第133話 シラタマ/妖怪と怪異と魔物たち(5)

 私があんなに怖い目にあったというのに、男子部屋の奴らはまったく意に介していないようで、はしゃぐ声が隣の部屋まで響いてくる。奴ら明らかになんともおもってない感があふれていて正直腹が立つ。

 そういえばあの3人、前に3人でどっかに遊びに行ってたぐらい仲がよかったんだっけ?疎外感だコノヤロウ。しかも今回天くんまで加わっていて、一大勢力になっていて手が出せない。ホント、口が悪くなる。


 大学時分ずっと独り暮らしをしていたのに、こう、怖かったせいか独りでいるのが落ち着かない。

 落ち着かないついでに、宿のベランダから外に出て、夜風にあたる。


 夜風は気持ちがいいのだが、周りを囲む森に、魔物の気配がするきがする。ただ、私には探知をするとかそういう能力がない。男子がキャッキャしてるところに水を差すのは仕方がないが得意な人にみてもらおう。ていうかあいつらあんまりにも周りを気にしなさすぎるのは、その強さ故にどうとでも対処ができるがためにどうでもいいのでは、とも思ってしまう。


「たのもう!ちょっと外の気配を見てくれぬか?」

 時代劇のように隣の部屋に登場してみる。

 その結果、酷い空気感が流れ、静かになる。


 ういまで驚いたように止まってこっちをみている。失敬な。


「何かにこの宿取り囲まれているきがするんだけど、気のせいかみてもらっていいかな」

「チーズさんそういうのやったことないですもんね。いいですよ~」

 鬼教官、サンキュー。

「あ、いますけど…うーん…襲ってくる気配は今のところはないですが、結構いますね。弱そうですが。」


「夏だし百鬼夜行かな~妖怪だけに。」

 そう言いゲラゲラ笑う兄。

 

「ひゃきやこう!ってなんですか!たのしそう!」

 そうだね、天くん。妖怪がいっぱいでてくるんだよ。君には楽しいかな。


「めんどくさいから結界でもはっとく~?」

 魔法使いさん、めんどくさいって。でも助かる。安眠できないのは困る。


「ぜひともお願いします」

 技術のない私はそうお願いするしかない。私もそういう魔法使えるようになるんだろうか。というか、適性のあるアオくんと魔法使いさんの劣化版程度でも覚えることは可能なのかな。


 兄たちが旅立つ前の楽しい温泉宿だったはずなのに、なぜこんなに全身があわだつ感じが拭い去れないのか。ってあの金髪の美女羆のせいだ!そして直接対峙したのが私だけっていうのもあって、こいつらまったく危機感がない。


 

 時間は午後11時。

 隣の部屋が静かになる。


 天くんがいるがために、早く寝たのか、寝る前にひとっ風呂行ったのかはわからない。いろいろぐるぐる考えていたがために、葉擦れの音、虫の音、結界による安心。すべてが相成って、寝落ちた。


 ◆


 チーズさんが不安でいっぱいになっているのが見て取れたので、僕たちは明るく、そして深刻に振舞わないように気を付けながら、注意の目を送り続けた。隣の部屋だとしても異変があればすぐに駆け付けることができる。が、これだけ集団でいるとなると、いつも通り一緒の部屋、というわけにはいかず、一緒には居づらい。

 

 師匠にも確認してみたけれど、やっぱり人型の魔物は見たことがない、会ったこともない。知性があり会話が成立する魔物も見たことがない、という。おそらくシラタマという国が特殊で実はそういう魔物という名の妖怪がいました!とかいう訳では全くなく、どういう訳か最近自然発生したらしいし、あにさん曰くは勇者である自分がこの世界に呼ばれた弊害で魔王が生まれるからだろうとか言い出す始末。

 

 まだナットを凍結してから数か月だというのに、こんなトラブル起きて欲しくはなかった。いや、まだトラブルだと確定したわけではないかもしれないけれど。


 そしてもやもやして微妙に寝れなくなっているうちに、時刻は午前2時。

 今使ってる布団とかいう寝具も初めてで落ち着かないというのはある。

 

「あお、といれ」

 寝るに寝れず、ぼやっとしていたら、横から声がかかる。こんな夜中にトイレいきたくなるとか、水飲ませすぎたかな。ここの宿のトイレは集合トイレで、一度廊下に出ないといけない。

 そっと起きて、天の手を引いてトイレにいこうとすると、なんか先にうすぼんやりとした、明るい何かが見える。なんだろうか魔石による非常灯?ここまでの旅程、天の面倒を見てきた手前、イオはどう思うかわからないけど、もう1人弟ができたみたいな気分でいた。

「終わったか~?」

「おわった!天ねる!」

 竜種だけあって成長が早い。人間と違ってあっという間に育ち、外敵から身を護るすべを持つ。肉体に精神が追いつかないがために内面は幼いけれど、持っている力はものすごく強い。

「さあもどろうか」

 そう言い、天の手を再び引き、廊下を歩く。古い建物だけあって、足もとがギシギシ言う。トイレと部屋までの間の廊下に折れ曲がりがあるのが2か所。暗いがために、さっき見た魔石による非常灯が帰り道にはありがたいものとなる。


 そしてひとつめの折れ曲がりを曲がった瞬間、それは居た。


 体が発光している、一つ目の、おじさん。


 僕と天は驚きすぎて大声を出してしまう。飛び出てくる救国コンビとうい。

 目の前にいたおじさんはいつの間にか消える。僕たちは涙目だ。先にトイレいっておいてよかった。下のフロアから向かってくる宿の人の声も聞こえる。


 そして、悲鳴はきっと聞こえていただろうに、チーズさんは部屋から出てこない。

 

 体中の血の気が引いた。

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