第86話 シラタマ/刻の庭(9)

 未明みあかは少し前に、刻の庭へ就職したという。

 魔力が少なすぎて冒険者にはなれず、家のコネで就職したということ、今回討伐ミッションにあたり未知の減少が多いため観測を要するため記録が必要となり、そのために動員されたということ。今回の妖怪討伐ミッションは、相手が強すぎ過去何人も返り討ちにあい、手出しができないこと。また、その妖怪は西の山に住み着き、そこから動くつもりはいようなことを教わる。

「まあ、結局国の捨て駒なのかもしれません」

 そう、彼女は言い、笑顔をみせた。普通に笑ってる場合じゃないだろう。


 西の山、その名を鳳鳴山ほうめいさんという。

 首都であるシラタマ/サクラにほど近く、首都圏の作物の豊かさを割と担保しているレベルの山であったが、大きな鳥竜種が群れを成して山を占拠したために食料の採取先が突然の閉鎖となり、商売ができなくなったり、水源が抑えられた状態であったりと、国に対して大打撃となったがゆえの討伐クエストであることを未明は教えてくれた。

 まるで妹に聞いたドラゴンの厄災のようだ。ドラゴンの種類が違うこと、人里を根城じゃなくて山を根城にしたドラゴンの厄災。


 サクラから鳳鳴山まではおおよそ10キロ、そこで確かに妖怪といわれる鳥竜種が巣食い、いつサクラを襲うかわからないとなるとこの討伐クエストも腑に落ちる。そしてなぜ職員を随させるのか。国としての手柄をとりたいのだ。


「10キロも歩いていきたくないから、自転車出すよ」

 そう言って妹の収納から二人乗りファットバイクを借りる。あいつはこう、ちょっと変わったものを面白がって率先して買うところがあるので、まさかこんなお役立ちとなるとは。ただ、今回3人移動なのに1台しかないのでノリがコピー魔法を使用し一時的に2台にする。

 俺とノリの服装はTシャツとジャージ。完全にやる気だ。ついでにノリは永い髪の毛をまとめて結っている。


 変に魔法を使用して移動をすると、山に巣食う妖怪ちゃんを刺激して早々から派手に戦闘となりかねないことから人力移動を選んだ。

 目的地に近づきながら目標との連続戦闘はできなくもないが、消耗するのでやるなら一気がいい。


「よし、行くよ」

 そういって自転車に乗り込み山の麓に向け出発をした。


 ◆


 ほどなく俺たちの脚力が優れすぎているせいか、あっというまに山のふもとに到着。山はいうほど妖怪がいるようには見えない。

 借り物のバイクのコピーを解除し妹の収納へ戻す。

 俺の魔力の使い方がどうもこの世界とは別の使い方であること、別に今は現在凍結の魔女の庇護で動いているわけではないことから、あまり訝しがられる行動は使いたくないので、この世界の尺度で判断できる魔法のみを使用することにする。

 

 俺達の服装は異国にこんなのあるんだ程度に認識され、未明も当たり前のように日本の歴史の教科書から出てきたような動きやすい恰好をしてきたので、今回の登山は取り分け崖があるような難所なわけではなく、登山道については閉鎖されてそこまで経っていなかったので踏み固められたルートを使用することができたのでラッキーだったと思う。正直何もない道ですら必要があらば登らなければならないわけだし。


 そして、登山開始から20分。

「ユウ、前方500メートル、気づいてる?」

「ああ。いるな。小さな群れだ」


 索敵をしてみると大体体長1メートルの竜っぽい個体が5体。前衛隊か?

 未明みあかをノリに任せ、気配をけし近づく。


 因みに武器の持ち出しだけは手に馴染んだものをつかわないと厳しいがために、『異世界のものは使わない』の例外と定義している。

 気配を消し背後に回り込む。」

 鳥竜種とみられる目標に近づき、素早く片手剣で凪ぐ。


 呆気なく5体は霧散。魔石以外のドロップはなし。肉は残らなかった。


「さあ、次いこう次」

 そもそもこれは鳥竜種のドラゴンの厄災で、妖怪という定義であるのかどうか怪しく感じ始める。未明はあまりの瞬殺ぶりに言葉を失っていた。こんな軽い戦闘についても報告対象となるようだ。後から聞いた話では、シラタマの勇士はここで既に一定の戦力を削がれていたという前情報を聞いていたらしい。


 ついでに疑問も湧く。妖怪の定義がよくわからないけどただのモンスターなんだろうか。

 商売をここの国を拠点に展開開始する予定を立てたためもうすこしこの国のことを知ったほうがよさそうだ。

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