第198話 秘境イノハナ・白妙(1)

 白くキラキラした世界に目が慣れてきたころ、師匠はこの世界を認知する方法について白妙しろたえと呼ぶことを教えてくれた。

「これは私が子どものころに編んだ魔法式なんだ。キラキラして綺麗だろ?ここまで魔力の濃度が濃いからお前たちにも見せてやれる。世界の探査魔法の一段階上の魔法、と思ってもらっていい。今は視界の共有にとどめてはいるが、お前たちが育ったら教えてやらんでもない。頑張って育て」


 このキノコだらけの世界、情報量が限定されている状態でも力の流れが良く見えていることを考えると、日常に戻ったら一体どんな見え方となるんだろう。そこまで考えたあと、囚われた姫君たちをどう解放するか、そのために視界の共有をもらったことを思い出す。

 

「それにしてもなんで人型に変身している女性ばっかり狙ったんでしょうね、このキノコ」

「意思があるかどうかはわからんが、人型とりたいんじゃないか?それで情報取りたかったとか」

「え、師匠。それ、コワイ」

「世の中は不思議でいっぱいだからな~。特に【神代】ダンジョン、何があってもおかしくない。」


 ◆


 頭の中で音楽が流れる。

 私たちが演奏していた音楽だ。

 子どものとき?

 いや

 いつだろう。


 笑顔があったきがする。

 それなのに、目が醒めたら私は巨体を浮き上がらせ、空を飛んでいるだけ。

 

 寝る

 食べる

 飛ぶ

 食べる

 飛ぶ

 寝る


 こんな生活、いつまで続くのだろう。我々は何者かに突然放り込まれ、出られなくなった。そこからもう、何年経ったかもわからない。もう、我々の中での会話すらなくなった。

 言葉を忘れそうだ。言葉ってなんだっけ?

 本能?


 ◇


 主様、主様。

 小さな小鳥の大きな気持ちです。

 こんなことが私の鳥生の中で起きるとはおもっていなかったのです。

 本来私は生きて5年程度。

 もうすでに、主様の気まぐれで20年ほど生きている。

 余生が15年目に突入したようなものだった。


 そこでこんなことが起こるなんて。

 恋慕の情を向けるのは鳥竜種の美しい人。

 彼も主に竜生をささげる人。


 私はあと何年生きることが出来るのだろう。

 この幸せな今を永続させたい。


 私にいつその日が来るのだろう。

 本来の業務に戻らなくてはならなくなるどころか、彼と居させてもらっている。

 

 怖い

 怖い

 怖いけど、今の彼との時間はとても大事にしたい。

 この特例は私の寿命が残されていないってことだったらどうしよう


 怖い

 怖い

 最期の時は彼の腕の中がいい


 ◆


「うわ、これ、永長…」

 師匠とオレは虹竜のモニターを見ていたが、永長のモニターを見ていたアオが何かに気づいた顔をしている。

「なんか気づいたか?」

「永長、寿命気にしてるっぽいんですけど、師匠、使い魔に寿命の説明してないんですか?」

「え、契約の時にしたと…おもっては…いるけど…あれ?正直そんな前の事覚えてない。志摩と永長と契約したのなんて随分前だしな」


「あともう一つ、永長の足元に人型の菌糸が出来てきてます。かたちが永長っぽいんですけど。因みに、閃閃と閃電の方にはありません。って師匠、今ちゃんと見てないんですか?」

「……虹竜の延々と繰り返す毎日ダイジェスト見てたら、眠く…」

「オレもぼーっとモニター見てた」

「……。じゃあ2人ともあの菌糸みてください。ってあれ?なんだ?こっちに飛んで…」


 その白い菌糸でできた永長が師匠に一気に距離を詰めて飛んできたうえに、襲い掛かってきた。あっという間に距離を詰め、標的が師匠であることに気が付く。

 

「うわ!びっくりした!」

 本当にびっくりしたかどうかはわからないが、いつの間にか師匠の前にちアオが剣を持ち叩き切っていた。ほんと思い切りがいい、我が兄。ぼやっとしていたオレのふがいなさよ。

 

「あ、再生する。これ、焼き討ちしなきゃ多分復活してくるが、こいつから情報とることができるか?お前たち」

 腰に手を置き、余裕の表情を見せ、にやにやしている師匠。

「努力はしてみますが、そもそも、永長に寿命のこと教えていない師匠が悪いんじゃないですか?これ、チーズさんの力はあったのはそうですが、永長の不安もこのダンジョンの呼び込みの一端になってないですか?」

 長剣を担ぎ余裕の表情を見せている。しかし、アオ、たくましくなったなあ。オレの美学には反するけど、アオはアオ、オレはオレ。

 

「答えを言えば、イエスだな!部屋も隣だしまあ、影響はあっただろう!ちなみに閃閃と閃電、あれは、天の声、命令の方がいい。それを聞いたら多分一発で目覚めるな多分」

「置いてきちゃったじゃないですか!天くん!」

「だってお前たちが思いがけないところが原因でいじけてたから、殴り合ってでも話し合おうかと思ってたから連れてくるわけには…。初の反抗期かと…わくわくしてしまって…だってお前たちすごく優等生だし、反抗期らしい反抗期はないし、知的レベルも高いし…こう、いじけてたのが面白くて…」


 たはーみたいな顔をしている。


「師匠は喋らなくていいことは喋るのに、話さなければならないことを話さないから、いらない誤解はうむし、世間的評価が分かれるんですよ。自覚してください」

 今日のアオはものすごく辛辣だ。

 オレは面白すぎてにやにやした顔も隠せないし、この言い合いに口もはさめない。

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