私の事なにか言ってたりしたりしない?思い出したとか』

「いや、私は通信してないですね。」

「僕もイオとしか話してないです」

 あからさまにがっかりしている。が、なんというか、原因はわからないけど、あれだけ拒否られてても自分のところに帰ってきてくれるって千年信じてるのほんと健気だな。気絶されてたけど。


 特別営業4日目


 店員さんたちも私主体のオペレーションにも慣れてくれて、お客さんも減ることはなく、きっちり仕事がこなせている状態。店舗は常にきれいに保って、店の真ん中には守護神アオくん天くん。いや、何のトラブルもおきてはいないが。明日には店主が帰ってくるので、今の特別営業を楽しんでもらえるように盛り立ててよかった。

 

 そういえばこのミルクスタンドホッカイドウの建物、客間が2部屋ある。その客間に私が1部屋、アオくん天くんが1部屋使い、寝泊まりしている。こう、兄も私も客間を作らなきゃいけないという意識は昔から染みついているんだろう、って思う。出面でめんさんが泊まり込みできてくれるとき用の部屋だ。出面さんとは、農作業のお手伝いをしてくれる人の事だけど、どうも北海道の方言であるってことを最近耳にしたけどマジなんだろうか。


 特別営業5日目


 オープン前、未明の出勤前に兄と魔法使いさんが帰ってきた。

「ただいまー!店護ってくれてサンキュー」

「おかえり!楽しかったよ。兄さんすごいいいバイト雇えてるね」

「そうでしょそうでしょ。自慢の子だちだよ。どこに出してもおかしくないように、きっちり育ててるよ。男子も女子も。ここを卒業したあとに、ちゃんと身の回りのことだけはきちんと自分でできるように。」

「そういう細かさが異性を遠ざける…」

「なんか言ったか?」

「いや、なんも」


 その後バイトのみんなも出勤してきて、通常営業メンバーと特別営業メンバーが集まる営業が開始され、大変好評を博した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る