第3話 Uターンしはたずが異世界の君となる(3)

 小さくも愛らしさを詰めこんだような魔法使いはこう続ける。

「もう餓死者が出そうな状況になってしまっていたため、先祖代々の付き合いがあって、産まれた時に祝福を与えてやったこともあることもあり、本当に長い付き合いじゃったためにエイヤっと引き受けて、国の凍結魔法を行使したのじゃが、まあまあ大きな不具合も出ているのだよ」


 今エイヤっていった?!おばあちゃんでも使わない気がする。

「まあ、この国の辺境に住んでいたわたしにも暴動が及ぼうとしていたから、動かざるを得なくなった。不具合は、近隣諸国にはこの国が丸ごと認識できなくなっていること、立ち入ることができないようになっていることと、住人がモヤになっていること、もれなく名前を失っていることが主たる状況じゃな」


 そこの君、自分の名前が思い出せなくないか?そう問われたので考えてみると、確かに、名前がよくわからなくなっている。ただ、名乗るのであればこれだというのは浮かんだので口にしてみる。

 

「名前はわからないけど、頭に思い浮かんだのは『チーズ』」

「そうじゃろ、そうじゃろ。大体好物などがコードネームのように浮かぶようになっているらしい。かくいう私も名前を忘れてしまった!」

 重大な事実じゃないか?!とおもって真っ青になりながら魔法使いを見たが、ゲラゲラと笑っている。

「私に依頼したこの王の名前さえ私はわからぬ。王よ、自分の名前を表すものとして何が思い浮かぶ」

 モヤが考え込むような動作をしてこう、述べた。

「水」

 水。水は大事だね。微妙な空気が流れ、そして、誰も突っ込むことをしなかった。

 そして魔女は自分自身の名は名乗らないまま、今回の事象について説明を開始した。


「異世界の君、”チーズ”と呼ばせてもらうが、お主がこの世界に来たことによる元の世界への影響は全くないので、心配は無用じゃ。お主をこちらに呼んだからくりじゃが、お前となぜかお前の土地をひっくるめてコピーし、こちらの世界に貼り付けただけなので、元の世界にもお主もお主の家もあるし、影響という影響はまったくないが、コピーされたお前自身は元の世界に戻ることはできないし、統合されることはまずないのでそこは申し訳ないがそこは割り切っておくれ。私の現状の魔力のリソースは今回の転写で尽きておる!まあ、時間をおけばチャージはされていくのじゃが。お主が復興を進めることでわたしのつかえる魔力リソースも増えていく。あとは任せたので存分に復興してくれたまえ。私がこの世界に一番適合していると見込んだ救国の力を見せておくれ。協力は惜しまんぞ」


 いまざくっと重要なことを話された気がするが、とりあえずまあ、戻れないけど安心してってことと理解しておく。詳しいことは後で考えよう。

 あと本当の名前がわからないっていうことは『うい』も本当は『うい』じゃななかったのかな。

 

「とはいっても、最初の指標はいるじゃろ。今のお前さんの家でこの国で生活していける環境をつくれ。そこがなんとかなったら隣国に拠点を構えて次のステップに進むぞ。」


 そうして、私の異世界生活が始まったのであった。

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