第157話 王城の近況報告/孤独からの脱出(1)

 王の側近はすべて「凍結の魔女」の魔法で姿なき者になっている、と言う事をきいた。かくいう私もその状態になっていたところ先行解凍してもらっただけの立場なのだが。

 王命があり、一部の人間の記憶に私が残っていたがためにおきた奇跡としかいいようがない登用劇ではあったとおもう。家ごと王城に引っ越してきた私は、なぜか私の家で王から貿易のレクチャーを受けている。しかし問題が。凍結魔法の弊害で一つ問題がある。それは、王の今の名前が思いだせない。

 

「お会いしたとき、オリーって名乗られていましたよね」

「それ、偽名偽名。でもまあ、本名忘れちゃってるからなあ。オリーって呼んでいいよ。しかし俺の名前、文献とかも目視しても全く読めなくなるとか、凍結魔法ってすごいよね」

 

 王はフランクに接してくださる。対外的な一人称が私相手だと「俺」になっているから、よくわかる。が、私はちゃんと礼節を守って接したい。そもそもがかなり親しく接していたせいで、ボロが出ないようにするのは大変だが、これから、私が、王の使えない側近が凍結解除をされたときにいかに奴らを蹴落として今の立場を保持するか、という大きなミッションが残っているがために人目はなくともすべてにおいて全くもって油断はできない。


「俺の名前はオリーでいいとして、シンはよく自分の名前ごと復活できたな。意志の強さかな」

「『凍結の魔女』の計らいのようなきがしていますが、よくはわかりません。そこよりも衰弱の方がひどかったので。追放されてからの精神状態がかなり酷かったと思います」

 本当に、あの時何か頭の中に鳴り響き、その何かを紙に書き写す事に必死になっていたようだが、記憶が混濁していること、あとからその紙を見ても何を書いていたかがまったくわからないという有様で、思い出したくもないが、あのトランスは一種のこの世界をつかさどる「何か」と繋がっていたきがする。


 そもそもの話、この常にアップデートを続ける『ステータスボード』はだれが作り、誰が付与しているんだろう。どんどん便利になり、一部のデジタルデバイドといっていいのだろうか、ついていけない人を一定数うみ、その一定数にはより簡単な機能なステータスボードにダウングレードすら可能だ。

 大体が「メール、地図、鑑定、アナライズ」ぐらいが使えればその辺んで殴って遊んでいる分ぐらいは十分満ち足りる。

 

 私はまず、このステータスボードの謎が知りたかった。

 ただ、この「ステータスボード」というユーザー由来でいかようにも使えるシステムについて、基本解析をするにも解析スキルを使用するか、ステータスボードをハッキングするか、という手段しかなかった。

 誰しもに付与されるツールであるものの、成り立ちが完全に謎。大昔はレベルとステータスとアイテム一覧ぐらいの機能だったらしいが、今となっては完全になんでも屋。

 そもそも一番最初に王に進言したかった内容はこのステータスボードの一部解析に成功したことの報告だった。その頃にはオリーは皇太子から戴冠式を経て王となっていたため、士官をする以外に近づける方法がなかったから、後先考えずに士官した。

 ナットは地下資源の食い潰しでじり貧。この国を救うには新たな生活の手立ての確立と労働意欲の向上が必要であった。最悪のタイミングで戴冠してしまった我が君の一助となりたくて、情報は国力、先んじた情報戦略で他国に追随を許さない、強い国として国を立て直した、歴史に名をのこす何より強く、賢い王になってほしい、私の唯一の友人なのだからという期待を全面に出して勤務にあたっていた。

 今を思うとあの頃は、頭の中が若かった。後先考えないにもほどがあったとは、思う。上手く立ち回っていればあんな餓死寸前の大迷惑はおこさなかったであろうに。いや、わからないな。政治欲の強い奴らっていうのは、何かにつけてあらを見つけたり人の手柄を自分の手柄にしてご注進したりするものだからな。

 まあそういう戦略に大敗している時点で負けを引いた人間の戯言になってしまうのはわかっている。

 

 そんな自分を思い出したように凍結解除のうえで登用し、「貿易を王から直接学ぶ」なんて僥倖極まりないミッションを与えてくれた『異世界の君』とその一派には感謝しかない。


「シン、どうした?ぼやっとして」

「いや、幸せだなっておもって」


「あ、やっとため口に戻った!」

 私のうっかりで、王が喜ぶ。喜んでいるというのは言葉の調子で判断するしかない。

 衣装のみは元のまま、表情はみえず、黒いモヤで形成されている王はいつ姿を取り戻すことができるんだろう。


「シンに覚えて欲しいことは結構あって、順を追って学んでもらいたいんだけど、知識の補強として読んでおいがほうが良い本をステータスボードに取り込んでおいたから、いつでも見ることができるぞ!」

「ありがとうございます、我が君。」


 実はこの本を丸ごとステータスボードのヘルプに突っ込む魔法を編んだのは私だったりする。特許も申請した。

 そうやって小銭を稼げるシステムを構築しているものの、追放されたときから本当に病んでいたようで、記憶が混濁しているし、別にこの特許の小銭で食生活には全く困っていないぐらいの収入があったはずなのに餓死寸前。

 我ながらよくわからない。

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