第175話 葡萄畑黎明譚(1)

 転移魔法陣の出発点の相談は王とすることになり、願いを叶えてもらえるように、みんなで葡萄の自生地に向かう。

「葡萄については品種は4種類、ここの自生種、閃閃せんせんの食したもの、閃電せんでんの食したもの、あともう1種については任せておくれ。見つけてはある」

「葡萄酒の適合種かどうかはわからんが、葡萄畑を作ろう。で、葡萄畑とはどのような感じなんだ?」


 この虹竜たち、どんなものかわからないで言っていたらしい。畑だからどうにかなるだろぐらいの感覚だったらしい。ということで、ここに向かうときに回収してきた本を見せたところ「わかった」と言い、葡萄畑とする範囲を囲い出した。

「この願い分のリソースは分割してきた。さあ、早速やるとするか」

「うん、さっさと叶えてしまおう」


 対角線上に立った閃閃と閃電が両腕を広げると先ほどのダンジョンにあった珠の小型のものが胸の前に浮遊し始める。それを両手で拍を撃つように潰すとその瞬間、葡萄畑が目の前に現れた。なんだこれ、魔法なんだろうか神通力なんだろうか。

「すごいね!ぼくもできるようになりたい」

「天様は願いを叶える種族ではありませんが、ラッキーを与える種族ですので間接的にできるようになるかもしれませんね」

「ぼく、ちょうりゅうしゅっていうんでしょ?」

「その中でも選ばれた、吉祥を司る固有種ですよ。もう少し大きくなったらわかるとおもいますよ。」

「そうか」

 主に会話を担当するのは閃閃。閃電はたまーに、必要と思った時だけ口を開くようだ。でもいずれも天くんへの視線がすごい強い。ただ、2メートルの巨女なことには変わらないので、圧がすごい。


「で、ここにワイナリー、ですね?異世界の設備の誘致は我らには困難ですので自分でおつくりになられてください」

「ハコモノだけはお任せください。そしてみたところチーズさん、あなたは時間操作が可能ですね」

「ええ、まあ」

 突然ふられてびっくりした。

「あそこの間伐材、時間経過させて使用できるようにできないか?大体半年~1年ぐらいなんじゃが」

「できますが、ちょっと時間かかりますね。あそこの間伐材をさくっと乾かしちゃっていいんですね」

「頼みます」


 そう言われ、間伐材の前にたつ。これはなんの木だろう、杉の木のみたいな見た目だけど。

「これは見事な『音の木』だな」

 久しぶりに魔女さんが前に出てきた。あれだけ言居た事言いまくっていたというのに、記憶の箱2つを魔法使いさんが所持するやいなや、魔法使いさんとの会話を避けるように思い切り気配を消してたんだけどこの御人。

 

「わかりますか、『音の木』。これを市場に放出したら、結構な流通量になりますね。昔の感覚ですが、一応高級建材ではあるとは思うので、立派な建物を建ててみせますよ」


 ところでこれ、ワインについてはミアカに了解を得ているけれど、もしかして林業の拠点も必要だったりする?あとでモヤ王に確認してみよう。最初に復興させた縁はあるにせよ、産業がミアカ周辺に集中しちゃうなあ。

 あと、これだけの木を乾燥するあたり、私の魔法は5分で1日経過。オートランをかけても24時間で288日程度。半年~1年ということなのでまあまあかかる。とりあえず、大量の木のあたりまるごと乾燥開始。

 

「とりあえず何かできることがなくなっちゃったね。」

「では、わたしとイオは先に王城へ戻り、温泉地の候補地を確認したうえで王に話を通しておくな」

「ありがとうございます!よろしくお願いします」

 魔女さんはさっさと退散したいのか、楽しそうにしているイオくんを引っ張っていこうとする。すると、抵抗を示すイオくん。

「師匠!オレ、今日も出来立てキャンプ飯食べたい。食べてからでもいいですか?」

「は?!キャンプめし?!」

 一瞬とまる魔女さん。特段なにかを考えているわけではなく、最高効率で走ろうとしたのか、魔法使いさんを避けようとしたのかはわからないけど、弟子の進言で心がゆらいでいるようだ。まあ、先日のキャンプ、野営という言葉を改めるぐらいに喜んでいたからなあ。


「まあ、一日ぐらいなら…」

 一瞬で折れた!魔女さんサンキュー!イオくんグッジョブ。


 ◇


 魔法をかけたまま、明日までここで確認しつつ進めることになった。今晩は晩御飯を兄が作ってくれる。

「キャンプ飯ってなんか楽しいよな~。作って食べることに意義がある!みたいな」

 なんだかんだ人数がいるので、バーベキューになった。また竜種が増えてしまったがために、ドラゴン肉はまたもや封印。肉や野菜を串にさす作業はみんなで協力。

 

「そういえばさっきお前が久しぶりにピアノ弾いてるのを聴いてて思ったんだけど」

「何?」

 料理の手を止めずに兄が話しかけてくる。この人が改まって話してくるのってちょっと怖いんだけど。

「高校受験の時にすぱっとやめちゃったし、そのあと狩猟免許取って猟やってるってことは射出の衝撃による指への負担もあるから、もう完全にやめちゃったのかとおもったら、ブランクがものすごくあるのにピアノ割と弾けるのびっくりした。結構好きだったんだよなお前の弾くピアノ」

 あ、そこか。知らないうちにがっかりしてたのか兄よ。

「なんか、この世界に来てレベルがあがってきたら、久しぶりだけど普通に弾けたんだよね。指の筋肉復活してきたのかな?レベリングとスキルで腱鞘炎にもならない強固な肉体手に入れたら無敵だよね」

「え、そこ?!」 

「わかんないけど」

 ほんとうにおかしくて笑ってしまった。

 

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