第132話 シラタマ/妖怪と怪異と魔物たち(4)

 古民家のような温泉宿。まるでミステリーの世界なのに、一人部屋。独りで羽根を伸ばすどころかぶっちゃけ怖い。そもそもこの「シラタマ」のモンスターは妖怪という異名があるというという話をきいた。一体何がでるのか。私が子どものころこから慣れ親しんだアニメに出てきたようなものがでてくるのかこのジャポネスクタウン。

 あっちの男子部屋は楽しそうすぎてなんだかほんとに憎らしい。私だけなんでこんな、湿度が高めの部屋で一人でいなければならないのか。ういまであっちにいくなんてなんという。


 晩御飯はあっちの部屋でまとめて部屋食というので、その時だけ合流するものの、いろんな意味で大丈夫なんだろうか。主に酒とか酒とか酒とか。飲みそうなのは2人だけど、酒癖不明の野郎2人とか怖すぎて仕方がない。まあ、うちの家系は割と強いので、問題は救国の魔法使いか…なんともないといいけど。


 とりあえず、夕食より前に1回お風呂いって来ようと思い、大浴場へ向かう。さすがにエステはないがマッサージの案内が目に入る。なんかここの環境からいって凄腕の老婆とか出てきそうだけど怖いからやめておこう。昔親が温泉地でやってもらっていた、布団の上で背中足で踏んでくるやつ。とか思いつつ階段を降りると「女」と書いた赤いのれんがある。本当にここは日本の田舎の温泉宿なのではないのかな?と思ってしまう。


 温泉は大浴場と露天風呂、サウナはない。泉質はアルカリ単純泉。ラッキーと言わんがばかりだけれど、誰もいない。更衣室みてもだれかが入った形跡はない。あとなんか夏なのに山の上のせいか微妙に寒い。


 体を洗ってから、温泉につかる。

 

 温泉の調温はすごく良い。ちょうどよくあったかい。


 「あ~ゆっくりする」

 

 大きな独り言を言いながら温泉につかっていると、ゆけむりの向こうになぜか気配を感じる。誰かが入ってきた音はしなかった。

 

 鳥肌が立つ。が、焦って出て滑って転んでもただ恥ずかしい。そもそもなにか気配がするのも気のせいかもしれない。


 と思った矢先、顔をあげると、目と鼻の先に、額に角の生えた金髪で紅い眼の女が現れた。


 悲鳴を上げたいところだが、金縛りみたいに体が動かない。


 ここまで無防備なときに狙われるとは、失敗としか言いようがない。


 冷酷に見える眼、抜群のスタイル。異様に美しい肢体を持っている、美女と言って間違いない。現実逃避のように、これってEカップぐらいあるんじゃとか思ってみてしまう。謎の裸の付き合い発生。

 奇襲かけてきたのかわからないけど、律儀にちゃんと裸だよこの人。

 

 しかし、マジ声が出ない。私今日生き延びれるのか、と思うぐらいの迫力の女。ただ、眼を離したら喰われると思い、とりあえず、相手の顔から眼を離さない努力をする。あっちのチームを置いて一人ゲームオーバーなんてつまらなさすぎる。


 勝手にこの美しい女の名前を私の中でひぐまと命名。私にとっては、油断しても油断しなくても死あるのみ、という意味としてだ。

 

 こんな逃げ場もない、パーティーも組んでいない、服も着ていないというタイミングなんて絶対絶命じゃないか。


 本当に体が何一つ動かない。


『ふうん、宿敵登場と聞いて見に来たが、この程度か。』

 私の顔をまじまじと見ながら、その美女は言い放つ。どういうことだろうか。


 今まで出会ったモンスターという種族は、人型をとったものはいなかったし、人語を理解している者がいるようには見えなかった。


 だからといってこの先もそうとは限らない。


「チーズ、変な気配がするけど、無事か?!」

 壁を隔ててむこうが男子風呂なのか、天井の隙間を超えて兄の声がする。私は対峙したまま目を離してないし、声はでないが出しても危険だ。しかも、この女の声、兄には聞こえていないようだ。


『まあいい。本命は、あっちか?あちらであればまだ及ばぬな。こちらに来られても面倒じゃ。じゃあな、そのうち、また会おう』


 そう一方的に言い放つと、その女の気配は消えた。

 緊張がとけ、せき込む。


「大丈夫だけど大丈夫じゃない!あとで説明する!」

「わかった~。独りだし気をつけろよ」

 ほんとに、独りは危ない気がした。


 ◆


「あ、ヤバイ。それ、俺のせいかもしれない」

 夕食時、兄がそんなことを言い放つ。

「勇者っていると、どうも魔王うまれるらしいんだよ。その側近も。俺の勇者の肩書この世界でもやっぱり生きてるんだな」

「は?!」

「しかも兄妹だから勘違いしたのかもしれないが、お前が勇者としてターゲットになっているってことだろうね」

 迷惑な。


「ノリ、お前気配感じれたか?」

「いいや、まったく。そもそも人型で知能のある魔物なんてこの千年みたこともないし。多分、波長の調整させきけばいくらでも探知できるとはおもうけど。」

「ういは気づいてたかもしれませんが、無鉄砲に飛び出していったら危険でした。ハウスにいてくれてよかったです」

 アオくんはほんとうにういの理解者だね!とか言ってる場合か!


 今日の晩御飯は山の宿らしく、山菜と川魚が主体。先ほど受けた奇襲が原因の緊張のせいで味がきちんとわからないのが勿体ない。

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