第131話 シラタマ/妖怪と怪異と魔物たち(3)

 兄さんの店は、信じられない繁盛ぶりだった。

 

 ただ、店員さんたちのオペレーションがしっかりしていて、もたつくことが全くない。どうやってここまでのオペレーションを共有したのかはわからないけど、男性女性どちらの店員さんもものすごく動きがいい。あと、どう考えても男性は顔採用でしょみたいなきれいな顔をしている。

 ものの3時間で本日分をすべて完売、1時間程度で後始末をして、あっという間に解散しそうになるが。

 

 その前に。


「この店の留守を守りに妹が来てくれたので、拍手!」

 

 兄、拍手を強要する。ものすごく恥ずかしい。そうなると挨拶をちゃんとしなくてはならない。


「初めまして、店主の妹のチーズです。兄が留守にする数日の間、お店を任されます。不慣れなことが多いとは思いますが、よろしくお願いします。」


『よろしくお願いします!』


 今日いたスタッフさん4人が拍手をしてくれている。ついでに私の横で天くんも拍手をしている。ただ、スタッフさんたちの目線は私でもなく、アオくんでもなく、天くんにくぎ付けだ。これ絶対、兄の弟か兄の子か必死に考えられてるんじゃないのかな。兄は20代後半なので、ぎりぎりいてもおかしくない大きさの子ども。しかも瓜二つ。

 

 ◆


 困った問題が発生した。

 

 子どもに偽名という概念が通じるのか?という問題だ。いや、通じないだろ。今俺たちは偽名でユウとノリ名乗っているが本名ではない。が、うその名前を子どもに名乗るのは憚られる。ちなみに今をもってノリの本名を聞いていない。俺も名乗ってない。


 このまま押し通していいのだろうか…でもチーズすら偽名だしな…。このままいってもいいんかな…。と悩んでいると、目の前に俺の幼少期にそっくりなちびがこっちを見て立っている。10歳ぐらい、身長140センチ程度。俺にもこんな時代があったなとおもいながらにこにこしてみる。


「兄さん、天くんほんとうに早く会いたかったみたいだよ。」

「あなたがぼくのご主人ですね。おかあさまから、ぼくにちからをくれた人のところにいくんだよってきいていました。よろしくおねがいします!」

「こちらこそ、よろしくね。」


 呼び方ご主人、なら、まあいいのか?いや、変だろ。なんか考えないと。


「天くん、なんか結構強いんだよね。多分、今の私より全然強い。」

「え、そうなんだ。さすが竜族。」

「うっかりするとものすごく手を焼くかもしれないけど、きっと兄さんと魔法使いさんだと大丈夫だよ。で、どうする?ミアカに連れてく?戻ってくるまでは私とアオくんで見ていてもいいけど。」

 

 ちょっと考えてみる。今回、シラタマから転移で外国に出る場合は王城の事務所に申し出て、その場で出国手続きをして転移魔法を使用していいのでおそらく一瞬で出国はできる。ただ、再入国する場合はまた船を利用し、待期期間を経過させなくてはならない。4日ぐらいは最低でも離れることになりそうなんだが、このちび、その行程、我慢できるのか?俺がこのぐらいの歳だったら確実に我慢なんてことはしなかったから、きっとしないだろうな。うん、しない。絶対なんか想像もつかないことをする。自分がそういう人間だったから、すごくそう思う。


「チーズ、一緒に留守番頼む。1日多く休みはさむように告知しておくから、その日近くに狩りにでも出たらいいと思う。王城に丁度いいランクの狩場聞いておくから。どう考えてもメシ作りの旅、ほぼ移動になるのにこのちびが耐えられるように思えない。」

「なんでそう思うの」

「もうなんか、俺に似すぎだから」

「よくわかるね」


 そこまで言ってから、ナットの西の離れからの脱走事件の話を聞く。マジか。


「という訳で、兄さん天くんになんかしてあげてよ。」

「じゃあ、明日休みだし、一緒に温泉入りにいくか?」

「なんでそうなるの?!」

「俺たちの出発3日後だろ?もう片付けも終わったしこれから王城にきいてくるから教えてくれた温泉いこーぜ」


「えっあにさん温泉ですか!楽しみです!今朝も入ってきたばっかりですが!」

 横からアオ参戦。

 

「もちろん私もいくよ!」

 ノリも参戦。


「じゃあちょっと俺、城いって聞いて来るわ。お前たちはここで待ってて」

「了解です!」

 アオの返事がいい。


 そこから単身王城に出向き、前からお世話になっている職員のスズキに一泊で行きやすい温泉宿を確認。俺たちの店の産業貢献度が高いということで、今日の今日なのに宿の紹介と予約をやってくれたうえで、ワープも使っていいという破格対応をしてもらえた。


 ◆


 案内された温泉宿に、あっという間に到着。帰りも逆のワープを王城のほうで組んでくれるそうで、明日の朝10時には帰路につくという弾丸温泉旅になった。

 温泉宿は古民家みたいな造り、フロントで兄が手続きをする。そして、部屋の鍵を渡してくれる。


「えっ私だけ1人部屋?!」

「だって女性、おまえ1人だけだろ。そうなるそうなる。ちなみにういも雄チームにしてもいいか?」

「そういわれると断れないじゃない」

 

 うっかりしていた。最近アオくんと共にずっといたから、こう、男性が多くなると私だけ、はみ出ることに気づく。今からでも魔女さんは無理でも志摩に来てほしい。野郎どもがはしゃいでいるとき私ボッチじゃないか。


 いや、ゆっくりはできるんだけど、この場合疎外感が勝つ気がする。

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