第87話 シラタマ/鳳鳴山(1)

 登山道は思いのほか荒れていないので、警戒レベルだけはあげた状態で先へ進む。ノリは気配を希薄にする魔法、足音を立てなくする魔法、守備力を爆上げする魔法をかけてくれている。

 紫外線防止と空調魔法もそれとなくかけてくれているので、なんたる有能。環境魔法使い。マジでSSR。

 山道にあまり慣れていない未明みあかも問題なく、ついてこれている。


 結局自分にバフはかけられても、人に細かにかけるとなると専門職には劣る。だからといってコイツは戦おうと思えばちゃんと戦えるぐらいの強さもあるので、俺みたいなちょっと人より特殊なスキルを持っているだけの器用貧乏になりがちな『勇者』って職業、生かすも殺すも支援職次第なところもあるから本人の人格はどうあれものすごくいい相棒がいてくれてよかったと思う。

 おそらくは今、未明を通して国王はこの鳳鳴山攻略戦をみているだろう。一応武器だけは見えないようにジャミングをかけているが、魔法を使い始めたらそうはいかないだろう。どう考えてもこれ、ドラゴンの厄災の平定ミッションなんだよな。

 すでに山の中腹、妹が遭遇した火竜による街そのものの大侵略と比べると、多分これは種類が違うことからくる差異だろう。そもそも竜種としてあまり派手ではない。

 まあでもきっと今日はドラゴンステーキの仕込みになるはずだ。一昼夜たったぐらいでドラゴンステーキを振舞おう。


 と、考えていたところで、急にプレッシャーを感じる。気づかれたか?!

 プレッシャーの方向をスキャン。3匹いる、そしてさっきの5匹と比べ、1.5倍ぐらいの大きさがある。

 さっきは凪いだだけで終わってしまったが、今回は別の方法を試してみよう。

 竜種は強いが、倒した時の報酬が良く、捨てるところがないのは異世界共通だと思う。そして取り出したるは、ロングウィップ。魔力を流しながら使うタイプの鞭で、鞭自体の長さは10メートルもあるので、使う人間の強さと熟練度が必要となる。

 基本料理に使用したいので、熱は現段階では加えたくない。


 そんなことを考えながら位置確認をしていたところ目線がこっちに定まった。完全に気が付かれた。

 向かってくる鳥竜種に向かって鞭をふる。3匹中1匹の首に巻き付き動きを封じる。この鞭は麻痺の副効果持ちであるため、動きを封じた竜から鞭をはずし、あとは同様に2匹も鞭を差し向け、すべてロックする。足元に転がる鳥竜種3匹はいずれも2メートル弱ぐらいのサイズ。

 そこで鉈型の剣を取り出しネックを狙い思い切り叩き切る。

 今回はサイズの都合なのか、霧散せず、肉としてきっちり残る。アイテムとして桃色の大きな魔石と付随ドロップ品も現れ、収集することができた。

 倒し方が条件なのか、妖怪のレベルの問題なのか。

 日本に生じる怪異を概ねまとめて『妖怪』と呼んできた文化に子どものころから親しくしてきたせいか、まあ、一色単にそういうのもありとはおもいつつ、違和感もある。


 とりあえず山頂を目指し、その先は竜の食肉を妹の倉庫ストックに溜めまくる。妹にはあらかじめどのような倉庫がほしいとオーダーし作成してもらっているが、俺にも思い付きで構築できる無限フリースペースが欲しい。まあ、腕は2本しかないのでどんなに頑張っても作れる料理の限界はあるから人を雇用しなければならないが。


 ◆


 山頂に差し掛かったときにそれは、起きた。

 頭の中に金切声に近い不快音が大音量で響き渡る。

 まず、未明みあかがその圧に負け、気絶する。俺とノリはまあ、普通に無事だったのだが。

「配下全部やられて殺気立ってるな」

「もうこの山には同種の竜はいないですしね」

 因みに竜種は世界的に絶滅危惧種はなく、1つの群れを狩りつくしたところで別に絶滅はしないらしい。そもそもドラゴンを倒したり、ドラゴンの厄災を蹴散らせる人間がまず殆どいない。

 泡を吹いて倒れた未明みあか、おそらく未明の眼を通じてこっちの観察をしているであろうシラタマの王との通信も切れた状態となったと思う。ちょっと監視の目なくなりのびのびするが、それと同時にこの娘の処遇がおかしくならないように、戻った後に気を遣う必要があるだろう。

 まあ、そんなことよりも、目の前からプレッシャーをかけてくる、ボスをどうにかするところから始めないと。


 そして響く、どこぞの大女優と思しきプレッシャーを感じる強い声。

『お前たちは、何をしにきた』

 貴方がいるとサクラの国の国益を損ねると聞いて討伐依頼を受けたために来ました、と素直に答えてみる。答えてみた。が、新たな問題が起こる。横にいるノリのテンションがおかしい。いや、いつもおかしいがもっとおかしい。

「ちょっと!ねえ!ユウ!竜がしゃべってるよ!!!!!」

「え、普通じゃね?」

 俺の居た異世界では、まあ、普通だった。もしかして、この世界

「私うまれてこのかた、喋るモンスターやドラゴン、見たことないですよ?!」

「マジか」

 いや、俺の万能翻訳スキルのせいか?パーティーを組んでいたせいで影響した?因みに未明は俺たちのこの世界でも異質なレベルとスキルを垣間見せるわけにもいかないという判断で、パーティーもフォローも行っていない。

『……確かに言葉が人間に通じたことは、過去一度もないな。そちは我にあだ名すものの眷属を見事に討伐したな。見事なり。助けられた。これでこの場を私も離れられる。』

 これで自由がもどってきたわ、と言う。


 要するに、俺たちが倒してきた、サクラの人たちを困らせていたドラゴンは、討伐し終わったということか?確かに、今までの竜は茶色く、この、最後に出現した鳥竜種は白い。

 ドラゴンの厄災だと思っていたこれ、ドラゴンによるドラゴンの軟禁だった、ということかもしれない。


 そしてこの白いドラゴン、抱卵している。その数、5つ。

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