第197話 秘境イノハナ(10)

 意外とそれはあっさりと見つかった。

 人型となった虹竜と、永長は菌糸に巻かれ、繭のようなものに包まれていた。


「ふと空を見上げたら明らかに怪しいものが3つあったーなんて予想しなかったわ。なんだこれ」

「探す手間はなくなりましたが、どうしたらいいんですかこれ」

「しかも永長のだけめちゃくちゃちっさいですね」


 師匠は緑色の映像魔石を12個収納から取り出し、上空に向けて放り投げるとそのまま飛んでいき、それぞれ巻かれている前に四角形のモニターを形成するように停止する。上空に固定されたそれは、映像のチューニングを始める。


「どんな夢を見てるか見ないことには対処ができないが、絶対に口外しちゃいけない、わかってるな。どんなプライベートなことを覗き見るかもわからないからな」

「師匠がオレたちの見ていたものを全部見ていたってことはわかりました」

「別に隠すことなんて何もないから、別にいいんですけどね」

「だよな」


 師匠はチューニングをあわせながら、視線をあわせずに話かけてくる。

「そう言ってくれると言わないわけにはいかないと思うから言うけど、お前たちからも氷那からも聞いたことがなかったこと、知っちゃった部分はあるよ」

「え、何だろう。背中に残るいまだに消えない蒙古斑とか?!」

 本当に動揺するアオ。いや、そこまでか?!

「それは知ってた」

「ええ~!!!」

 真っ赤になってしゃがみ込むアオ。因みにオレにはない。


「お前たちの母親の出身国がシラタマ国だってことだよ」

「なんだそんなこと?オレ、母の出身国ってこと以外何も知らないんだけど」

「ルーツがあるんだね~っておもっただけですよ。先日入国しましたけど別に何かあったわけでもなく、知ってる人も会いたい人がいるわけでもないので割とどうでも…」

 今度は師匠が思い切り驚いた顔をこっちに向ける。上空のモニターは鮮明画像が浮かび上がってきた。

「お前たち、ルーツとか出自とか、どうでもいい系か?!祖父母ぐらいは生きてるんじゃないのか?!淡白すぎる!驚くわ!」

「だってオレたちの人生に関わって来なかった人ですし。父母も小さいころに亡くなっているから、本当に何も知らないんですよね」

「村を焼き討ちにしたときはさすがに頼ったらいいのかな、とか思ったんですけど、今は師匠がいるからどうでもいいです」

「そうか…なら別によくないが…いいか…」

 

 そんな師匠の言葉を聞きつつ上空のモニターを見遣る。

「師匠!永長のモニター見てください!」

「お、なんだなんだ?……あ……うん。あれ、見てやらない方がいいんじゃないか」

 そして目をそらす師匠。

「じゃあ、僕が見ておきますね。あとでチーズさんと志摩に報告します」

「早速口外するとかいうな!」

「だって、面白いじゃないですか。永長の中でノナさんがあんな風に見えてるとか。本物より足長いですし、まつ毛の長さも半端ないですよ?なんですかこれ、脳内再生恋愛ドラマですか?」

 なんでか真剣に見始めるアオ。コーラとポップコーンが欲しいとか言い出すけどなんだそれ。そして虹竜たちの方は全く同じ環境のフラッシュバックらしく、”瞬きの窟”に封じられた瞬間はもう終わってしまっていたようだけれど、幾年も幾年も無為に生活していた拷問のような日々を再生させられている苦痛感がモニター越しにも感じ取れてしまう。


「で、これ、どうやったら救出できるんですか」

「モニターで今の夢を覗き見つつ、タイミングと突破口を見つける作業をしてるんだよ。うん。お前たちにも私の視界をわけてやろう」


 師匠がそう言ったと同時に軽いめまいがして少し目を閉じる。そこから眼を開いたら、なんだか世界が知らない見え方をする。

「今は、情報の流れ、このキノコどもの流している情報をひっぱりつつ、あの上空の菌糸があの3人から何を探っているか、見ているところだな」

 エネルギーの流れが見える。なんかキラキラしている所と禍々しく渦巻いている場所がある。師匠の周り半径10メートルはキラキラしていて足元からも光のオーラが満ち溢れている。反対にあの3人の周りは禍々しくも黒いうねりが地面から立ち上り、菌糸の上から包んでいる。

「うわ、怖。なんですかあれ、僕の人生の中で初めてみました」

「そもそもアオ、この見え方するの初めてだろ」

「そうだった。師匠いつもこんな見え方してるんですか?」


「今回みたいな特殊な事情じゃないとこの見方はすると疲れるからしないよ。精神干渉されているときに変に意識をひっぱりもどすと、人格をロストする可能性があるから慎重になってるだけだよ」

「へ~勉強になるね、イオ」

「本当に。オレたちこれで助けられたんだな。って師匠!魔力大丈夫なんですかこんなに使って」


 今は凍結魔法でナットを維持、コントロールしていることにほぼほぼ魔力を割いていることを知っている。これ、師匠が魔力を使いすぎるとすべてが瓦解する可能性があるのでは?!

「いや、キノコどもから奪い取ってるから大丈夫。さすが【神代】のダンジョン、魔力に満ちてるから魔力貰い放題で最高だな!。ってお前たちその魔力の動き今なら見えると思うからちゃんと見て勉強するといい」


 そう言うと師匠はウインクをしてきたので、素でびっくりした。

 

「うわ、弟子の反応がひどい」

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