第199話 秘境イノハナ・白妙(2)

 そんな言い合いの間に先ほど師匠を襲おうとした菌糸がまた、永長の姿かたちを取ろうとする。反射的に使えるレベルのうち最高クラスの防御魔法を師匠とアオにかける。

「耐久しつつ探れってことだね、イオ」

 兄はキラキラした余裕の笑顔をこちらに向ける。余裕あるな、本当に。異世界の君がこの世界にきてからなんかマジで生き生きしている。

「よーし、この『白妙』、活かしていってみよー!」


 永長の姿を形どる白い菌糸は、アオに斬られた部分をだいぶん修復して、そろそろ、動き出しそうではある。本質をみているためかわからないが、修復された腕は鳥の羽に変わっている。修復する菌糸は足元のキノコから伸びて、シュルシュルと縫い閉じるように修復される傷。警戒しながらも力の動きを見ていると、ちょっと溜めるような動作が光の粒として感じ取れる。

 この視界、とても便利で来る、と思う前に体が動いてガードをすることができる。


 魔法障壁を展開して防御したところをアオがまた斬りかかる。修復の時間を取らせながら、エネルギーの流れを見る。初心者が扱う魔法のエネルギーは大地から吸収し、頭でエネルギーを制御し、手から放出する。その時に金切声のような音がこちらに放たれる。

「もしかして、声帯作ったのかな?」

「計り知れないな、菌糸」


 菌糸永長からある程度距離をとり、探査魔法を走らせる。それは別に弾かれるわけでもなく、全体をあっという間に探査できてしまった。正直拍子抜けではあったけれど、その人型をとっている菌糸になにも『ない』ことがわかっただけだった。

 

「師匠、あの菌糸の塊、何の情報もない肩透かしなんで逆探します!」

「報告はいいからどんどん思いつくことやってみろ、ちゃんと見てるし、信用してるから」

「じゃあ僕がどんどん再生していくように滅ぼさない程度にダメージ与えていくから、元を探ってイオ」

「わかった。でも、ダメージ与えすぎて耐性ついて強くなったらどうするんだよ」

「そしたらより強い力で叩き切るだけだよ、心配いらないから」


 それって心配とかそういう話か?とも思ったが、なんか唐突に兄に置いて行かれているような気がしてきた。オレが師匠についてる間、外にでて色々なものをみてアオの得た経験値だけ共有する。でも経験は共有はされることはない。オレが師匠について学んだことも共有はされてはいないが。

 

 

「イオ、人それぞれ、適材適所を忘れるなー」

 師匠が突然声をかけてくるからびっくりした、が、感情が読まれていた?!

「お見通し、お見通し。優劣なくお前たちの育成計画は順調だってことだけは言っておくよ」 

「え、師匠、計画なんてあったんですか?」

「むしろノープランだと思っていたのかアオ」

「すべてが思いつきかと…」


「……弟子が酷い」

 口を尖らす師匠に、うっかりくすっと笑ってしまった。そうしながら、アオが叩き潰す菌糸の素を探りもちゃんと続ける。


「アオ、ちょっと限界まで叩き潰してから探査に加わってもらってもいいかな。多分、きっかけは掴んだけどオレだけだとちょっと掴み切れない」

「りょーーーかい!」

 

 よく知る使い魔の形は大分別の形となり、腕は鳥の羽、鳥の尾もあり、足もまさに元となったシマエナガの脚となっている。それを「燃やさなきゃいいんだよね」ぐらいの感情でダメージを与えていく兄。

「よし、探査魔法、お前が主導して。力譲渡するから」

 そう言うと右肩の肩甲骨のあたりに手を当て、力を流してくる。その力を借りて、再生される根源、永長とこの菌糸永長を繋ぐ元を探り特定する。

「わかった!」

 そう言うと、お気に入りの弓を取り出し矢をつがえ、放つ。さっきの菌糸永長への反応を見るに、確実にマーキングは可能と判断し、力とバリアがあっても突破できる魔法を鏃に乗せて、放つ。チーズさんの雷銃と似たような使い方だ。


 大体ここから200メートル、目的を射抜きマーキング完了。

「巧緻魔法はイオにかなわないよね。さすが我が弟」

「ただ、マーキング打ち込んだことで攻撃の手が強まる可能性がある。気を付けよう」

「うん、これからは気を付けよう。予想していたとはいえ、やっぱり本体にダメージ入るとこうなるんだな」


 矢によるマーキングは成功した。が、自己防衛本能か、一気損傷した菌糸永長の修復が進む。進んではいるが、永長の姿とは似ても似つかないものに変容、大きさももともとの3倍程度となり、菌糸でできているからかものすごく軽そうなんだけど、サイズ感がおかしい。5メートルはある。

「はははははは。でっか」

「探りのマーキングは終わったから、これ、消してもいいですよね、師匠」

 念のため師匠に意見を求める。まだこの菌糸から情報を引けと言われたら、まだ燃やせない。

「思い切りいっていいぞ~。第1段階クリア!」

「ありがとうございます!」


 そう言うと兄は力を籠め、巨大な永長をモチーフにした何かに、火柱の魔法を叩き込む。

 その火柱は20メートルぐらい立ち上り、渦を巻く。防御魔法をかけていないとこれは絶対に熱い。ダメージはないけれど熱気だけは飛んでくる。


 永長と繋がった菌糸を中心とした10メートル、完全に消し飛ぶのに10秒もかからなかった。

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