第134話 シラタマ/妖怪と怪異と魔物たち(6)

 アオくんと天くんの悲鳴で目があく。

 目があいたのはいいが、再び問題発生。目の前に、例のアレがいる。なんで。

『夜中にうるさいなあ。あ、布団借りてたぞ。突然この建物に結界が張られたの、お前の仲間がやったんだろ。おかげで外に出れなくなったわ。「そのうち、また、会おう」と言ったが、早速今になったが気にするな。』

 あ、でもびっくりしすぎて声が出なかっただけで、今度は普通に喋れそうだ。多分さっきより私に対して敵対心を向けてきていない。なぜだか威圧感が薄い。


「あなた、名前は?」

『名前?それはまだない。お前がつけてみるか?』

 にやにやこっちを見てくる。こっちは名前が偽名しかわからなくなってて大変だというのに「つけるか」、だって。なんなんだこれは。そして私はさっき考えた通称名をそのまま言ってみる。

「じゃあヒグマ」

『却下、かわいくない。』

「いいと思ったのに。」


 謎なことに、さっき温泉で脅してきた相手と布団の上で二人差し向かいで話している。

 この人魔王の眷属なんでしょ?名前もないし、一体なんなんだろうか。

「じゃあ…何にしようかな」

 新たな提案をしようかと思ったところ、なんか、右側がボウっと青白く明るくなった。電気も魔石もなにもないというのに。


 私と、眼前の女性、ふたりでそちらを振り返る。


 そこにいたのは、体が発光している、一つ目の、おじさん。


 驚きすぎてふたりで抱き合って悲鳴を上げてしまった。

 あろうことか、悲鳴と同時にそのおじさんは消えた。

 

 そしてマスターキーで突破してくる宿の主と兄たちご一行。

 宿泊者名簿にいない角の生えた魔族の女と私が抱き合ってる状態で発見されてしまった。


 非常にまずい。


 ◆


 宿の主にはこれが危険な生き物で、侵入者であることを説明したうで、宿代を上乗せすることで事なきを得た。政治決着だ。しかも宿帳に名前を書かそうにも、名前がない。

 そして私たちを驚かせたあのおじさんは、宿の主曰くは、夜行やぎょう様という妖怪だと思うよ、と軽く言われた。

 

『私だって挨拶が終わったから帰ろうとしたのだよ?でもなんか妙な結界は張られるし、魔法もスキルも使えなくなるし、ただ姿が消せるだけど無力な小娘に成り下がったわけさ。どうだい?哀れだろ』

 態度だけはでかい、角の生えたただの美女がそこにいる、感じになった。こうなった原因というかファインプレーは救国の魔法使いさんだった。


「で、こいつどうしようか。いい考えあるか?ノリ」

「私の魔法で無力化できてるんだろう?我々に危害を加えられないようにマーク打ち込むことはできるけど。」

「そもそもコイツは魔王として出てきたのか、魔王の眷属なのか、突然変異の人型魔物なのかどれなんだろう。俺としてはタイミング的に俺のせいで発生したと思うんだけど」

『魂に刻まれていた情報で、座標を探って勇者とやらを見に来たにすぎぬからな。私は私がわからぬ。どうにでもすきにするがよい。』


「この人、勇者の敵対勢力ということだけは確かだよね、兄さん」

「そうだよなあ。というかこんな夜中にこんな話してるのも眠いな。シラタマ本国に連れ帰るわけにもいかないしどうしようか。ほんとにマーク打ち込んで放出するか?」

「まあ、そのうち一体何かわかるぐらいに成長はするだろうね。どうするかはその時考えようか。」


「あなたもせいちょう、してるんですか?ぼくといっしょですね」

 突然天くんが、謎の人型魔物Aに話しかける。美女は天くんと兄を見比べ、にてるな、とつぶやく。


『これはお前の子か?』

 まっすぐ兄を見ながら、そう問う。まあ、そう思うよな。

 

「これが人の子に見えるのか?」

 質問に質問で返したぞ兄。強いわ。


「天は、天だよ!ねーアオ!」

「そうですね。じゃあ、天、寝に行きましょう」

「ねる~」

「ちょっとお先に失礼して寝かせてきます。あとはお任せしました。」

「はいは~い。じゃあ、ノリ、まかせるわ。とりあえず何があってもいいようにマーク打ち込んどいて」

「仕方ないですね。ちょっとちくっとしますよ~」

 魔物の右手上腕にどこからか取り出した杖を当て、魔法使いさんが魔力を籠めたとおもったら、『っつう』とか声が聞こえたので、何かをしたらしい。


 大きな力でもそれを超えるより大きな力の前では無力、そう感じさせる事件だった。

 

 そしてなぜか、私の布団の横にこの魔物の布団が敷かれ、翌朝の朝食まで一緒にたべることとなって、普通に、食べた。


 ついでにいつ頃から存在するのか聞いて見たところ帰ってきた回答がなかなか酷い。

『私?気が付いたらこの姿で存在する。そして気になる気配があったからここに来てみただけ。』

 だ、そうだ。


「もしかして、天くんと生後日数、変わらない…?」

『よくわからぬが、意識がはっきりしたのは最近だ』

「面白いなあ。コイツ魔王の眷属どころか実は魔王だったりしてな!ははは!この宿の飯は美味しい。しっかり食べて帰れよ~」

『わかった…』

 

 朝食に出たのは米飯と焼き魚、ちりめん山椒に昆布の佃煮、赤だし、煮物。漬物まであって、完全な日本食。最後にほうじ茶まで出てくるということは、この国にはお茶文化があるということだ。

 このシラタマという国、食文化が昔の日本だ。すごい、たまに食べにきたい。


 そしてその後、なぜかこの魔族の女と一緒に、温泉にいってしまった。

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