第200話 秘境イノハナ・白妙(3)

 炎の柱が消えた後、地表が露見した部分に立つときっちりとした足場になった。

「やっぱり足を取ろうとしてきたのは全部跳ね返してましたが、こう、安全地帯ができるの悪くないですね」

「まあ、じわじわやっぱり焼けた部分の周りからじりじりともとに戻って来てるけどね」

 

 大人の姿をとっている師匠はすらっとしていて目測170センチぐらいあるから、割と迫力がある。ついでにいうと閃電よりもスレンダーだ。そんな師匠が珍しく真剣な顔をして先ほどマーキングを撃ちこんだ方を見ている。なにかがあるんだろうか。


「お前たち、【神代】ダンジョンの攻略要件、覚えているか?」

「確か、その世界を形どる核の破壊、しかも一度踏破すると何人なんぴとたりとも、2度はと立ち入ることは叶わない、だったっけ?あってるか?イオ」

「あってるはず。一回抜けると誰も入れなくなるわけだから、消滅と同義って何かで読んだような」

「よし、ちゃんと勉強しているな。感心感心。ただ実は、踏破後も立ち入ることは出来るんだよ!口外していないだけで。その要件を見つけることが出来ればお前たちも一人前が近いかなって思う訳だ。もう核の位置はわかっているな?そこの謎を解いたあとに、踏破後のお楽しみがあるから、しっかり挑むようにな。まずくなったらヘルプはする」


 師匠はオレたちを試すようなことばかり言っているが、弟子入りした当初は任せつつも相当早いうちに介入されてしまうことが多かった。そんな日はアオが悔しくて悔しくて泣いて大変だった。オレも結構ショックを受けていた。今以上に小僧だったわけで、半人前以下であることをまざまざと見せつけられている気がして、ここにいていいかわからなくなって。

 こんなことを思い出したの、久しぶりだな。


「お前たちの成長、楽しみにしているんだ。いつかわたしに『私の最高傑作』とか、『私の誇り』とか言わせるぐらいに育てよ少年」

 あ、これ、本気だな。って思う。この濃すぎる魔力が溢れる空間と、見た目が成長した師匠と、想い出や記憶が派手に開示されてしまった現状を考えると、心なしか素直になってしまう。

「今はまだ及ばずか~!がんばり甲斐がある、そう思うよねイオ」

「10年以内には言わせてみたいな」

「うわ、意外と凄い自信だった。期待してるからな!」


 そんな話をしている間にもじわじわと菌糸が陣地を取り戻していく。

「対象は目測ここから500メートル、現在も移動中。足元悪いのもいやだから、全部焼くかな」

「また、いい匂いしちゃうな。そもそも食用キノコがもとになって呼び込んでるから毒キノコなさげだよな」

「確かに鑑定してみた結果も”毒”の文字は見えてない。だから容赦なく焼けるんだよね」

 そう言うとアオは、目の前に火柱を形成。それは目標物まで追尾式でどこに逃げようとじわじわ追っていく、らしい。しかも分速20メートルぐらいの勢いで進むので、なかなかの恐怖感を演出。こんなものがそんなスピードで向かってきたら怖さしかない。


「あ、そうだ。ここってこの電話もどき使えるかな」

あにさん直通電話?」

 火柱の後ろを追い行進中にアオが何か思いついたっぽい。

「そろそろ天が合流したころかと思って。永長の方は多分あの元凶潰せばどうにかなるかとおもうけど虹竜はどうかなって思って。通信魔石自体はこの世界のものを使用しているようなんだけど、通信技術についてはこの世界ではないと思うんだよね。あにさん、異世界が2回目っていってただろ?」

「あの人なんか謎技術結構使ってるよね。とても興味深いけど、そもそもの魔力の練り方からして別次元すぎて。あと僕に何かを教えてくれるときはこの世界の法則に書き換えてくれてから教えてくれるの。どういうことなの」

「器用だよなあ…チーズ兄」


「あ、電話はやめて。アイツに気づかれる。元凶潰して脱出してからでもいいから」

「え?!なんかきっかけがあったら救出するっていってなかったでしたか?師匠」

「いや、閃閃と閃電だけは脱出のときにちゃんと連れて出れば、天の一声で意識取り戻すから大丈夫だ。問題は永長だけだよ。あ!答え言っちゃった!失敗した…すべてはアイツのせい…」


 前回遭遇した時にはあれだけ軽口を叩けるぐらいの記憶や感情は自分に戻していた、というのにいったん離れると拒否のレベルが高い。でも、特にこの等身の大きくなった姿は見せたくないだけなのかもしれない。


「わかりました、永長をどうにかすればいいんですね。永長も永長の王子様連れてくればよかったですね?」

「確かに!主人の弟子に助けられるより自分の王子様に助けられたいよな!」

「生憎なことに!俺たちしか!いないけど!」


 そんなことを言っているうちに、あっと言うに目的地に到着。そこには茶色と白の混ざった、オレたちの背丈をおも大きさをこえるキノコが群生している森があった。

「ここからは探査はしっかりな。しくじるとこのダンジョンから出られなくなるからな!」

「随分一見殺しのダンジョン多くないですか?!」

「大体【神代】と【自然発生】はこんなもんだよ。昔ダンジョン職人が作った【人工】ぐらいだよ、安全に潜行できるのは。現役ダンジョン職人も多分どこかにはいるかとはおもうが、奴らは姿を隠すのがうまいからなあ。あ、でも王命とかがあれば命令で建造することもあるとはきいてるなあ」


 師匠の口から次々聞いたことない話ばかり飛び出すことにもどんどん慣れてきた。

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