第159話 ミソノ山/偵察隊・増(8)

 森フィールドから【転送魔方陣】にみんなで手をつなぎ飛び込んだ先は、迷宮フィールドだった。照明はない。周りはブロック塀と土壁が混在、うっかりどっかを触ったら弓矢とか飛んできたり、大きな岩が転がってきそうな、落とし穴もありそうな、そういう作りに見える。

「ここにきて普通のダンジョンみたいになった…」

「この手のダンジョンだったら、さっきのモンスター主体の探査の複雑さと比較すると、仕組み、ギミックの解析になるので、僕とイオ2人で解析することは容易かなあと。師匠、ふたりでやっていいですか?」

「いいぞいいぞ。そして安全な拠点を置ける場所を見つけて今日はそこで休もう。結構みんな魔法を使っているから、しっかり寝て脳を休ませることが必要だよ」

「ずっと魔法使い続けてる■■様はどうなんですか」

「そこについては、ちゃんとしてるから大丈夫じゃよ。これはお前たちが多分あと5年ぐらい弟子業を完遂したらできるようになるかとはおもうが、まだ15歳の小僧ちゃんに早いな。負荷かけすぎずにちゃんと寝ることも修業のうちじゃよ」

 

 その言葉については、同意しかない。

 

「私も、最低7時間は寝ないとパフォーマンスが落ちますね。個人差はあるとはおもいますが、私は寝ないとだめです」

「しかし今日は野宿か。久しぶりじゃのう」

「魔女さん、キャンプじゃなくて野宿派なんですか?!キャンプまで引き上げましょうよ。同じ寝るにしても快適さって重要ですよ!さっきキャンプ用品ちょっと出したじゃないですか。あれ、全部『キャンプブームに乗っかって道具を買ったけど使わないし、田舎に帰るんでしょ?気っと使う事あるだろうからあげるよ』っていってきた大学の同級生の投資の残骸ですよ。せっかくだから使いましょうよ」

「そういえば出しとったな。あれ、野宿用なんじゃな」

 完全に『野宿』というワードから離れない。


 とりあえず【無限フリースペース】に突っ込んであるキャンプ用品はハイエースにぱんぱんに積み込むぐらいの量はある。さっきは一部だけ出したけれど、まだまだあったりする。

 同級生たちが就職を機にそれぞれの新天地に向かうにあたって、ブームに乗って買ったはいいが引っ越しを機に処分を考えるものをなんだかいっぱいくれたものだった。実家から軽トラ出して札幌まで取りに行って持ち帰った品々だ。

 高額なものも結構どころかかなりある。正直捨てるお金勿体ないだけじゃないのか疑惑は拭い去れなかったけど、ありがたくもらっておいてよかった。元の世界の私はもてあましてる可能性はあるけれど!

 

 テントなんて3つもあるし、テーブルから椅子、ガスコンロ、焚火台、薪とかもある。実際これの快適さはアオくんだけは使ったことがあって知っているんだけど、おそらくは魔女さんとイオくんに先入観なく快適さを味わってほしいのか、驚くさまをみたいのか、黙っている。多分私たちの行動を見ていたことはあるだろうに、発想が野宿な時点で、お察しだ。これはもう、認知のアップデートをしてもらわないと。


 ◆


 アオくんとイオ君がセーフルームっぽい場所を発見してくれたので、そこに今回の拠点を築く。洞穴みたいな場所で、モンスターの侵入は防げるつくりになっているが、そこに防御壁も展開してもらい、安全を担保する。そして焚火もしてもいいように、謎魔法式で通気も確保。

 今回見つけた部屋は大体15畳ぐらいで、結構広い。テントも男子チーム、女子チームで2つ展開。中にはコットを2つずつ、他にテーブル、カンテラを設置、ベッドマットを乗せた上で寝袋をそれぞれ。

 私に押し付けた同級生たちの顔が頭をよぎるが、もう会うこともないだろう。


 外には焚火台と椅子、そしてテーブルを置く。設置はすべてわたしとアオくんで行った。その間魔女さんとイオくんは先に設置した椅子に座って変なものを見るような顔で私たちの行動を見ていた。

 この世界に来てからレベル由来で体が強化されていて、多少のことでは体力が持たなくなることもなく、気分的には無尽蔵の体力だ。テントを設置するときの地面にポールを打ち付けるのはさすがに普通のハンマーを使用、軽く打つだけで地面にポールは軽くさくっとはいっていく。ひととおりの拠点を作り終わった後、魔女さんとイオくんをそれぞれ、テントの中に案内する。

「これは、ベッド?!野宿なのにベッド?!」

「これはコットっていうんですよ~。キャンプ用のベッドですよ」

「す…座ってもよいのかの?」

「むしろ一回寝てみてください。体重分散してくれるので寝やすいですよ。」

 魔女さんはテントに入った後、左側のコットを陣地とする。今晩は私は右側だね。まあ、いつもアオくんと2人の時も右側なので、いつもと全く変わらない配置なんだけど。

「なんじゃこれは、こんな野宿があってよいのか」

「キャンプですって」

 同じ様にもう一つのテントに向かい、イオくんの場所にも案内する。イオくんは当たり前のように右側のコットを選ぶので、アオくんが左を選んだのは兄弟間の日常に基づくものなんだなあって思ったりもした。

「へき地の宿より快適なきがするんだけど」

「だよな?だよな?!」


 よし、掴みはオッケー。ありがとう同級生。こんな大型アイテムを大量に押し付けられた恩は、いろんな意味で一生忘れない。 

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