第139話 シラタマ/都・MSホッカイドウ(4)

 突然闖入してきたおっさん侵入者は、折れた腕をアオくんに修復してもらい、この国の警察組織に連行されていった。

 割とこういう客とはいえない客はオープン当初多かったそうなのだが、最近はまれだったよう。


「久しぶりに面白かったね~」

 魔法使いさんがなかなか酷いことを言っている。

 

「魔法使いさんがこの店の真ん中に座ってる意味が身をもってわかりましたよ!こういうのが来た時のためとは聞いていましたが、確かに必要ですね。」

 アオくんがそう返す。割と戦闘民族なのは、知ってる。


「はいはい、終わった終わった。みんな無事だね!じゃあお疲れ様会もお開きにしますか!」

 急に兄さんが閉めに入る。その傍らにはわくわくした顔をした天くんが控える。うっかりすると天くんがすべてなぎ倒すところだったのでは?


『お疲れさまでした~』

 働いている皆様、この兄と魔法使いさんに慣れきっているがために、食べた食器を下げ、「お疲れさまでした!」と言い次々帰っていく。過去からの慣例でこういう営業後に試食会等をした際は、片づけは兄が行っていたそう。

「お疲れ様会も残業だろう?店主側が拘束してるんだから。」

 そういう考え方、嫌いじゃないというか先頭を走っている。


 食器を片付け、表の鍵を閉め、バックヤードのリビングへ。

 今回の売り上げ報告、状況報告を開始。ここは兄妹間で行う。食品を取り扱っている手前、表では出せないういを裏なので出して遊んでいる。ういは兄にもなつきまくっているので、遊んでほし気だが、仕事が終わったらね~といわれちょっとショックな顔を見せたうえでアオくんにひっついている。私の立場やいかに。

「本当にこれ、表計算ソフトとかあったらいいのに。かゆいところに手が届く。」

「こないだステータスボードのチャットボットみたいなやつに表計算ソフトくれってかいておいたからそのうち実装されるかもな」

「まじで!それで実装されたらすごいね!私も入れてみようかな。」

「まだまだ使いこなせていない感じがするんだよね、これ本当に。」

「表計算できれば、売り上げ共有も通信の添付ファイルでできちゃうよね。」

 

 地球ジャパントークはほかの人たちを置き去りにする。でもきっとこれ、実装さえされればみんな普通に使うし、慣れていくとおもうんだよね。お父さんやお母さんの世代は完全手計算、そろばんや電卓で検算ものすごくしたって聞いたから、みんな絶対使いこなしていくとおもう。

 家には祖父母が使っていた古いそろばんがあったな、ってちょっと今思い出した。


 とりあえず今回の会計分の総括が終わったので、さっきお疲れ様会で話していた、次の計画の話をすすめることにする。白ワイン用のブドウが発見されたので、どうにかワインを作ってみたい。ちなみに私もキノコを育てたいし、チーズも造りたい。


 あと、貿易に強い、王の側近を育成する計画についてちゃんと進行中であることを伝える。ナットの貿易はほぼ王が担っていたけど、王はモヤで直接行えないため、追放された事務官さんを復活させて対応しようとしたら、その人が追放されたことでガチ病みして自宅で衰弱してたので救出したこと。現在回復途上にあって、リハビリ中であること。会話もできるようになり、歩行訓練から筋トレまで、復帰までの計画を綿密にたてて永長とウララさんの護衛のノナさん2人でつきっきりでやってくれていることを伝える。


「どうも、王の王太子時代の友達だったっぽいんだよねその人。シンさんっていうんだけど。」

「王の側近に疎まれて追い出されたって、まあ、ドロドロしてるな。」

「だよね~。やっぱりでも政治が絡むとさもありなん、って感じ。」

「産業関係安定したら、その事務官の指示のもとに輸出貿易ができるようになると、復興進むよね。」

「上手くいくように、頑張ろう。定期的に祭りをするとか、パーティーをするとか、休業日をつくるとか。ヘイトも管理しないと。」

「それ、兄さんのやってたゲームみたい」

「真理だろ?!」


 ◇


 チーズさんと兄さんが語り始めて結構経つけど、何かしら込み入った内容なようで、とくに介入できるようなタイミングが全くない。完全に手持無沙汰に陥った僕たち。

「僕たち蚊帳の外ですね。」

「かやのそと?」

「なんか、あの手の話に混ざると眠くなるから、私は立ち入らないよ?」

「僕も介入できるきがまったくしません!ういもです!」

「天も!天も!」

 明らかにわかってないだろう。

 

「じゃあ、私たちみんなでういの言語伸ばすか?」

 ういも珍しくワンっと吠える。

 

「本当にうい勤勉だなあ。舌足らずでもそれはそれでかわいいとおもうんだけど、ういの美学に反するんだもんね。」

「流暢に話せるようになり、ある程度の知識もきちんと身に着けたい、と。そのぐらいまでいかないと大好きな飼い主と飼い主の兄さんとアオと天を護れない、と。え、私ははいってないのかい?」

「うい、ありがとな~!!!かわうい!」

「かわういかわうい」

「え、私は駄目なの?!え?!強すぎるから護るに値しない。え、ユウもアオも十分つよいだろう」

「魔法使いさん、完全に断られてますよ、次回に期待ですね。」

「ぼくとうい、おともだち!おともだち!」


「立場上がるように頑張らないとこれ、私、一番下に見られるやつになってしまう。」

 魔法使いさんはかわいくちいさいういを横目に、遠い目をした。


「そんな魔法使いさんにこれ、あげます。」

「え?なになに」


 取り出したのは1年ぐらい前、師匠がふざけて作った、収納にずっと入っている猛烈に要らない逸品。

 師匠の等身大スタンド、サインとキスマーク入り。正直、死ぬほどいらない。大魔法行使前に何をしたかったのかは知らないが、弟子にこんなもんをよこすな師匠。ここはしっかり、本当に求めている人のところに横流しさせてもらおうか。魔法使いさんに渡したこと、横流しの報告はバレた時にしよう。


「師匠には内緒ですよ?」

 そう言って渡すと、救国の魔法使いは言葉にならないのか、顔を紅潮させ、顔半分を手で抑え、人には見せられない顔で嗚咽したのでマジでびっくりした。

 いっそ怖。

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