第136話 シラタマ/都・MSホッカイドウ(1)
兄の下準備は完璧以外の何物でもなかった。
私も転写前の世界では乳類関係と販売系の食品衛生系の資格は一通り持ってはいたけれど、この世界というかこの国では特に持っていないから大丈夫だろうか。
と思ったら兄たちが不在の時のためにバイトリーダー?の
兄も言っていたけど、ナットの生乳生産地・ミアカと同じ名前の人がこの仕事を手伝ってくれているのは本当に縁を感じる。
ただ、万が一兄も未明さんも不在となることがあるかもしれないから兄が帰ってきたら私も念のためこの国の資格とっておこうかな。
指示された工程をすべて完了し準備完了。
「下準備完璧ですね。さすが妹さん」
未明ちゃんにお褒めにあずかる。
開店後基本私が行うのは、金銭の預かりがあるためレジ・会計だという。
ちなみに、この国のレジはものすごくアナログだった。ただ、すべてワンコイン設定しているために苦にはならないようになっている。
ほんと、かゆいところに手がとどくというか、そういうところが上手なんだよな、兄。
ちなみに私のアルバイト経験は、大学生時代のドーナツ店程度。一応結構お客さんが多い店だったのでそこそこ頑張れる気がする、けど、どうだろう。
開店30分前、アルバイトさんが出勤してくる。いつの間にか外には行列が形成されている。そういえばこの人数、兄さんと魔法使いさんで当初どうにかしていたんだから凄いな。
一応我々も店員であるため、兄か魔法使いさんいずれかの趣味の制服に着替えてみる。いつだれが来てもいいように、制服についてもあらゆるサイズがそろっている。私とアオくんのサイズがあるのは、まあ、わかる。ただ、ちゃんと天くんのサイズもあったのがびっくりだ。
別に天くんは仕事を何かするわけじゃないが、兄曰く「こういう揃いの服を着ているときに一人だけ違うとおそらくいじける。竜種がいじけたあとの後始末考えてみ?服準備したほうが楽だろ」だそうな。一理以上ありすぎる。
確かにこういうのは、幼ければ幼いほど、納得せずに、暴れる。そして手が付けられないやつ。
衣装について、アオくんのは普通のネクタイであるが、天くんのは蝶ネクタイである。
まるで結婚式のフラワーボーイ。そして未明ちゃんと相談したことが一つ。この店は割と兄と魔法使いさんのビジュアル目当ての客も相当数いるので、天くんは徹底して『年の離れた弟』と説明する、ということだ。兄、結構自分の出す「味」のお客さんだって信じて疑わない線があるんだけど、こういうしょうもないことで集客落としても私たちのためにもならないので、そこはこう、うまくやることにする。
そもそものはなし、天くんは兄の影響を受けすぎただけで血の一滴も繋がってはいないわけなんだけど。
店の真ん中あたりには、救国の魔法使いさんがいつも置物のように座っているという、なんかちょっとりっぱな2人がけの椅子がある。
営業中はそこに座ってトラブルが起きるとき以外は完全に「いらっしゃいませー」しか言わない、オーナー臭をだしまくった行動をしていたらしい。今日から数日、その位置にはアオくんと天くんを置いておく。ここの店のメイン層が若い女子であることから、いつもと一味違った眼の保養をしてもらおう。
そして、レジ以外のところはほかのバイトさんたちでまわせそうなので、なにかトラブルが起きたときだけアオくんに登場してもらうスタイルで行こうと未明ちゃんと決めた。
この店はレジ裏に大きな調理場がある。
この業務形態でキッチンがあってどうするんだろうとおもうけど、兄の料理欲を充足させる程度の設備がそろったキッチンが設置されている。レジ横には牛乳がつげるサーバー。店内の作りとしては、立ち飲みスペースが10テーブル程度。液体物を扱っているので水モップは必須準備。ダスターもしっかり担当を決めて、机が濡れたままにならないようにきっちりふく。
あとメイン商品の牛乳、サブメインのクッキー以外に、今週から試作品のプリンを出し始めている。ただ、最初のお客さん数人で完売してしまっている、とのことだけれどそもそも1日分15個ずつしか作っていないのだ。まあ、原因は鶏ちゃんの産卵数、なわけで。いろいろ影響が出ない数を計算して、その範囲でつくったプリンと聞いている。
レア品として人気があるらしい。
朝礼でオペレーションを確認し、さて、開店時間。
先頭に入ってきたのはガン決まりファッションのお嬢様がた。お忍びなのか深めの帽子にサングラス、総レースの羽織。どこぞのお嬢様方なのだろうか。そして視線が向くのは、やはりというか、魔法使いさんの椅子。
長い金髪と長い耳、切れ長の目をもつ種族からの美しさをあわせもつあの魔女の元相方。常人とすこしはずれた思考と言動を発揮する、いっそ面白い性格としかおもえないけど、口を開かなければ憂いを帯びた美しさを発揮するあの「救国の魔法使い様」の特等席。
そこが今やどうだ、おとなしくしていれば兄そっくりの美少年・天くんと、少年と青年の間のギリギリの美しさを如何なくバキバキに発揮中のアオくんが並び座る。私と未明ちゃん特製いつもとは一味違う、かわいいちゃん目の保養ゾーンはどうかねお嬢様方。本当はういも侍らせたいところなんだけど、今回はお出しせずに二人に頑張ってもらう。
私からのオペレーションは「なにもしなくていいからそこから離れず遊んでいて」、だ。
店長さんはどこ、とか、いつもの金髪の方はどちらに、と聞かれた場合は出張中ですという周知で数日こなす。
そして私はだれかと聞かれたら、「店主の妹でーす。代打でーす。」と言いながら販売と売り子をする。
全く兄たちはガチ恋営業をしているとえばしてはいないのだけれど、いつの間にか心酔しているお客様がまあまあいらっしゃるようなので、夢を崩さないのは絶対だ。売り上げに直結する傾国のビジュアル。
そんなんで、営業1日目、大きなあらがでることもなく、なんと乗り切り終了。
「お疲れさまでした~!」
そういうとお片づけをしてさっさと解散。みんな手際が良い。
そしてこの国にリサイクルの概念がないため、ゴミはゴミ袋に入れて、圧縮魔法で圧縮。それをまとめてゴミ袋にまとめて捨てる。1日分のミルクカップの量とするととてつもない量となるけれど、圧縮魔法は【地】属性魔法の概念でもいけるから、営業終了後アオくんとぎゅっぎゅとまとめていく。それをゴミ捨て場にもっていくことになるがとてつもなく重い、と考えるのが普通だけれど、我々には台車と魔法があるので余裕だった。
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