第135話 シラタマ/妖怪と怪異と魔物たち(7)

「お世話になりました。夜中にうるさくてすみません」

「いえいえ、今晩お客様たちだけでしたので、予約もシラタマ政府からでしたし。お気になさらなくて大丈夫ですよ。突然増えたお客様についても追い出されずに宿代までいただけるとは、かえって感謝です」

「どうも我々のせいで呼び込んでしまった侵入者で、これ以上ご迷惑はかけられませんので。」


 挨拶をすませ、首都・サクラへ戻ることとなる。戻り次第兄と魔法使いさんは、ミアカに向かうこととなる。

 

「俺たちの帰還と同時に拘束解くけど、悪さするなよー。」

『私が何者かわかるまえに拘束を受けるとか不覚がすぎる…おとなしくしておけばよかった…でもご飯は美味しかった…』

 ほんと、奇襲かけてこなきゃよかったのに。


「……そうだ。あなたに名前、つけてあげようか。」

『羆以外でか?羆は嫌だぞ』

「テミス、でどう?」

「意味は?」

「悪い意味ではないよ。あなたがそうあってくれるといいな、って名前だから。」

「響きは悪くないな。…いいだろう。あとから変な意味がわかったら、怒るからな」

「そんなことはないから、大丈夫」


 握手をして別れ、となったところで魔法使いさんの結界が解除される。


 そうするとどうだろう。テミスからの魔力の噴出量がすごくなり、また、私が動けなくなる。

 ヤバイ。他のみんな、しいて言えば天くんも平気そう。

 

 ダメなの私だけかい。


「あーもう。幼すぎて魔力のコントロールできてないんだな。それじゃ私たち以外の誰にも近づけないぞ~」

 救国の魔法使いがそんなことを言いながら、早速テミスのおなかの上あたりを杖でおさえた。


「ここに集中して息を吸って~はいて~そのまま」

 そこから呼吸何回か分の拍をおく。

「お腹に力を残したままゆっくり呼吸する~はい上手」

 と続ける。

 

 そうすると、どこそこかまわず放出されていたオーラというか殺気?魔力?が収束し、私の身動きが可能となる。

『ほう、これをマスターすると、私も少しこの世界で生きやすくなるな』

 テミスはにっこにこして嬉しそうな顔をしだした。

 

「助かりました魔法使いさん!息ができますっ」

 私の呼吸が楽になる。


「君はまだこういう、外からの威圧に慣れていないんだね。もうちょっと鍛えればこのぐらい問題なくなるから、頑張って。」

「ありがとうございます。がんばります…」

 ちゃんと強いですよ、って言ってもらっていたけど、全然そんなことがなかった。足りてない。


 そこからは救国の魔法使いさんの使う転移魔法に乗せてもらって、テミスと別れ、サクラへ向かった。いや、この場合別れというか、置き去りにして、かもしれない。


 ◆


 シラタマ・サクラに戻り、また、ミルクスタンドの営業準備をする。今回はここから数日分の仕込みを兄が一気にして、日付毎に提供分を分配、準備をしておく。企業秘密としてやっているが、本当に大きく企業秘密なのは【無限フリースペース】っていうところが大きい。正直、自由な大倉庫の様を呈してきている。だからこそ、私が今回呼ばれたということもあるのだけれど。


「さあて、牛乳の仕込み終わったから今度はミアカの人たちへの料理の仕込み、しておかないと」

 そういうと、先日兄が狩り倒したというウララさんの敵対勢力の竜の肉でシチューを仕込み始める。大量の香味野菜も一緒に煮込みだし、臭みをおとしていくそうだ。規模もそうだけれど、スパイスとか、そういう加減とかがもうなにやってるかわらないレベルの宇宙だ。

 付け合わせに人参のピクルスみたいなもの、キャベツでザワークラフトのようなものもどんどん作っていく。そして、パンも焼きだす。

「兄さん、パンとか焼くんだ」

「旨いぞ~。天然酵母パン。あとで試食するか?」

「え、いいの?するする絶対する。」

「じゃあ、あとで試食会するか?お前が魅了耐性とれてよかったよ。食べさせられる。」

 

 そして思い出したように兄に聞かれた。

「あ、そうだ。お前こないだお子様ランチつくったっていってたよな?あれどんな献立だった?」

「フッツーの日本のお子様ランチだよ。なんで?」

「ミアカにも子どもいるだろ?お子様ランチ作ってあげると喜ぶよな多分」

「確かに。兄さんの魅了の乗ったごはんとか子供には刺激が強いから、私が作ろうか。」

「酷!いや、そうかもしれないけど!」


 そんなこんなで、翌日ミアカに提供する食材・料理の仕込みがすべて完成し、保管するに至った。あとは、食べてもらうのを待つのみだ。


 今回のお留守番は私とアオくんと天くん。天くんは全く納得していなかったが、ついていっても冒険はできないという話をし、なんとかなだめすかせて、なんとなく納得させるに至った。いや、納得はしていないが、駄々をこねるのをやめたというか。


「ぼく、おりこうにまってるから、おみやげちょうだい。」

「何が欲しいんだ?」

「おいしいきのみがいっぱいがいい」

「木の実な、おっけーおっけー」

 同じ顔をした大きいのと小さいのがほほえましく会話をしている。


 シラタマ・サクラの転移可能ゲートの近くにいく。ここで出国手続きをして兄と救国の魔法使いさんはミアカに転移する。これは転移魔法を持つもののみの出国方法なのだけれど、手続き後は自分の魔法で即転移が可能となっている。


「じゃあ、いってきます。留守、よろしくな」

「いってらっしゃい。気を付けて!」


 そういうと、2人は転移により姿を消した。

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