第207話 ナット温泉郷・湯治(4)
ウララの求心力が強すぎる。
だが、カリスマ性に溢れている、ということにして、わたしに人気がない、ってことにはしないことに自分の中で決めた。
大丈夫、わたしにはかわいい弟子がいる。
風呂上り、内装がまだ適当なロビーフロアにみんなで集まり、少し涼む。
ウララののお世話を永長がし、閃閃と閃電の手綱は完全にウララが掌握、本当におとなしくなった。主の母強すぎ問題。私の周りにはチーズが来てから暫くなかった光景、アオとイオが揃って居てくれている。
みんなで仲良くアオがチーズの倉庫から拝借した牛乳を飲む。アオ曰くお風呂上りにはコーヒー牛乳とかフルーツ牛乳もおいしい、この世界で代わりとなるものを見つけたら作ってくれるって
「よし、牛乳もいただいたし、我らは一足先に西の離れに戻ろう。またな」
そう言うとウララは永長、そして虹竜たちをお供に連れて颯爽と住処へ戻っていった。2メートルの虹竜を付き従えているため見た目がとても強そうだ。
残された我々はさっき師匠が収納に余っていたというソファーに座り、よりまたゆっくりする。
「そういえば、今回キノコのせいで強制的に記憶を辿らされて改めて認識したんですけど、師匠って気に食わないこととか、嫌なことがあるとすぐに記憶切り分けて捨てるから、人によって評価がばっらばらになるんですよ。自分に対しても人に対しても」
と、何かに気が付いたようなイオに言われた。
気にしない、気にしない、気にするな。どうやら記憶を切り分けて捨てることが人に対してもできることがバレたらしい。
「その切り分けのおかげで氷那もお前たちも安心して暮らせてるんだから、そこは感謝してもらいたいなあ~」
私の使う記憶操作魔法はまた、凍結魔法による忘却とは別のベクトルで動いている。
記憶のその部分を切り分けて、捨てるのだ。
確かにアイツに関する記憶で切り分けた箱以外にも、この千年余りの間、結構捨ててきたような、気はまあまあする。ただ、アイツのことについては何をいくつ捨てたか覚えているが、その他の思いつきで捨ててきた分は全く持って、何を捨てたか覚えていない。そして今生きている人間、他者この切り分け魔法を受けているのは弟子たちの住んでいたニパ村の人間だけであるのであまり影響はない、とは思う。弟子だちの住んでいた痕跡を全部消し去ったうえで村人から記憶を奪い去って捨ててしまっている。
変に記憶を消すと何かのきっかけで思い出すことがあるが、分けて封をして捨ててしまえば記憶の出戻りはその記憶の箱を見つける以外では無理と言える。
「ニパ村の村民の記憶は放置するとして、私の捨てた記憶、戻したほうがいいと思うか?」
アイツが持ち去った記憶の箱以外は、集めようと思えば、集めることができる。
「師匠結構ふてぶてしいから大丈夫かと思うんですが、万が一何か精神的に大きな負荷がかかるような記憶が戻って大変なことになるなら、そのままでいいです。あいかわらず師匠の言動に一貫性がないことがただ続くだけなので問題はありません」
「確かに、何かがおきたときに師匠止められるのは師匠の幼馴染しかいないと思うから、それはそれで師匠は嫌だと思うので無理しなくていいです。僕たち二人がかりでも止められるきがしません。記憶を自己防衛で切り離しているなら、そのままでいいんじゃないですか?もしどうしても戻したいなら救国の魔法使い、連れてきてからにしてください」
弟子どもは本当に冷静だった。
「さっき温泉で相談してたんですけど、2人そろったので姉さんに会いにいってもいいですか?」
「お、やっと行く気になったか。いいぞ、いいぞ」
「あと、いつ庭師復活させるか、ですよね。突然温泉宿になっててびっくりするんじゃないですか?」
「じゃあ、姉さんに会いにいってから、ゆっくりとそっちはやるとして、って師匠、庭師復活のリソースは足りてます?」
思い出したようにリソースの話をする。この国の中で新規ダンジョンが2つ出現、踏破をしたことを忘れてはいないと思うけれど、ここで取り戻した力も結構ある。
「充分ではあるし、実は街ひとつぐらい復活させることは可能ではあるのだが、そうなると産業と輸出経路の確保、食い扶持をどうするか、って話にはなるのう。その辺はまあ、シンがそろそろ考えてくれそうではあるが、その作ってもらった草案を基に実際の運用となると、チーズたちも呼んで詰めないとな」
「師匠がまともなことを言っている…素を公表した反動なんだろうか…」
「師匠、言葉遣いぐらいは素でいいと思いますよ?」
「は?!チーズに続いてお前たちもそれを言うか!こんな少女の姿をとってる手前言葉遣いぐらいで威厳出した方が良いと思わないか?!」
「思いません」
「台無しです」
即答された。そんなに違和感があるのか?そうなのか…?
「……わかった検討する」
同じ顔をした弟子がふたりでええーともうえーともつかない顔をしてこっちを見ている。そんなにか。
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