第160話 ミソノ山/偵察隊・増(9)

 今日の夜ご飯は、ホワイトシチューとごはんにした。ご飯は飯盒で炊飯、ホワイトシチューは中鍋で4人分作る。使用している野菜は我らがナットの畑の野菜たち、肉はそのへんでとれた鳥のドロップ。見た感じ鶏肉っぽい。兄程度の鑑定はないので、毒がないことぐらいまでしかわからないけど、美味しいといいな、って思いつつ調理する。最初焼き色をつけるために炒めている時点ではそこそこおいしそうなにおいがしている。

 

 火は魔石コンロとかがこの世界では主流っぽいんだけど、そんなものは入手していないのでカセットコンロを使用する。普通に料理するときでも火力が必要なときは安全装置のないカセットコンロは有用で、最近でいうと餅焼き網つかって餅を焼こうとしたら上手くいかないときはカセットコンロが活躍してたりする。本当にめんどくさくなったらトースターの餅焼きモードだけど。あと牡蠣を一斗缶ごと酒蒸しにするときもカセットコンロが便利。

 

 料理してるときって連想思考してしまう癖があるけど、これのせいでこの世界でなにかきっかけがあれば、代替え食材を探すことができそうでもある。同じ料理を作ろうにも代替え食品を探して入れ替えていかないと、野菜はあの時空の歪み種ラックのおかげで補充今は出来るけど、今後閉じてしまえば供給は途絶える。そもそも肉類と魚類が壊滅的だ。おそらく一生食べられない食材たちに思いを馳せる。

「チーズさん、ごはん炊けましたよ~」

「こっちももうすぐできる。ってあとの2人は?」

 アオくんがテントの方を振り向き、ちょっとあきれた感じで言い放つ。

「寝てます」

「寝…?」

「コットとベッドマットが良かったのか、寝袋の展開もしてないですけど、2人とも着衣のまま、すやぁ…と」

「まじでか。こっち料理してんだけど」

「困った師匠と弟ですみません…」

「じゃあ、そろそろたたき起こしてきて」

「わかりましたっ」

 

 アオくんは元気よく、文字通りたたき起こした。

 寝ぼけた顔のまま起きてきた2人は、そんなに眠いなら水かけますよとアオくんに言われていた。強い。


「今晩はシチューとごはんですよ~」

 私の気に入って使っているシチューの素もあと3箱ぐらいで切れる。これ、兄さん商品開発してくれないだろうか。市販品フル活用の私としてはなくなってしまうと心もとないからあとでかけあってみよう。

 一から味を組み立てるとか、素人には難しすぎるうえに、長期保存のなんたらとかいうと、完全にお手上げだ。


「チーズの料理は異世界の味だというのに、癖が無くて食べやすい。いつ食べてもまた次食べたくなるのはすごいのう」

 寝起きだというのにがっつり食べてくれていてびっくりする。魔女さん千年も生きてるのに胃が強い。

「アオはいいよなー。この食事に加えてあにさんのもたまに食べてるんだろ?」

「うん」

「最近オレたち復活した西の離れの食堂メシなんだよ。まずくはないけど普通なんだよなー。ちなみに王も同じもの食べてる。そもそもがナット食糧難だったせいか、凍結魔法行使前の食生活より食堂の食事の方が上なんだけど」

「確かにそうかも。野菜だけみても元より全然素材からして上だよね。」

 アオくんの1.5倍ぐらいの速度でイオくんは食べ、おかわりをしてくる。育ち盛りだなー。作った分がはけて食事は終了。その後はデブリーフィングを行ったところで、一応兄たちに連絡を取った方がいいということになり、魔女さんは映り込まないように女子テントに避難。これはいつまで続くのか、ずっと続くのか…。

 

 私たちは男子テントのほうに集まり、アオくんの通信機器で兄への通信を開始する。

「あ、あにさん?今大丈夫です?はい。じゃあ映像繋ぎますね」

 テントの内部にスクリーンのように、通信映像を展開する。アオくん発案で、安全を期するために、女子テント側に映像展開をしている。音声が届いてしまうことについては、念のため防音壁を女子テントに展開してもらい回避してもらう。

 ただ、同門スタートであるがために、微妙に一緒にいることがばれる可能性はなくもないが、それはもう、仕方がないということで。ちょっと気になることと言えば、多分、アオくんと兄は『救国の魔法使い』さん側についていそうだ、ってことだ。カンだけど。実際のところ私はこれからの冒険や復興に影響さえ及ぼさなければ好きにしてください、なんだけど。いや、こういう時に気を使わないといけない時点で、もう支障をきたしているかもしれないけれど…。

「今僕たちはたまたま未踏破【自然発生】ダンジョンを見つけたので攻略中です!」

『それはすごいねえ。どこにあったんだい?』

「葡萄の自生地の裏にある山です。他品種がないかどうか探索にはいったら木の根の下に空間があってそこがダンジョンにつながっていました」

『それ、どうやって発見したの』

 あ、これは私から言わないといけない。アオくんから言ってもらったら問題が大きい。

「私が木の根の隙間から下の空洞に落ちて見つけた。アオくんのバフのおかげで無傷だよ!兄妹そろって滑落事故だね!」

 

 軽く言ったのは、本当に失策だった。まさかの、兄の怒りに触れてしまった。

『お前は昔から足元見てなくて転んだり落ちたり…注意力がたりないってずっと言ってただろ!ほんともういい大人だろ!』

「食材探しにいって山から滑落して異世界いってた兄さんに言われたくないな!」

『そうかそうか、で、どのぐらい落ちたのかお前は』

「5メートル」

『5メートルってばかか!!どうせお前のことだから木の根があるとか気にしないではしゃいで走って歩いてたんだろ?』

 

「そんなこと…」

「その通りです。前を走って行って姿が消えました」

 アオくんの裏切り行為により酷い顔でアオくんを見てしまった。

 この間、イオくんは関係ないと言わんばかりに大変暇そうにしていた。

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