第140話 シラタマ/都・MSホッカイドウ(5)

 私自身は周りが持ち上げてくれるほどには実力が至らず、まだまだだったことを痛感している。

 という訳で、兄たちへの引継ぎが終わったので、ナットに一度帰還することに。


 前回は兄が使用したシラタマ・サクラの転移可能ゲートに今度は私とアオくんが向かう。出国手続きをしてばびゅーんと飛び出るだけだ。

 で、問題が1つ。天くんこと大黒天くんのことだ。

 

「天さ、俺のところにいるのと、アオくんについてるのどっちがいいと思う?」

「確かにアオくんにはなついているけど、基本的に天くんは兄さん付の竜でしょ」

「そうなんだけど暫くこっちは店出すとか運営とかそんなことばかりで、成長期のエネルギー発散には全く向かないんだよな。オフ日に連れて行けばいいだけだけど。」

「私たちは次はナットに戻ってフィールドワークだけど、一応ブドウ畑作れるかちゃんと見てからアトルに戻って第4ダンジョンを攻略しにいくか、別の国にいくか検討しようかと。なんか、アトルのダンジョン順番に攻略してるんだけど、アンデットが割と多くて、神聖魔法の申し子のようなういが強すぎて攻略なのか蹂躙なのかわからなくなってるんだよね。」

 今ういはアオくんの腕に抱かれ、しっぽを振っている。

「そういえば、ういって神聖魔法使いのエクソシスト犬だったよな…。」

「ところで、この都市直接飛んだらダメなの、どうにかならないのかな。」

「交渉したことはないけど。防疫の都合らしいけど。」

「兄さんも私たちも出入りが今後必要になってきそうだから、話を聞きにいってみよう。」


 ◇


 私たちはそろって、シラタマの王城に下部機関、入管を取り締まる部署にアポをとり、ぞろぞろと集団で訪れた。しかし兄はどうやってか商売をする場所から許可まで自分の才覚だけでとりつけて、開業するこの手腕、というか豪運?一体どうなっているんだろう。

 普通に偉い人とパスがあるがために全体的にスムーズだ。


「お待ちしていました、ユウ様。こちらへ。」

 入管の職員に案内され、あまりにもぞろぞろ来ているがために応接室ではなく、会議室へ向かうことに。案内をしてくれる職員さんがが、兄が仕留め、解体したドラゴン肉が美味しかった話をしだす。確かに、あの肉おすそ分けにもらったけど、美味しかったよ。と思っていたら、天くんに服を軽く引っ張られる。

「ドラゴン、おいしいの?ぼく、たべられたりしないよね?」

 はっとした。

「大丈夫だよ~。天くんのお母さんに悪いことをしたドラゴンが兄さんに成敗!されて、この国で食べられてるんだよ」

「せいばい!おかあさんのてきだったのか。たべられてもしかたないね。」

 仕方がないかどうかは別として、やっぱり同種が食べられるというのはわりとえぐいかもしれないので、これからは言葉に気を付けないと教育に悪い。

 

 会議室に到着し、着席。一番の上座は兄。あとは魔法使いさん、私、アオくん、天くんの順で座る。上座とかそういう概念があるかどうかはよくわからないけどそうなった。

 そして、入室してくる担当職員。

「本日はご足労いただきありがとうございます。」

「いえ、こちらこそお時間をいただきありがとうございます。」

 そう挨拶すると着席する。そして、早速の本題に入る。

「本日は、シラタマへの入国の緩和要件というのがあるか、ないかについてお伺いしにきました。」

「そうでしたか。具体的に言うと、待期期間と、転移魔法の使用ですよね。実のところ、緩和要件は明記はしていませんが、あります。」

「やはり、そうですか。その要件をお伺いしてよろしいでしょうか。」

「では、お伝えしますね。皆様のステータスボードに要件を記載したデータを送信しますね」


 そういわれ送られてきた内容に記載されていたのは

 1.シラタマ・サクラの転移ゲートのみを目的とし転移、入国手続きを行うこと。

 2.転移してくるメンバーのうち1人は必ずスキル魔法【アンチウイルス】を所持、転移前に全員にかけた状態で転移してくること。

 3.上記要件を満たさず入国した場合、5年の入国禁止の罰則が科される。ただし、シラタマ国の緊急要請がある場合を除外する。


「御覧になられましたでしょうか。この要件データをステータスボードに持つ方限定で緩和要件が適用されるものであり、この緩和要件もこの国に対し一定の功績を持つ方とその関係者限定です。ちなみにこのデータを受けた方は転移を使用とした場合、エラーチェックのように要件部分のチェックしてからの転移となりますので、そうそう強行突破をするとか、決められていない場所に転移をするとか試みない限り、まず罰則規定が適用されることはありません。他、シラタマ国の緊急要請がある場合、連絡がいくこととなりますのでご承知おきください。」

 

「この中で【アンチウイルス】持ってるのって誰だっけ」

「持ってますよ」

 救国の魔法使いさん。やっぱり。

「僕もあります」

 アオくんもやっぱり。

「あと、ういも持ってますよ」

 ミラクルロングドッグになってきたなあ、ういも。

 

「スキル魔法【アンチウイルス】、複数人が所持しているため問題なく運用できそうです。緊急要請についても了解しました。この緩和要件特例、このままお受けしてよろしいでしょうか」

「了解しました。こうなると思い、王にも先に伺いを立ててありますので、このまま記録させていただきます。」


 あっという間に、入国緩和要件が成立してしまった。力があるがために交渉のテーブルの基礎要件が常人と違う。

 強すぎる、救国の勇者(兄)。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る