第158話 王城の近況報告/孤独からの脱出(2)

 王はかなりの勉強家だったことがわかる。しかも教えるのが上手い。そもそも王と言う立場でそのようなことが出来るのはなぜかと思うと、周りがポンコツすぎたんだろうな、って考えてしまう。

「そもそもいまナットは国としての体を外国に対して保っていない。ということは、謎の国からの貿易になってしまうのは、どうクリアしたらよいと思うか?」

「商人ギルドに加入したうえで個人の持ち込みと言う形で販売するのは良いかとは思うのですが、どうやってもそれでは大規模にはなり得ません。なにかこう、各国に対してアピールをしつつナットの品を販売できる店が展開できれば最高なんですけど」

 ただ、店舗を構えるには何かその国に貢献するとか、店の土地を買って営業許可を受けるとか、とりあえずハードルが高い。今『異世界の君』一派でいうとあにさんが海を越えた隣国に店を構えていると聞く。『救国の勇者』の二つ名を持ったうえで料理人とかどんな人物なんだろうか。そのうち会ってみたい。


「行商等でサンプルを取ろうにも、今生産に関わっている人数のみの凍結解除ですよね。そうなると、行商特化の商隊を組むとした場合、追加の凍結解除が必要となりますよね。それは、現在の『凍結の魔女』の余力からいって可能なんでしょうか」

「聞いて見ないとわかんないな。余力がないのであれば、余力を得てからの展開になるなあ」

「準備だけは怠らず、ですね。で件の魔女様はどこに」

 そう私が発言すると、王は困ったようなオーラを出す。

「話は少々飛ぶが、『異世界の君』チーズさんと『凍結の魔女の弟子』アオくんが2人でこの国の新規産業の模索のために、海岸近くにあり王城以外で唯一凍結解除をされているミアカという村の近隣にあるミソノ山に『葡萄』を探しに入ったわけだけど」

「はい、ミアカといえば近くに山と海に挟まれた村ですね。あの山は立ち入るものが次々行方不明となるために呪いの山と言われ、立ち入る者がだれもいなくなったと聞き及んでいますが」

「その山なんだけど、今まで誰も踏破したことがない『新規ダンジョン』だったことが判明してな、しかもダンジョンカテゴリーが【自然発生】、完璧なレアダンジョンだったんだよ」

 確かに新規ダンジョンというのは冒険者にとって魅力的な響きだ。

「で、『凍結の魔女』は我こそ先んじて踏破すると息巻得てお付きのイオくんを引き連れて飛んで行ってしまった。国内であるために魔女の行動制限はないからね…初回踏破を狙うらしい。木の根が張り巡らされている山の入り口あたりで上手く木の根の上を歩いていけばただの山、うっかり木の根の隙間から落下すると命を落とす。これは今回発覚したことではあるんだけどね、山に立ち入り禁止とされることもわかる。で、今回は魔女の弟子アオくんがバフをかけていてくれたおかげでチーズさんは落下したけど無傷、ダンジョン発見に至ったという魔女からの報告だよ」

「凍結の魔女、あの方の実力であれば、どんなレアダンジョンの強敵でも一ひねりでしょうね」

「そしておそらく、何かしくじったり危なくなるようなことがあれば、全てをなげうってでも飛んでくる2柱目もいいるしな」

「2柱目…といいますと」

「シンは会ったことがなかったね。『救国の魔法使い』だよ。今はチーズさんの兄、もう1人の『異世界の君』と行動を共にしている。詳しくはわからないけど、昔因縁があったらしいよ」

「噂には聞いたことがあります、この世界の2大魔法使い」

 知らないうちにそんな強い2柱ともにこの国に協力してくれるとは、すごい人望じゃないか、さすが我が君。

 

 「そして、今この国で魔女が凍結解除したのは2か所で、全体でいうと5%ぐらい。ただ、都市部になるとそれなりに労働を厭う民が増えてくるところがあり、どうしたものか。そこもどうするかチーズさんは考えてくれてはいるようなのだが、反乱も加味して計算しているきがしなくもないんだよ。あの人はそういうタイプと見て取れる」

「制圧ありき、と」

「まあ、わからないけどな。で、今魔女が居るのはその復活させたミアカの近くになる山、ミソノ山の【自然発生】ダンジョン攻略中の『異世界の君』チーズさんのところに押しかけ合流して攻略を楽しんでいる、というところだよ。しかし本当に、民が何世代にもわったて木の根の隙間から落下し続けていたとは気づかなかった。派遣した衛兵まで落下してたんだから、もう対応のしようがなかったよね」

 

 都市部ではなかったことも幸いし、自主的な立ち入り禁止で保っていた、ということみたいだ。そんなばかな、だよ。やっぱりこの国、内政がぐだぐだだ。私が立て直さないと。


「オリーの代でこの国、世界一の発展国にしてみせますよ、私は。私の全身全霊すべてを賭けて」

「前々から思ってたけど、ちょいちょいお前言ってること怖いよな」

「私は王さえいてくれて、王が幸せでいてくれれば、それで満足なだけですよ?」

「そういうのがさ…まあ、いいけど。お前が復活してくれたおかげで話し相手ができて本当にうれしいよ」


 そういう王、オリーはきっといい笑顔だったのだろう。正直いって国の立て直しのためとはいえあの美しい我が君をモヤなんかにしてしまった凍結の魔女に苛立ちはまあまああるが、王が許容していることに対して、文句は言うまい。

 

 いや、本心をいうと文句は言いたい。

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