第138話 シラタマ/都・MSホッカイドウ(3)

「お疲れさまでしたー!」

 特別営業終了後、今回の特別編成チームと従来チーム混成のお疲れ様会が営業終了後始まった。

 

 牛乳は売ってしまっているので、お茶で乾杯。

 お茶請けは兄がミアカで料理の最後に出したというミニパフェだ。材料として使われているのはうちの生乳と三温糖、あと私たちがアトルで買ったマンゴなので、要するにマンゴパフェだ。アイスも生クリームも絶妙な甘さ、薄いクッキーに飴細工まで乗せてあるので、見た目もすごくおいしそう。

 私の大雑把大量料理とは対極をなす美しさだ。


「みんなが留守を守ってくれて助かったよ。トラブルも特になかったんだろう?」

「なかったし、みんなしっかり働いてくれた。救国の魔法使いさんがお店の守り神みたいに鎮座していたと聞いたから、少年二人を配備して代理守り神やってもらったよ」

「なにそれ。守り神って何?アイツ、あそこでサボってるだけだと。実際営業中あそこで遊んでいるところしかみたことない。」

「兄さんと魔法使いさん目当てのお客様もいたってこと!」

「それ、こわくない?」

「怖くない、怖くない。そこに今回アオくんと天くんを着飾っておいといたので、お客様たち満足してくれたよ。」


 今その二人は兄特製パフェを食べ、嬉しそうだ。天くんはさすがの竜種、魅了耐性はあるようで良かった。


「ええ~。あ、そうだ。ミアカで見てきたぶどうなんだけど」

 収納からブドウを取り出す。見た目は黄色が勝った黄緑。大きすぎない粒がキレイに実っている。

「シャルドネに似てる」

「やっぱそう思うだろ?味もほぼ一緒なんだよ。食べてみ?」

 一粒貰って食べてみる。

「あ、この甘さ。味まで似てる」

「だろ~?」 

「ミアカの人たち牛とコミュニケーションマジで取れててすごいんんだよね。それもあって効率高く作業できているし、順調に子牛も増やしてるし。人工授精の仕方どうやって知ったかときいたら牛に訊いたとか言ってたし。そんなこと牛って覚えてるもんなの?」

「知能高いね牛ちゃん…私家畜人口受精師の資格持ってないから、この世界の獣医の資格とらなきゃできないかとおもってたよ。」

「あまりそのあたり整備されてないというか、うるさくない空気があるけど結局資格が必要なことってことは、事故がおこりやすいってことだろ?慎重にいったほうがいいってことだろ。」

「確かにそうだよね。ところで全然関係ないけど、兄さんとこんな話したの何年ぶりだろう?」

「10年ぐらい?」

「多分そのぐらい経つよね!やっぱり。勝手に死にかけて異世界行ってたって普通じゃないし。」

「そうか?」

「そうだよ。」


 兄は顎に手をあてて考えてるポーズをする。


「で、話は戻るけど、ミアカ牛の管理順番にやってて余裕出来たから、ワイン造りたいんだけど。あそこで。」

「確かに人は足りると思うけど、施設、全くないよ?」

「そこが問題なんだよな~。なんか昔ながらの製法とかなんとか、わからないかな?」

「記憶たどるの危険だから、学校で勉強した本に確か載ってたかもだから、探しとくよ」

「とりあえず、ブドウ畑づくりだな~」

「近いうちに私いこっか。兄さんここあるから厳しいよね」

「よろしく頼むよ!こっち店やってるから分業にしないと厳しそうだ。結局この商売形態も【無限フリースペース】ありきの形態だから、ここを離れるときは信頼のおける人物をここに配備しないと。」

「魔女さんに相談だよね」

「頼めるか?」

「いいよ」


 そして、魔女さんの名前が会話の中に出てきたことを耳ざとく聞いた魔法使いさん、いつの間にか近くにきて立ってる。

「私のうわさかい?」

「いや、魔女さんの配下にいる人材の話」

「そうか、ならいいや。」

 いいんかい。

「■■、いいかげん私のこと思い出してほしいんだけど、それは別としてあの、凍結魔法の維持現状丁度よく続いてるよね。二人がかりだろあれ?」

「そうなんですか、私詳しく知らなくて。」

「え、知らないっぽい?ならこれ以上私が話すのはやめておくよ。」

 気になるじゃないか。今度本人に聞いておくか。


 こう、とりとめのない話をしていたらみんなパフェを食べ終わり、お茶による乾杯によってこの会は閉じた。いや、閉じようとした。


 が、不意に店のドアがあく。

「今日の営業は終了は終了していますので…」

 未明みあかが突然の訪問者に声をかける。店の外には「準備中」の札がかかっているというのに、闖入者だろうか。この店はままこういうことがあるので、店員のみんなはとても冷静だ。

 

 入ってきたのは大きな体躯の男性。大声を出し、入り口の備品に対して腕を振り上げる。

「俺は客じゃねえ!」

 

 その腕が振り下ろされる刹那。

 バイトの女子たちはさすがに悲鳴を上げ、とっさに自分の荷物に手をかけ胸に抱く。そこで動いたのは、魔法使いさんとアオくん。

 

「あなた、一体何の用事ですか?」

 今の瞬間でサーベルを抜き、闖入者の首元に刃が向いている。


「気に入らないんだよ!」

 差し向けられたサーベルをものともせず、大声を出すとレジ回りの備品に向けて腕を振り回し、なぎ倒そうとした。刃を向けられているのにすごい勇気だ。

 結果、腕を振り回そうとしたのだが、『ゴン』という音とともに、その腕は備品に届くことはなかった。そのうえ腕はあらぬ方へ曲がっている。

 男はうめき声をあげ、蹲る。


「はーい、救国セキュリティです。異常を感知したので拘束したうえで通報しまーす。おまわりさーん。」

 今日は何やら水色の海の結晶みたいなキラキラした杖を振りながら、折れたであろう腕をそして体を何か見えないもので拘束した。


「お前らが悪いんだ、きれいでかわいくてきれいでかわいい俺の嫁を誑かしたお前らが悪いんだ!ここが出来てから夢中でここに通って…それで…」

 男は泣き始める。

 その涙と心の叫びといわんばかりのセリフにより、みんな、状況を察し、憐みのオーラが店内に満ちた。


 営業時間内に事件がおきなくてよかった。

 

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